日本代表デビュー戦でフル出場の紙森陽太は「メンタル」と「低さ」が「武器」。

日本代表デビュー戦でフル出場。キャリアが問われるうえ、身体に負荷のかかる左PRの位置でこの大仕事をやり抜いたのは、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの紙森陽太である。
7月5日、福岡のミクニワールドスタジアム北九州。対ウェールズ代表2連戦の初戦に先発した。炎天下、24-19と僅差で勝った。ジャパンが伝統国に勝つのは2019年以来だった。
殊勲の人は振り返る。対戦チームを「さん」付けにするあたりにらしさがにじむ。
「初めてのテストマッチでウェールズさんとやるのは正直、緊張していて、(キックオフの)笛が鳴ってからも心臓はバクバクしていたんですけど、それは暑さ、しんどさとともになくなりました」
驚くべきはそのプレータイムだ。50~60分で交替するのが一般的なポジションにあって、最後までフィールドで献身したのだ。出身の近大でも同じような起用があったとはいえ、それを代表戦で成し遂げたことで驚かれた。
引き上げたロッカールームで500mlペットボトルの飲料水を4本、一気に飲み干したものの、体重は約「2~3キロ」、減った。
「試合直後は嬉しくてあまり疲労は感じなかったんですけど、宿舎に帰ったら『あ、めっちゃ疲れたな』と。(出身の)近大時代は大体、80分(フルタイム)だったのでそれを思い出してアイスバス、お風呂に入ってリカバリーしました」
異例の起用法には理由があった。この人がスクラムで見せ場を作ったためだ。
対面の右PRのスターターは、28歳のキーロン・アシラッティだった。身長188センチ、体重120キロと大きかった。
大阪府出身の26歳は、ひるまなかった。身長172センチ、体重105キロと国内シーンにおいても小柄でありながら、本数を重ねるごとに優勢に立った。
HOの原田衛、右PRの竹内柊平と繋がり、2列目以降の押しを向こう側へ伝えた。左からせり上がる形を多くした。
「竹内さん、衛とどういう方向性で行くかを話し合いながらできました。常に押していくマインドでいました」
大型選手に組み勝つ秘訣について、こう言い添えた。
「『この相手、でかいから勝てないなぁ…』と思っちゃうと、正しいいい姿勢が取れない。『絶対、勝ってやる』というメンタルが大事です。僕自身も、日本代表も低さが武器。それをしっかり出せば、勝てる」
最高気温34度で蒸し暑い会場にあって、メインスタンド上段のエディー・ジョーンズヘッドコーチは叫びに叫んだ。「シーバ! シーバ!」。ジャパンのスクラムのキーワードには「芝」があった。膝を地面とすれすれの位置まで落とし、低い位置で耐えるべしという意味だ。
ノーサイドの後、スタンド下のミックスゾーンで紙森は笑う。はるか高い位置からの指揮官の声は聞こえなかったものの、「僕たちも芝、芝と言っていました。そこは一体感、ということで」。慎ましく微笑ましい。
12日には兵庫・ノエビアスタジアム神戸で2試合目に挑む。リベンジに燃えるライバルを見据え、紙森はスクラムをよりよくし、それ以外の課題も解決したいと語る。誠実で前向きだ。
「最初から『いい絵を見せる』ようなスクラムを組みたい。『いい絵を見せる』の他の言い方だと…。レフリーさんから見ても勝っているとわかる組み方をしていきたいです。フィールドでは、ブレイクダウン(接点)で激しさを出したいです」
さかのぼって6月下旬。メディアに公開された宮崎合宿のトレーニング中、紙森は一時的に別メニューで調整した。
後日のオンライン取材でその件を聞かれると、ゲームには万全の状態で臨めたと説いた。
記録された動画では一部、音が切れていたものの、締めに「ご心配をおかけしました」と頭を下げているように映った。