日本代表 2025.08.16

日本代表・伊藤鐘史アシスタントコーチ、弟のメンバー入りにも「フラット」。

[ 向 風見也 ]
日本代表・伊藤鐘史アシスタントコーチ、弟のメンバー入りにも「フラット」。
取材に応える伊藤鐘史アシスタントコーチ(筆者撮影)

 ラグビー日本代表が再始動した。

 第2次エディー・ジョーンズヘッドコーチ体制の2季目に突入した今年は、7月の対ウェールズ代表2連戦を1勝1敗としていた。

 しばしの充電期間を経てのリスタート。8月15日からの2日間は、2拠点でポジション別のキャンプをおこなう。30日から日本、アメリカなどで、国際大会のパシフィック・ネーションズカップ(PNC)に挑む。

 今回はBKが宮崎でキャンプを始める一方、FWは都内で始動した。攻防の起点となるスクラムやラインアウト、複数名が塊を作って動くモール、試合で多く見られる接点でのバトルを重点的にチェックする。

「エディーには『FWのコネクション、絆を作って欲しい』と言われています。FWって、絆が深くないと強くならない。疲れた時に鼓舞し合う、何かがあった時にリーダーが円陣を組んで締め直す…」

 こう語るのは伊藤鐘史。今年就任のアシスタントコーチだ。大柄な選手を揃える列強国を見据え、具体的なタスクについても言及する。

「まず僕がやらなくてはいけないのは、空中戦(ラインアウト)でのボール獲得。もうひとつはモールディフェンス。強豪国はジャパンに対してフィジカルで勝負してきて、モールを組む回数も増えるので。それは空中で防ぐことも、地上で対抗することもできる。まだまだ改善は必要ですが、7月はモールでゴールラインを割らせてはいない。ある一定の成果は出ました」

 自身の言葉通り、ラインアウトとその周縁を教えるのが得意だ。ラインアウトを起点としたモールには、新機軸を導入する。

 キーワードは「パンチ」。捕球役にあたるジャンパーの着地とほぼ同時に、それを前後で支えるリフターが相手防御へぶつかる。モールに推進力をつける。

「モールは最初に少しでも前に出ると勢いが生まれる。ランディング(着地)の瞬間を、狙いたいんです」
 
 ここで「パンチ」を打つ選手が、ボール保持者より前で働いていると見られれば、反則の対象となる。

 そのため試合本番では、「パンチ」を繰り出すタイミングや使用可否について再検討が必要だろう。

 しかしいまの導入段階では、細かいことは気にせずあえて極端に刷り込む。

「(「パンチ」を)使う試合、時間帯については熟考しなければいけませんが、いまはベースを作り、手応えを得られれば選手が自信を持ってくれる」

 左PRの木村星南は補足する。

「モールでどうモメンタム(勢い)をつけるか(の一環)。まずは(ボール保持者を含む)前の3人で、最初の立ち合いに負けない。そして2列目の選手がヒットした圧をもらって…(一気に前に出る)という目的です」

 チームに必要な技術、団結力を養う伊藤は、指揮官からのレビューでも気を引き締める。

 伊藤は現役時代、ジョーンズの第1次政権にあたる日本代表でプレーしていた。2015年には、ワールドカップイングランド大会で南アフリカ代表などから歴史的3勝。引退後は母校の京産大でコーチ、監督を歴任し、2021年からリーグワンの三重ホンダヒートの指導陣に入っていた。

 いずれ携わりたいと思っていた国代表の集団からは、ヒートのコーチングスタッフだった昨季終盤頃に声がかかった。

 オファーを引き受けてからは、寝る間も惜しんで働くジョーンズのもとで献身する。

 今回の計2日のFW合宿でも、ジョーンズのクオリティコントロールがあるという。

 初日の午前練習前には、パソコン越しにミーティングに臨んだ。その時間は、翌16日も設けているようだ。

「コーチもタフでなきゃいけないと、自分に言い聞かせています」
 
 指示をもらうだけではなく、意見も示す。

 ウェールズ代表戦後、週に1度のペースでボスとオンラインミーティングを開催。お互いが共有するリストをもとに、選手選考について語り合った。

 日本出身で身長190センチ以上のLOを探しているとジョーンズが話す流れで、ピックアップされたのは伊藤鐘平だ。

 コーチである伊藤の17歳年下の弟である。所属する東芝ブレイブルーパス東京でワーナー・ディアンズ、リーチ マイケルといった猛者とFW第2、3列の定位置を争っており、ウェールズ代表戦のあったキャンペーン時はニュージーランドへ留学していた。

 ナショナルチームで「選手全員を弟だと思っている」と微笑む伊藤は、「フラット」な立場でエールを送る。

「『ディフェンスでのラインスピード(出足)はいい強み。それを活かしながら、タックルのクオリティも伸ばしたいね』。彼とは1対1のミーティングでそう伝えました。(現状は)彼にとってはチャンス。それを掴めるかは彼次第です」

 2日後には宮崎へ移動し、BKと合流する。

 さらにPNCでは、9月6日の2戦目以降のゲームをアメリカで迎える。自身の妹が同国在住とあり、大会期間中は3きょうだいの母も現地にいるとのことだ。

 現在ジャパンに名を連ねる37名中、渡米できるのは30名だ。シビアな競争はすでに始まっている。

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