【ラグリパWest】27回目の春。久保玲王奈 [金光藤蔭高校ラグビー部/監督]
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27回目の春が来た。
久保玲王奈(れおな)が金光藤蔭に赴任してからである。この私立高校の読みは「こんこうとういん」。大阪市の東南、コリアン・タウンで名高い生野区にある。
巡る春の中で妻と息子2人を得た。
「長いようで、短い。毎日がいっぱい、いっぱいで気がつけばここまで来ていました」
久保は慈愛にあふれる高僧のよう。目じりは下がり、こげ茶色の顔は柔らかい。
着任と同時にラグビー部を立ち上げ、教員として地歴公民、のちに情報も教えた。副将の新3年生、柿本颯汰(そうた)は話す。
「みんな、めっちゃ慕っています。先生は優しいし、的確に言葉をかけてくれます」
柿本はHOやLOを任されている。
柿本たちの感覚は外部にも伝わる。今春、新入生32人を迎え、選手は88人になった。
「これまでもっとも多いです」
久保は51歳。努力がしのばれる。生徒840人のうち1割はラグビー部。学校は男女共学の普通科4コース制でクラス数は31ある。
金光藤蔭は金光教の教えに立脚している。江戸時代末期にできた教派神道だ。
「情操的な授業では仏教、キリスト教、イスラム教のことなどを学んだりもします」
他教に寛容なことを久保は説明する。
宗教色は薄いながら、教育の芯があることはその収容力にもつながる。コースのひとつに「エンカレッジ」がある。不登校などの困りを抱える生徒も受け入れる。
その精神は久保にもある。ラグビーは7つある強化指定クラブのひとつであり、選手全員が「トップアスリート」のコースに属する。その中には、成績や素行などを含め一旦は受け入れを断った部員もいる。
最終的に許可をした理由を語る。
「手のかかる子であったとしても、保護者にとっては宝です。この学校に来て、人生をいい方向に変えてくれたら、と思っています」
久保には障碍を持った弟がいる。そのことも今の人格形成につながっている。
学校とラグビーで高校生をはさみ、成長させてゆく。久保が競技を始めたのは高校入学直後。成器(現・大阪学芸)だった。
「なんか、楽しそうに見えました」
それまでは野球をやった。任されたポジションはSHやFLだった。
高校時代から続く友情の中にも、久保はラグビーのよさを見出している。
「年末にみんなで飲みます。楽しいですね」
そのひとり、道津(どうつ)哲也は社会人クラブ、大阪エレファンツの代表だ。
大学は神戸国際。卒業後は実家の鉄工所を手伝ったりもした。玲王奈という名はノーベル物理学賞を得た江崎玲於奈にあやかっている。漢字は画数の関係で変えている。
久保の赴任は1999年の4月。浪花女子から金光藤蔭に変わった直後だった。ラグビーの創部も同年だ。元女子校だったため、そのグラウンドは今でも狭い。人工芝ながら22メートル陣内の半分ほどの広さだ。そこをサッカー部などと使う。
フルサイズのグラウンドに慣れるため、鶴見緑地や近所の市が所有する公園を使う。移動手段は自転車だ。そういうハンディがありながら、春の全国選抜大会には1度出場している。実行委員会推薦枠だった。
その20回大会(2018年度)で1勝を挙げる。高鍋に29-26。結果的には予選リーグで敗退する。中部大春日丘に5-38、本郷には5-40だった。冬の全国大会出場はない。
主なOBには高城(たかぎ)喜一がいる。23歳。ラグビー部から初めて法大に進んだ。FLとして、現在はリーグワン二部、日野RDでプレーを続けている。
その法大を紹介したのは「タックルながい。」である。吉本新喜劇の座員で、本名・長位章充(ながい・あきよし)は法大のPRだった。金光藤蔭ではコーチ的な役割を担ったこともあり、元保護者でもある。息子の剛臣はHO。この4月に天理大に入学した。
コーチはフルタイムとして、3年前に中西映都が加わった。久保の評価は高い。
「グラウンドのことは任せています」
常翔学園時代はCTBとして2012年度の高校日本代表に選ばれた。大体大卒業後、会社員を経て、保健・体育の教員になる。顧問には稲垣陽一と北村晃一もいる。稲垣は同志社大のラグビー部OBで社会科を、北村は化学を教えている。
この4人で臨んだ昨秋の全国大会府予選は同志社香里に19-34で敗れた。初戦の8強戦だった。今年1月の府新人戦(兼近畿大会予選)は4強敗退。近大附に12-19だった。
春季大会(府総体)は4月6日、3チームでのリーグ戦を迎え、常翔学園に0-105。常翔学園は今春の全国選抜大会で、優勝校の桐蔭学園に33-46と善戦した。2回戦だった。
3週間後には布施工科・東大阪みらい工科と対戦する。久保は目標を定める。
「まずはBシードに入ることですね」
次戦以降勝ち続ければ、3地区制の秋の全国大会府予選で二番手のBシードになる。未だ成し得ない決勝進出の可能性は広がる。
その勝ち負け以上に、久保は高校生にとってもっとも大切な安全面を考えている。
「今まで障碍の残るような大きなケガや事故はありませんでした」
厄除けがあるとされ、久保の好きな「なまず」がチームの愛称、<Wild Cats>だ。それは英単語の<Catfish>からとられている。
久保は勝負師ではない。教員である。この春から、1年生の担任を受け持つ。
「担任をやるのは15年ぶりです」
教頭補佐など歴任したが、その存在は管理者より現場でこそ光る。教育者としてさらに磨かれることはラグビーにも波及する。
そのジャージーはスクールカラーでもある藤色。時期的にこの紫の盛りはじき来る。今年のチームは見事な花房をつけてゆきたい。