一発屋ではダメ! クラブ大会覇者・千里馬クラブ、レジェンドの思い

「第32回全国クラブラグビー大会」。今年2月16日の決勝で頂点に立ったのは、第1回大会(1993年)から参加している大阪・千里馬クラブだ。北海道バーバリアンズから前半3トライを奪うなど先に加点し25(前半17-5)10と突き放した。優勝4度を誇る強豪を2年前の準決勝(23-20)に続き制した。
千里馬は、初回大会決勝でイワサキクラブに10-24と敗れてから4度目の決勝。大阪朝高ラグビー部(1972年創設)のOBたちがラグビーを続けるために、’80年、大阪朝高の金鉉翼・初代監督(キム・ヒョニッ)が中心になり創立。45年目で「在日チーム、初の日本一」となった。
当時からチームの運営にかかわってきたレジェンドたちは喜びとともに次を見ている。千里馬クラブGM、呉成一さん(オ・ソンイル)は率直に話す。
「日本一をとったということで大変、嬉しい気持ちとこれからまた一段と大変な道のりがあるな、と。そっちの方が、本当の気持ち。これ一発で終わると、『なんや一回で終わりか』と言われる。一発屋かといわれる」
呉GMは、クラブ創設後、少し停滞気味の活動に対して「自分がやる」と宣言し、主務としてグラウンドや対戦チーム確保に奔走した。本来はWTBだが「誰が試合に来るか分からん。キックを蹴るのが下手なのでSO以外はすべて担当した。スクラムで第1列に入ったけど3人がすべて素人で相手にめくりあげられたこともあった」という。
監督も務めたが以後は裏方で支えてきた。今回の優勝は下部リーグに落ちて、はいあがってきた後輩たちを称える。前監督の韓裕樹(ハン・ユス)、現在の李賢祉監督(リ・ヒョンジ)らが「日本一になる」と宣言し大きく舵をきった。
朝高OBらが進学した大学の日本人や仲間に「千里馬でラグビーをしよう」と積極的にリクルートに励んだ。結果、部員は105人に。
その一人が決勝戦でも躍動したマノア・ラトゥだ。U18トンガ代表の経歴を持つ。2022年3月に花園大を卒業後、リーグワン埼玉WKに入団したユーティリティーバックス。だが翌年、退団した。
千里馬メンバーが経営する建築関係の会社で働いていた。本人は上位リーグ所属先を探すために「千里馬で練習したい」と参加、入部した。「真面目やね。練習もかかさず来て。ラグビー好きやし」(呉GM)。
決勝戦。もう一人のレジェンド、大阪朝高第4代監督(’85年就任)、2003年に初めて朝高を全国大会(冬の花園)へ押し上げた金信男氏(キム・シンナム)が振り返る。金氏64歳、呉GM65歳は朝高の同級生だ。

「最初の5分は千里馬が自陣ゴール前にくぎ付けでした。バーバリアンズが、もう近場、ガンガン来たのをフォワードが低くタックルにいって。我慢比べ。それで切れた相手のバックスがボールを回した。FBの南(紀成、ナム・キソン)がインターセプトでトライを取れた」
南からボールを受けたのはCTBラトゥ、前半6分のことだ。18分には、ラインアウトからHO奈良響がトライゾーンへ運んだ。そして33分、南の50:22キックからチャンスをつかむとモールを組む。FL7李智栄が3本目のファイブポインターとなった。後半も12分にSO森島大樹がDGを決めるとさらにトライを加え、25-10の快勝だった。
勝因を金氏は「ディフェンスですよ。もうディフェンス。ターゲットを狙って1枚でだめなら2枚、だめなら3枚という気持ちで行っていた。今年もバーバリアンズは外国にルーツを持つ選手が3人、先発で出ていた。10番、13番は止めることができました」

千里馬とバーバリアンズ。全国クラブ大会を日本ラグビー協会が立ち上げるために’92年におこなった「トライアルマッチ」決勝で対戦した過去がある。その時も千里馬が勝利。金さんはピッチに立っていた。「成一君、彼が千里馬を見つつ僕が朝高を見つつ。ともに力をあわせて45年、ラグビーにたずさわってきた結果。一番の功労者は彼」。
千里馬は、練習は木曜日と日曜日の週2回、大阪にある初級学校(小学校)が中心。当然、ラグビーポールは無い。日曜日、他のチームとグラウンドを借りて合同で練習する時にゴールキックは蹴り込む。
「優勝してずっとチームを支えてきた先輩たちが涙を流すのを見て千里馬の歴史を感じました」。現役部員は「日本一」を体感した。決勝戦でもトライを決めたFL李智栄(30歳)。大阪朝高から京都産業大へ。’17年シーズンにトップリーグ、NTTドコモレッドハリケーンズ入団。低いタックル、ブレイクダウンでのターンオーバーで魅せた逸材だ。

リーグワンができる直前にあったNTTコミュニケーションズシャイニングアークスとのチーム再編に伴い退団、’22年に「ラグビー人生最後はここで」と千里馬を選択した。
昨年からコーチ役を任された。週2回の練習、これまではタッチフットなど軽めから入っていた。座って立つなどの基本的な強度、負荷を課すメニューも加えた。
「試合の入りから必要な部分。練習から押し合うなど『負けへんぞ』。闘争心をみんなが持つようになった」。決勝でも試合開始、押されていたが「止め続けて自信ができた。80分間続けられると」。
次の目標は当然、連覇になる。「優勝したことで、新しい選手が『うちに入りたい』といってくれるかも。(朝鮮学校の)卒業生も少なくなっている。継続は難しい。優勝して嬉しいけど落ち着いてくるとそのへんがね。何年かやってきたことが報われるためには、何連覇して。その間に高麗クラブ(東京闘球団高麗、’24年度に東日本トップクラブリーグ2部のD2で優勝し今年度はD1昇格)が上がってきて、全国大会決勝で在日同士があたることがあれば、学生にもいい刺激になると思う。一年ではなく何年も連覇する気持ちで。タマリバ(神奈川タマリバクラブ。’04年第11回~’09年第16回に6連覇)の記録を越えたい」(呉GM)。
そこにFL李の話す「みんな別の会社で働いてラグビーをしている。勝利と別な社会貢献などもできれば」というクラブチームの価値が加われば――。
新しいシーズン、ライバルチームのターゲットは千里馬だ。