プレイヤー・オブ・ザ・マッチを獲得。スピアーズ藤原忍のプレーオフ準決勝。

賢さとタフさを示した。激闘にあって殊勲者と讃えられたひとりは、昨年、日本代表デビューを果たした26歳だ。
5月25日、東京・秩父宮ラグビー場。国内リーグワン1部のプレーオフ準決勝があり、レギュラーシーズン12チーム中3位でノンシードのクボタスピアーズ船橋・東京ベイが同2位でセミファイナルから登場の埼玉パナソニックワイルドナイツを28-24で下した。
プレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたのは藤原忍。勝利チームの先発SHだ。
日本一を争うトーナメントは優勝した一昨季以来。頂点に立った後に代表戦を経験していたのがよかった。かつてと異なる心持ちだという。
「代表を経験してから、自分に余裕は出てきているのかなと。プレッシャーはあまりかからない」
チームの求める動きに沿い、要所で活躍した。「試合の入り、10分が大事」とキックオフを迎えると、自軍キックオフのボールが放たれた先へ集団で圧をかける。
向こうの蹴り返しを受けてのカウンターアタックでは、右大外に展開。その流れを支えた突進役とサポート役の鋭い出足は、そのまま高水準のままだった。藤原は感謝する。
「球出しがしやすかった。寄り(走者へのサポート)も速かったんで」
まもなく向こうの隙を突く形で、敵陣22メートルエリア右でラインアウトをゲット。パワフルなボール保持者が間髪入れずに壁にぶち当たり、最後は南アフリカ代表HOのマルコム・マークスがフィニッシュ。5-0。
7分には5-3と迫られるが、10分、藤原がシンプルなトライでスタンドを沸かせる。
敵陣10メートルエリア中央の相手ボールスクラムから、右へパスが連なる。そのコースをなぞって走る藤原は、ちょうど目の前の選手が蹴った球を両手で弾く。それを追いかけ、拾い上げる。フィニッシュ。直後のゴール成功で12-3。
「スクラムからのディフェンス。どういう立ち位置(を取る)かは決まっていた。(相手が)キックモーションに入ったところでチャージに行って、たまたま…です」
14分には12-10と迫られたが、29分の連続攻撃でペナルティーゴールを引き出す。15-10。さらにその直後のキック合戦でも、藤原が光る。
自陣22メートル線付近右からハイパントを放ち、味方WTBのハラトア・ヴァイレアに捕らせる。ヴァイレアの作ったラックへ到達すれば、いったん左へパスを回し、中央の接点から右奥の穴場へ鋭い弾道を繰り出す。
「『(受動的に)蹴らされるキック』じゃなく、『(主体的に)プレッシャーをかけるキック』をしていこう」
その意識のおかげで、ワイルドナイツがボールを後ろへそらす格好となった。
駆け戻った選手のタッチキックにより、スピアーズは敵陣10メートル線あたりの右端でラインアウトをもらう。モールを組む。球を繋ぐ。
CTBのリカス・プレトリアスが左大外を駆け抜けると、敵陣22メートル線を越えたあたりでペナルティーキックを手繰り寄せた。
この時、接点に突っ込んできた相手の頭が藤原の頭にぶつかったが、本人は「大丈夫です。痛かったですけど」。32分の得点機を逃さず、自ら2つ目のトライをマークした。コンバージョン成功に伴い、22-10とした。
後半は長らくワイルドナイツに攻め込まれたが、総じて守りでがまんできた。
スコット・マクラウド新アシスタントコーチと作り上げた防御システムを、終始、機能させた。横一列の分厚い壁を敷き、1人のランナーを2人のタックラーが抑え、肉弾戦に圧をかける。攻めのテンポを鈍らせる。
SHの藤原は大外のWTBがせり上がった場合のカバー、ラインの背後に蹴られたボールのケアを主業務とする。
この午後はピンチを防ぐほど、「(必要な指示の声が)それも全部、聞こえました。コミュニケーションが取れていました」。自身も自陣ゴール前でのタックル、絶妙なフェアキャッチを披露し、僅差での勝利に喜ぶことができた。
6月1日は東京・国立競技場で決勝戦に挑む。ディフェンディングチャンピオンの東芝ブレイブルーパス東京には、藤原が天理大で大学日本一になった時の同級生がいる。
司令塔団を組んだ松永拓朗はFB、いまでも自宅に遊びに来るという小鍛冶悠太は右PRとしてメンバー入りの可能性がある。藤原は、友人の連覇を阻止したいと微笑む。