ライバルの挑戦も応援。日本代表で肉体再構築の為房慶次朗がPNC制覇狙う。

過ごし方がよかった。
ラグビー日本代表の為房慶次朗は、7月中旬からの約5週間で体質の変化を感じた。脇腹をつまんで体内の脂肪量を測るスキンフォールドを通し、余分な肉が落ちたとわかった。
6月20日からのキャンペーンを終え、活動を再開する8月15日までの間は所属先のクボタスピアーズ船橋・東京ベイのグラウンド、ジムに通った。
代表側のスタッフに渡されたウェイトトレーニング、ランニングのメニューに没頭。食事も自炊中心で、筋肉を育てるメニュー構成を心がけた。
たくさんのたんぱく質を採るには鶏むね肉、鶏ささみ肉が効果的とされるが、そればかりでは「飽きてくる」からと「豚肉」をよく口にした。
「結構、適当なんですけど、生姜焼きとか、しゃぶしゃぶとか」
自分の身体と向き合った背景には、反省があった。
6月1日までの国内リーグワンを準優勝で終えるまでの間、レギュラーシーズン中の調整に注力するあまり十分に鍛錬できなかった。
その流れで迎えたのが7月5、12日の対ウェールズ代表2連戦だ。
24-19で勝った初戦は、持ち場の右PRでリザーブに入りながらも出番がなかった。
「チームが勝って嬉しかったんですけど、出られなかった悔しさがあった」
スターターに回った2戦目も、3-21とビハインドを背負っていた前半37分に交替。最前列に入った他の2人とともに、ベンチに退いた。22-31で敗れた。
「前半の途中で代えられてしまって、試合も負けてしまった。(エディー・ジョーンズヘッドコーチには)『流れを変えるには、スクラムで(1列目を)代えるしかない』と説明されました。最初からスクラムを押せるように練習していかなきゃな、とは思いました」
次なるターゲットである国際大会のパシフィック・ネーションズカップ(PNC)を見据え、マインドチェンジを図るのは自然だった。
「今回、いい状態で合宿に入れるように、食、運動を考えました」
その結果がよかったと話したのは8月22日。都内でのポジション別キャンプを経て、チーム全体での宮崎合宿に突入して6日目のことだ。
全体練習後、自分たち最前列のポジション選手だけで走り込みとタックルを混ぜ合わせた練習で息を上げ、その直後にフィジカリティの充実を語った。
次のゲームは30日、宮城・ユアテックスタジアム仙台にカナダ代表を迎える。PNCの予選プール初戦に挑む。
一戦必勝に集中するのを前提としながら、大会における焦点が優勝争いであることも自覚していよう。昨年9月21日のPNC決勝では、フィジー代表に17-41で敗れた。国内の東大阪市花園ラグビー場で、中盤に突き放される展開だった。
今度は2戦目以降をアメリカでおこなう。現在世界ランクで5つ上回る9位の通称「フライング・フィジアンズ」と再戦し、リベンジを果たすには何が必要か。
チームの目指す動きを80分間やり切るための理解力、忍耐力が肝だと為房は話した。
「前、後半を通して、全てのところで勝つ」
強豪国の破壊力を抑えるための組織防御は、ギャリー・ゴールド氏が整備を進める。6月よりオブザーバーとして参加し、この夏より正式にアシスタントコーチとなっていた。
スピアーズの藤原忍は、ゴールド氏の説くシステムには自軍のスコット・マクラウドアシスタントコーチの唱えるそれと共通項があると指摘。為房は「しっかり、内(接点の周り)からプッシュ(圧力をかける)ところは似ているかもしれないです」と頷き、こうも述べる。
「意識して(列を作って)前に出ることを、皆でできていると思います」
最前列で組むスクラムも重視する。大会全体の展望として、身長180センチ、体重108キロの23歳はこう言い添える。
「世界で戦っていくにはスクラムで勝っていかないと。もともとの自分の強みでもあるので、どんどん伸ばしたいです」
同じポジションのライバルとも仲がよい。初選出された昨年から定位置を争ってきた4学年上の「TK」こと竹内柊平とは、トレーニングの合間に宿泊施設の温泉コーナーへ足を運ぶ。
ちなみに竹内によると、ジャパンのPR陣の一部はキャンプ中に「風呂部」を編成。館内にいくつかある浴場を回るのが楽しみだという。為房は朴訥とした口調で「TKさんはお喋りなので、どんどん喋ってくれます」と笑わせた。
「常に、一緒にいますね。『今日の練習、しんどかったな』とか、『さっきのスクラムは○○だったな』とは、プライベートなことも」
ウェールズ代表戦に向けた活動期間中、竹内は海外クラブとの契約にもチャレンジしていた。
もともと所属していた浦安D-Rocksは6月までに辞めた。ナショナルチームの過密スケジュールの隙間を縫い、現地の代理人、フランスの強豪チームの幹部とオンラインで面談した。
結局は不成立となり、東京サントリーサンゴリアスへ加わった先輩の姿を、後輩はこう見ていた。
「ほんまに頑張って欲しかったのですが、直前でだめになって…。本人も悔しがっていましたし、僕も悔しい思いがありました。…でも、(国内の)リーグワンで勝負できるのが楽しみです」
まずは宮崎にいる4名の右PR同士で、桜のエンブレムの3番、18番を奪い合う。