勝者はフィジカルとフットワークに活路。敗者は精度に泣く。プレーオフ決勝詳報。

シャンパンをグラスに注ぎ損ねる様子に似ていた。
昨季王者の東芝ブレイブルーパス東京は、パスの受け手の周りに複数名が走り込んでは多角度のパスを繰り出す。2季ぶりの頂点を狙うクボタスピアーズ船橋・東京ベイ自慢の堅陣を首尾よく切り崩し、その一員たるPRの紙森陽太にこう言わしめた。
「的が絞りにくいようなアタックで相手のモメンタム(勢い)が生まれてしまった。全員がスピードをつけて走り込んできて、全員がオプションになっていた。うまくずらされたと感じます」
大型選手を横一列に揃えるスピアーズの「人と人の間」へ球を通し、個々の破壊力を最大化しながら大胆に球を動かすのが狙いだ。
なかでもCTBの眞野泰地は前半8分、SOのリッチー・モウンガが先制するまでの流れで好突進、渋いおとりの動きを披露した。「フィジカルで勝れば自分たちのラグビーができる」とし、こうも述べた。
「フットワークで勝れると思った。1対1でずらして前に出られれば、数的優位を作れるかなと」
つまり、弾ける光沢のあるアルコールのような刺激を観客に示した。ただ、逆三角形のグラスの泡をぐいと飲み干す様子とは程遠かった。
たくさん攻めているのに、ロースコアの戦いを強いられたのだ。
敵陣22メートルエリアで落球、パスミスが重なった。
今度こそはと思わせたのは、15-6とわずかなリードで迎えた後半16分あたり。左大外でのオフロードパスを連発し、逆側へ細かく展開した。ここでも、ビデオ判定でトライはならなかった。
硬直状態にあってスピアーズが息を吹き返したのは、18-6となった後半20分以降だ。この午後序盤から好カバーなどで光ったSHの藤原忍が、右奥側への攻撃的なキックでエリアを獲ったのが22分頃。その後の攻防でブレイブルーパスの反則を引き出し、24分、敵陣ゴール前左でラインアウトの機会を得る。
看板の大型選手がモールを組み、さらにペナルティーキックを獲得し、再びラインアウトとモールの合わせ技でトライラインになだれ込もうとする。
ここで集中力を発揮したのが、さながら飲み足りない様子のブレイブルーパスだった。
塊ができる瞬間、隙間という隙間に突き刺さる。スピアーズはモールを諦めラックの連取を試みるも、ブレイブルーパスのNO8で主将のリーチ マイケルが低空のタックルを繰り出す。
すかさずLOのジェイコブ・ピアスがスティール。攻守逆転。スピアーズはおよそ8分後に18-13と迫れただけに、少機を逃したこの瞬間がかえって悔やまれた。
NO8として開始早々のキックオフタックルを皮切りに献身したファウルア・マキシは、こう言葉を絞った。
「自分たちのプランは間違ってなかった。ちょっとしたところで自分たちの力が足りなかった」
ノーシードのスピアーズは、レギュラーシーズン終盤戦から通算して6連戦とタフな状況にあった。かたや準決勝から登場のブレイブルーパスは、連覇の期待される重圧のため別な意味でタフだった。
衝突局面で渋く輝いたリーチは「勝った瞬間は、ほっとしました。プレッシャーが凄くて」。要所での好ランではっきりと輝いたモウンガは、その夜シャンパンではなく焼酎を嗜んだ。