今季初出場で渾身のスティール2発。準々決勝で輝き放った神戸S・PR渡邉隆之

大一番で大きな仕事をやってのけた。最終節に続く同カードの連戦となったリーグワンプレーオフ準々決勝の静岡ブルーレヴズ対コベルコ神戸スティーラーズ戦。35-20で1週前(23-29)の雪辱を果たしたスティーラーズの殊勲者のひとりが、背番号18の右PR、10日後に31歳の誕生日を迎える渡邉隆之だった。
後半6分過ぎ、先発の山下裕史に代わってピッチに登場するや、直後のブレイクダウンで相手ボールキャリアに絡んでノットリリースザボールのペナルティを獲得。28分にも右タッチライン際でスティールを決めてチームの危機を救った。最大の焦点だったスクラムでも、互角以上に渡り合って主導権を譲らなかった。
実はこの試合が今季初のメンバー入りだった。チーム内では山下裕史、具智元というリーグ屈指のタイトヘッド2人との競争が日々待ち受ける。決して自分のコンディションも悪いわけではなかったが、なかなかチャンスは巡ってこなかった。
「負けた、とはいいたくないんですけど、ヤンブーさんもすごいですし、具もいますし、その競争の中で、3番手になっていた」
それでもこの重要な一戦でリザーブに名を連ねられたのは、Bチームで懸命にトレーニングに取り組む姿がスタッフ陣に認められていたからだろう。自身を抜擢したデイブ・レニーHCの判断を「勇気あるな、と思いました」と笑顔で振り返りつつ、メンバー入りが決まった時の心境をこう明かす。
「ずっとメンバーに入るために努力してきたので、素直にうれしかったし、やってやるぞ、という気持ちになりました。もちろん不安はありましたし、緊張もしました。でもメンバー外で一緒にやってきた仲間たちがすごく喜んで、いろいろ声をかけてくれて。最後は僕がこれまでやってきたことを出すだけだ、と。勝ってホッとしています」
勝負の要点であるスクラムでは、組み合う前のせめぎ合いに重点を置いて準備してきたという。
「先週の試合ではスクラムが劣勢だったので、全員で意識を変えて取り組もうといってきました。具体的にはバインドのファイトのところで絶対に下がらないようにしよう、と。ブルーレヴズはスクラムにかけてくる。そこでファイトしないと負けてしまうので、絶対に下がらないぞ、という気持ちで組むことを意識していました」
2本のスティールについては、「必死というか。ただただ目の前のファイトに勝とうと思っていて、それがたまたまスティールにつながった」と語る。ここでも要因に挙げるのは、激しいチーム内競争だ。
「普段からガズラ(ブロディ・レタリック)やヴィリー(・ポトヒエッター)らすごく強いFWとやっているんで。その成果が出たかな、と」
東海大学3年時の2015年に練習生として日本代表合宿に招集され、同年8月のウルグアイ戦でテストマッチデビュー。その数週間後に南アフリカ代表を撃破するW杯スコッドのバックアップメンバーにも名を連ねた。これまで獲得したキャップは10を数える。
2017年のアイルランド戦を最後に国際舞台から遠ざかり、近年はスティーラーズでもなかなか出場機会をつかめないシーズンが続いていたが、この日の33分あまりで見せたパフォーマンスは、大学時代から「間違いなく日本代表の3番を背負う存在」と評されてきた逸材のポテンシャルを、あらためて思い起こされるものだった。
1週後の準決勝では、リーグ戦首位通過の前年度王者、東芝ブレイブルーパス東京と対峙する(5月24日14時5分キックオフ@秩父宮ラグビー場)。目指すはもちろん2018年のトップリーグ以来となる日本一だ。表舞台に帰ってきた大器が、スティーラーズの勢いをさらに加速させる。