スピアーズのトゥパ フィナウは「Die for the team」。目標達成へあと1勝。

　相手は自分たちの何が嫌か。クボタスピアーズ船橋・東京ベイのフラン・ルディケヘッドコーチは、その視点で短期決戦のメンバーを編む。

　レギュラーシーズン12チーム中3位で臨んだ5月からのプレーオフでは、3戦続けてリザーブのポジション構成でFWに6人、BKに2人を配する。それぞれ5人、3人が一般的とされるなか、チームが数多く擁する大型FWの接点での圧力、推進力を最大化したいためだ。

　6月1日の決勝も然り。首位通過となった東芝ブレイブルーパス東京を都内の国立競技場で迎えるにあたり、前日会見でこう述べた。

「（試合の）ラスト20分にどれだけ影響を与えるかを考えました。東芝さんのようなボール・イン・プレー（動く時間帯）の長いチームとの試合は、総力戦になる。運動量を鑑み、FWを6人、置いている」

　采配は当たっている。接戦に投じられたファイターがスクラム、タックル、衝突局面で働き、接戦をものにしてきた。

　この隊列にあって渋く光るひとりに、トゥパ フィナウが挙がる。

　身長190センチ、体重115キロと丸太のような体格の35歳は、第3列のFLでスタンバイ。

　18日、東大阪市花園ラグビー場での準々決勝では、後半14分に登場した。折しも、東京サントリーサンゴリアスに10－12と勝ち越されていた。

　公式戦100試合出場という記録を達成し、「感謝。達成までに随分と長くかかりました」と微笑みながら、「記録よりも勝つことにフォーカス」。同21分頃、グラウンド中盤右中間のラックへ複数名で殺到した。向こうの反則に伴い敵陣ゴール前に進み、約４分後までに17－12と逆転した。

　直後の26分頃には、自陣ゴール22メートルエリアで中央やや左寄りの位置でスティールに成功。得点して早々に迎えたピンチを切り抜け、最後は20－15で白星を掴んだ。

「自分たちに勢い取り戻すためにと身体を張りました」

　25日には東京・秩父宮ラグビー場で、レギュラーシーズン2位の埼玉パナソニックワイルドナイツと激突した。

　トゥパが出てきたのは後半19分だ。一時15点リードのスピアーズが24－25と迫られていたタイミングだった。

　スコアが動かぬまま迎えた30分頃。自陣で好突進を披露した。オフロードパスを繰り出し、受け取ったHOのマルコム・マークスが鮮やかなキックで陣地を挽回した。

　腕相撲のようなバトルを28－24で制したクラブにあって、殊勲のベテランはあえて極端な言い回しで忠誠心を語る。

「Die for the team――チームのために死ねる…そう言えるくらいです」
　
　トンガ出身。2013年に来日した。現三重ホンダヒート、現横浜キヤノンイーグルスに黎明期と言えるタイミングで在籍し、’19年に加入のスピアーズではマネジメント層と選手の距離の近さに感銘を受けた。

　家族の体調が悪化したある日、自分から練習欠席を申し出る前にフラン・ルディケヘッドコーチのほうから自宅へ帰るよう促してくれた。心の底から献身を誓えるのは、上司に様々に気遣ってもらっているからだ。

「過去にいたチームと比べるとチーム文化に重きを置いている。全員の距離感がタイト。またスピアーズの好きなところのひとつに、ファミリーファーストの考え方があります。そもそもの入団理由もそこにあります。わかってくれる人のためには、全力で…となるものです」

　クラブ関係者が胸を張るのは、「外国人選手の契約延長率」。心理的安全性と競争意識を両立させるグループが「助っ人」をチームマンに変え、そのチームマンが新たなチームマン候補を引き上げる。

　昨年日本代表になったPRのオペティ・ヘルは、トゥパが自身の妻の弟だった縁からスピアーズへ紹介していた。

　原石から大駒となった身長190センチ、体重127キロの26歳は、練習生時代から慕ってきた先輩を貴ぶ。

「本当の兄だと思っています。まさか自分がプロになるとは思わなかったなか、彼は複数のチームを渡り歩いた経験を私にフィードバックしてくれています。オンフィールド、日常生活と大事なことを教えてくれた。家族の面倒を見なさい、身体のリカバリーをしなさい、オン・ザ・フィールドでどれだけ集中して100パーセントでできるかが大事だ、と。厳しいけれど、ありがたい存在です」

　慕われる人がスピアーズへの恩義を語ったのは、今年2月の取材機会でのことだ。「こういうインタビューを受けるのは初めて」と戸惑いつつ、目標を聞かれれば即答した。

「優勝する、その一員となりたい」

　ミッションクリアまであと1勝である。