「勝つには、繋がるしかない」。イーグルス嶋田直人、引退までのカウントダウン。

ラストスパートをかける。
国内リーグワン1部の横浜キヤノンイーグルスは4月19日、東京郊外にあるキヤノンスポーツパークにいた。
普段活動する通称CSPで、同2部の清水建設江東ブルーシャークスと練習試合をした。
1部のレギュラーシーズンが休息週にあたるこのタイミングで、「ライザーズ」と呼ばれる控え組が主体となってフィールドに立った。
ゲーム主将は嶋田直人。もともとは主力格の33歳だ。
4月12日の第15節を、脳震盪のチェックのため欠場していた。長崎・ベネックス総合運動公園で三菱重工相模原ダイナボアーズに28-38で敗れるのを、見守るしかできなかった。
まずは実戦感覚を取り戻し、27日のレギュラーシーズン再開を迎えたかった。
さらに…。
「プレシーズンの時期は、いまのライザーズの選手と同じチームでやることが多かった。皆が頑張っているのを知っている。何か一緒にひとつのことをして、同じ気持ちになれたらなと」
現在12チーム中7位。昨季より2つ増の6チームが進めるプレーオフ行きへ、もうひと踏ん張りする必要があった。
ここで生来誇る団結力をリマインドするのが、トレーニングマッチの狙いのひとつか。前年度まで2季連続4強入りを果たすまで、イーグルスのレギュラー組は何度も「ライザーズ」のエナジーに背中を押されてきた。
ブルーシャークス戦のスコアは106-0。その中身に手応えがあったと、嶋田は言う。
「もう1回、チームにエナジーを与えられるのはライザーズだろう、と。『自分たちのスタイルをやり切ることで、プライド、価値を、観に来てくれる方、家族、普段ゲームをしているメンバーに見せる。それができるのはライザーズしかいない』と(仲間に)話して、試合に臨みました。それが見せられたのではないか」
今季最大級の好ゲームには、東京・秩父宮ラグビー場での第10節が挙がる。過去に2度の3位決定戦でぶつかった東京サントリーサンゴリアスを、33-22で下した。
もっともその後は5戦4敗。就任5季目の沢木敬介監督は、圧力下でのミス、反則に泣く最近の内容をこう捉えていた。
「暗くはない。ネガティブな感じではない。ただ、課題が変わらない(改善されない)というところがある。例えば、簡単に点を取られる。ここで不安に思う奴と、『やるしかねえな』と腹をくくる奴の両方がいると思うんだよ。内心は分からないけど。…そういうところが嚙み合わせ(のよしあし)に繋がってくるんじゃないかな」
恒久的なクラブ文化の醸成を願ってか、以前と比べて細かい指摘を限定的にしたという指揮官。自らの判断が直近のパフォーマンスと関係している可能性を踏まえ、「それもコーチの責任」と潔い。
感触のよかったサンゴリアス戦の直後、嶋田は「イーグルスがイーグルスのラグビーをできている時は、感情を大事にしている」。組織の精神的充実が肝と見た。
レギュラーシーズンが最終コーナーに突入した4月下旬には、現状をこのように明かした。
「サンゴリアス戦の後もそういうもの(然るべきメンタリティ)は出ていたと思います。でも、うまくいかへん時、スイッチが切れる時もありました。相手のプレッシャーを受けて…ということは、あるかもしれないです。もう少し、このグラウンド(取材を受けたCSP)で準備している時間から『こういうこと(不測の事態など)が起こるかもしれない。その時に何をするか』という話を、ゲームメンバー同士でしていってもいいかもしれないですね。皆、同じページを見られていないわけではない。ただ、パニックになると普通にできていることができなくなったりもします。そんなことも起こりうるというトークを事前にしておいて、少しでもソフトな(緊張感が欠いて見える)時間をなくせるように…」
ここから続くのは、イーグルス本来の長所についての見立てだ。
「外から見ていると、元気がないな、それがふわっとした空気に(繋がった)…という時もありました。皆で声を出してひとつに繋がっていくのが大事です。誰かが話した時に反応するとか、当たり前のことを見つめ直すのも大事かなと。イーグルスは、そうなんです。身体が大きな選手の多くない僕たちが勝つには、繋がるしかない。繋がりは、僕らのひとつのキーワードです」
身長181センチ、体重99キロのFLとして激しさ、賢さをにじませる。今年度は第14節までに11度の出場も、シーズンが終わればスパイクを脱ぐ。
指導者となるための準備をすべく、かねて引退の時期を考えていた。
「100キャップを獲って終わろう、というのはありました」
公式戦100試合出場という記録の達成を、ラストイヤーの目標のひとつに掲げたのだ。昨年12月29日の第2節で、その大台に達した(兵庫・ノエビアスタジアム神戸/対コベルコ神戸スティーラーズ/●18-36)。
一部の仲間には、目下実施中の戦いが始まるまでに未来について伝えていた。翌年の3月7日、公にした。
旧トップリーグ時代のイーグルスに入ってからの約11年間、サポーターの思いに触れてきたからだ。
「ラグビー界では退団者の発表がシーズン終了後になることがほとんどで、イーグルスもそうでした。ファン感(謝祭)当日の午前中に…とか。それは、長く応援してくれた人たちに申し訳ないと思っていました。レギュラーシーズンの試合が残っている状態で伝えることで、グラウンドに見に来てくれる機会も作れるかなと」
件のブルーシャークス戦は、この人にとって「CSPでやる最後のゲーム」だ。ここにも出場志願のわけがあった。当事者は述べる。
「最後のライザーズゲームは、皆の気持ちが乗っていました」
HOの庭井祐輔は、嶋田とは大学時代からのチームメイトだ。
やがてコーチとしてもクラブへ携わる宇佐美和彦と3人同時に、立命大からイーグルスへ入団した。「何の申し合わせもなく」である。
2018年度からの2季は、2人で共同主将を務めた。チームが低迷した時も、現体制発足を機に浮上してからもともに戦ってきた。
「2人でめちゃくちゃ喋るわけでもなくて。熟年夫婦みたいな。わかります?会話は多くなくても、よき理解者です」
同級生が自ら区切りをつけたことへ、本当に敬意を示す。
自身は来年のいま頃もCSPにいるつもりだから、「(来季も嶋田が)おる感じで(ロッカールームなどに)来ちゃいます。そこで『…おれへんわ』と思うんじゃないですか」と笑う。
「実際に(来るべき時期が)近づいてくると、寂しいですね。でも、自分の力で(次のステージに)向かっていけることへは本当に応援したいです」
本当は辞めてほしくない。ただ、次の人生にはエールを送りたい。
そう仲間に背中を押される嶋田は、ゴールテープを切るまで仲間の背中を押していたい。
慣れ親しんだCSPの芝を視線の先に据え…。
「最後まで怪我なくこのグラウンドに立って、毎回の練習でしっかりプレーする。(試合登録)メンバーになるか、ライザーズになるかは僕が決めることじゃない。どんな立場になっても、チームのために行動していきたいです」
リーグ戦は残り3節。プレーオフ決勝まで進むとしても、嶋田が公式戦で見られる機会は最大であと6回だ。