国内 2025.09.30

スピアーズ岸岡智樹が全国各地でラグビー教室を実施。「深刻に掲げる問題」とは。

[ 向 風見也 ]
スピアーズ岸岡智樹が全国各地でラグビー教室を実施。「深刻に掲げる問題」とは。
9月22日に28歳になった岸岡智樹(筆者撮影)

 ジャパンラグビーリーグワン1部のクボタスピアーズ船橋・東京ベイでプレーする岸岡智樹が、約3年前から実施するラグビー教室で全47都道府県の訪問を達成した。

 9月6日の東京開催で大台に乗った。当時27歳のSOが口にしたのは危機感だった。

「焦り、ですね。ここまでは『(全国横断へ)残った場所へ行こう』だけでしたが、次にどうしよう」

 東海大大阪仰星高、早大といった出身校では最終学年で日本一に輝いた司令塔は、万事を言語化する力にも定評がある。学生時代からコンテンツ投稿サービスのnoteで競技の魅力や妙味を伝えてきた。

 スピアーズ入部2年目の’21年には、地元の大阪で指導。似た活動を繰り返すうち、すべての都道府県を回る意欲が芽生えてきたという。

 全国高校大会の成績などを踏まえ、かねてこのスポーツの認知度、普及の度合いに地域格差があると感じてきた。実際に各地を回ったり、そのための準備をしたりするなか、立てていた仮説にまつわる皮膚感覚を掴んだ。

「実際に自分たちが足を運ぶことに価値があると思いました。(エリアごとの普及度合いの差が)あるのではないかという仮説が実証されました。『この県とこの県の違いはこうです』と(実感を込めて)言えることが、いまの我々の強みです」

 新たな発見もある。

「人とのコミュニケーションに見られる県民性には面白さがあります。僕が生まれた関西では近い距離感ですが、それが遠かったり、大人の雰囲気を察して動いたりといった土地ごと(の特徴)があり、それによって我々のコーチングスタイルを変えていく必要がありました。それは学びであり、次に繋げられるものです」

 足を使って勝ち取った知見を、今後どう活かすか。そう問われて発したのが、切迫感だったのだ。

「(格差を)是正できるかどうかは、我々が深刻に掲げる問題です。次のアクションをどう起こすかについては迷っています。純粋に『2周目』をしてもいいですが、それには労力がいるし、5年に1回しか会えない子どもが出てくる。一方、1か所に根差すのが正しいのかもわからない。あとは、僕自身が向こう5年間現役(選手)をやっている保証もない。活動をどこまで広げていくのか、それが継続されるのか――」

 楕円球が根付かない場所でネックになっている要素を「(グラウンドなどの)環境、(選手の)人口、お金。それをひっくるめたら競技レベルになる」と可視化し、「(これから向き合うパートを)そのうちのひとつに絞る」ことも頭にあるという。

「環境(がテーマ)だったら、大人たち指導者向けにアプローチするのもあり。いい意味で取捨選択し、そぎ落とすフェーズにあります」

 いつもは別の仕事をする社会人や学生のインターンを集め、アシスタントコーチや事務を手伝ってもらってきた。

 サポートしてくれる会社も増えた。筆頭格の大正製薬には活動費を支えられるほか、製品の提供を受ける。この日は熱中症対策のアイススラリーが、子どもたちの手に渡った。日本代表も支援する同社にとり、草の根活動に携わる意義は小さくない。

 この後押しに「いまでも『何で(協賛してくれるのか)?』と思っています。これからも貢献できるところを模索していきたい」と感謝する岸岡は、スピアーズで社員選手からプロに転じたばかり。いまは、主力選手として頂点に立つのをモチベーションにする。

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