【連載】プロクラブのすすめ㉗ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] ラグビーの未来を考える勉強会を立ち上げます!
![【連載】プロクラブのすすめ㉗ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] ラグビーの未来を考える勉強会を立ち上げます!](https://rugby-rp.com/wp-content/uploads/2025/09/ph27.jpg)
日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
27回目となる今回は、先日発表されたNECグリーンロケッツ東葛の「チーム譲渡」について、見解などを語ってもらった(9月9日)。
◆過去の連載記事はこちら
――2か月ぶりの連載です。チームの近況はいかがでしょうか。
7月から若手メンバーを中心にトレーニングが始まっています。
今季から若手育成のための大会「リーグワンライジング」(9月27日〜)も始まります。準公式戦ではありますが、試合をする以上は”チーム”に仕上げていかなければいけない。
そうしたこともあり、先週から別府キャンプもスタートしました。
別府でキャンプをおこなうのは、ブルーレヴズとしては初めてです。
藤井さん(雄一郎監督)が日本代表のチームディレクターをしていた際に、ジャパンが別府でキャンプを張っていました。環境も良く、地元のサポートも受けられます。
また、西鉄旅行さんにスポンサーになっていただき、キャンプ名も「別府キャンプ 2025 supported by 西鉄旅行」となっています。
――この2か月の間に、NECグリーンロケッツ東葛がチーム譲渡を検討するというショッキングなニュースがありました。
他クラブの事情ですので、僕がとやかく何かを言う筋合いはありませんが、非常に残念だとは思っています。
今回は(これまでのコカ・コーラや宗像サニックスのように)会社の業績悪化が理由ではありません。
ラグビーを再評価した時に、母体企業があのような判断をされたことは、ラグビー界としても非常に危惧すべきことだと思いました。
これはNECさんに限った話ではなく、ラグビーやリーグワンの価値を冷静に判断されてしまう可能性があるということ。ラグビーが好きであったり、リーグワンを応援しようという考えばかりではないのです。
リーグワンとなってから退会するクラブがすでにあるのも事実ですので、リーグワンが魅力的で価値のあるリーグ、費用を投じるに値するリーグだということを、ちゃんと示していかないといけないと警鐘を鳴らされているということです。
特にいま、リーグワンは将来のビジョンが示されていないと自分は考えます。
「あなたの街から、世界最高をつくろう。」と確かに掲げてはいますし、この理念に異論はないのですが、この「世界最高」に果たして向かっているのか。「あなたの街」といえるフランチャイズは確立されているのか。それらに向けた具体的な計画ができているのか。現状はできていないと感じています。
フェーズ3として2028-29シーズンから試合数を増やしたり、秋から6月までのスケジュールに拡張することを示してはいますが、これはマイナスをゼロにする作業に近い。最低限あるべき姿にようやくなるということです。
ただフェーズ3を実現するためには、新しい秩父宮ラグビー場が完成しなければいけないという条件もある。
そうすれば試合会場の確保がしやすくなるとのことですが、一方では新秩父宮頼みでそれがなければリーグワンの価値を高めることはできないのか、という見方もできてしまいます。
ラグビーという競技に、価値があること自体は疑いようがありません。
ただ、リーグワンが日本の最高峰のリーグとして、ラグビーの価値を最大化する仕組みとして、そしてエンターテインメントとして投資に値するものになっているかは、客観的にそして他競技と比較しながら見つめ直さないといけません。
――法人化していないクラブがチームの譲渡をおこなうというのは聞いたことがありません。
クラブを法人化していれば、また違う道筋が僕はあったと思います。
これまで日本のあまたのスポーツの歴史を見ても、企業内に属する実業団のチームは母体企業が支援を止めるとなれば消滅に近い形でなくなるか、かなりの縮小をしての活動を余儀なくされてしまいます。
バスケではいすゞやNKK、パナソニック、アメフトでは鹿島建設やレナウン、バレーボールではイトーヨーカ堂や富士フィルム、アイスホッケーではコクドや王子製紙など、優勝歴のある強豪チームであっても廃部や縮小(クラブチーム化)している。
ですが、法人化しているプロクラブは、たとえ経営危機があっても潰れるケースはかなり少ないです。
ヴィッセル神戸は楽天、FC町田ゼルビアはサイバーエージェント、Bリーグでも川崎ブレイブサンダースは東芝からDeNA、茨城ロボッツはグロービス、青森ワッツはメルコ、さいたまブロンコスはディップと、経営が厳しい状況に陥ったとしてもその価値を評価する新しいオーナーへと続々と変わっているんです。
様々なプロクラブが経営難に陥りましたが、最終的にはほとんどのクラブにおいて新しい支援先が見つかっています。
これはクラブを法人化していないと起こり得ないことなんです。株式会社であるからこそ最高責任者である社長が権限を持って迅速に支援先を探したり、株式を再評価する投資家が現れるわけです。最近では、M&A仲介会社が関わって新たなオーナーを見つけることもあるそうです。
経営が厳しい状態だと安価に取得できる可能性があるので、買い手からすると投資のチャンスという見方もできるわけです。
確かにラグビーは年間のランニングコストに相当な金額がかかります。
母体となる体力のある企業が必要であることも事実ですが、別に複数の企業で株を持ち合って支えてもいいわけです。
ただ、それは法人化したクラブでないと、物理的にはありえません。みんなでオーナーシップすなわち株式を持とうとなりませんから。
僕もリクルートの実業団アメフト部(シーガルズ)にいた時に、母体企業の変更を実際に経験しました。
1999年にライスボウル(日本一決定戦)で優勝した後、リクルートがリストラの一環で支援を打ち切るという決定をしました。ただしすぐに支援をやめるのではなく、3年間で徐々に母体企業の支援を減らしていき、3年後に支援をやめると配慮したんです。おそらくチーム関係者の働きかけもあったんだと思います。
支援を予算全体の8割、6割、4割と、3年間で段階的に減らしていくから、チームが同じぐらいの戦力を維持したいのであれば、その間に新しいスポンサー企業や母体企業を見つけなさいと。
いわば執行猶予ですよね。そこですぐに着手したことがクラブの独立法人化でした。リクルート100%出資の運営会社を設立し、クラブにかかわる人たちの主体性や独自性を高め、いつでも株式を売却できるようにしたんです。
自分もちょうど選手を引退してリクルートを退職したタイミングだったので、株式会社化したクラブに入社してアシスタントGMとしてリクルートからの支援が減っていく穴埋めするための売上を確保するべく、スポンサー企業探しに奔走しました。
その甲斐もあって、リクルートからの支援が年々減る中でもチームの戦力を維持でき、実際に最後の3年目には再度ライスボウルにも出場できました。その成績もあってその後にオービックという会社が支援を名乗り出てくれました。
その後はオービックさんが株主となり、メインスポンサー企業としても支援を継続してくれたおかげで、後にライスボウルで何度も優勝することができ、現在も強豪クラブの一角を担っています。
まだクラブに価値があるうちに法人化して、母体企業が支援をやめることを段階的にソフトランディングさせ、チームの戦力や価値を維持してあらたなオーナーに引き継いだというひとつの事例だと思います。
リーグワンとしては、(今回のNECの撤退を)一つのクラブが離脱するということだけの問題ではないと認識するべきです。
クラブの主体性を高めることで価値を拡大し、そしていざという時にクラブのオーナーシップの流動性を担保するためにも、早期にリーグ所属クラブの法人化を義務付けることをやはり検討すべきだと思います。