「わくわくのレベル」が高まる。ブラックラムズ、異なる「なぜ」がぶつかる大一番へ。

大一番。どう捉えるかを定めた。
話すのはタンバイ・マットソン。リコーブラックラムズ東京の新ヘッドコーチだ。5月2日、都内の本拠地で最終調整を終えていた。
東京・味の素スタジアムでの国内リーグワン1部・第17節を翌日に控え、こう発したのだ。
「チーム内でわくわくのレベルが高まっている。プレーオフに行くのなら、明日は勝って帰らなければ」
対する東京サントリーサンゴリアスは、旧トップリーグの頃から不成立のシーズンを挟んで7季連続で4強以上。2017年度以上の日本一を至上命題とする名門で、目下12チーム中6位と5月中旬からのプレーオフ行きへボーダーライン上にいる。
一方でブラックラムズは、前年度12チーム中10位で下部との入替戦により残留。昨季までほとんどの戦いでプレーオフ進出圏内だったベスト4以上には、トップリーグ時代突入後は一度も達していない。
いまは8位ながら、6位のサンゴリアスを勝ち点8差で追う。次節を含めた残り2戦の結果次第で、6傑からなる日本一争いへの切符を掴める。
現役時代にフィジー、ニュージーランドの代表キャップを誇り、日本でプレーやコーチングをした経験のあるマットソンは、「なぜ相手が勝ちたいのか。なぜ我々が勝ちたいのか。そういう、話をしています。それぞれ、違う理由なのです。明日は、その、なぜ、のバトルになる」。昨年12月28日に東京・秩父宮ラグビー場での第2節でサンゴリアスを制したのを踏まえ、こうも続けた。
「私たちは1シーズンで2度サンゴリアスに勝ったことはありません。また、(近年は)6位以上でリーグを終えたことがない。こちらにはわくわくする理由がたくさんある。相手はリスペクトすべきチームです。ただ、向こうは、期待という重しを背負って戦っているはずです」
上位を競ってきた経験値で向こうに分がありそうだとしても、泰然自若としている。
「どちらかと言うと、(選手には)チャンスに対する高揚感について伝えています」
壁を突き破るのに貴重な切り札がいる。
アイザック・ルーカス。シーズン途中の怪我で想定より長い戦線離脱を余儀なくされるも、順位争いの白熱化する第15節でカムバックした。
4月15日、千葉・ゼットエーオリプリスタジアムで後半11分に登場し、攻守で鋭さと運動量をアピールした。トヨタヴェルヴリッツを37―7で下した。
26日には敵地の熊谷ラグビーで、首位の埼玉ワイルドナイツを相手に先発フル出場。この第16節を21―27と7点差以内にして勝ち点1を掴んだことで、現在の位置にいる。
一昨季まで2度のベストフィフティーンに輝いたFB兼SOのプレーメーカーは、雌伏の期間も前を向いてきた。
しばらくフィールドを離れてもさほど試合勘が鈍らなかったのは、新指揮官の想像力のおかげだと感謝する。
「(いつも拠点での)リハビリ後、タンバイがパスやキックなどできる限りのこと(スキル練習)を一緒にしてくれました。ラグビーボールがどんな感覚だったか、一瞬たりとも忘れずにいられました。他の長期の怪我人とも一緒にしています。彼も高いレベルで現役生活を送っていたから、色々と理解できていると思います。故障中でもチームに貢献できたり、ラグビーがうまくなれたりするという気持ちにさせてくれます」
伝統的に「アグレッシブ・アタッキングラグビー」を部是とするサンゴリアスとのバトルへ、マットソンは「ボールを持って戦いたいチーム同士の対戦。正確に、長い時間、ボールを持っていたい」。3日の80分を特別なものにすべく、ルーカスのパス練習をサポートしてグラウンドを引き上げた。
