ウェルカム・バック! マーア・ノヌ、トゥーロン復帰の舞台裏
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「ウェルカム・バック!」
2月26日、この言葉と共にトゥーロンの公式SNSアカウントに動画が投稿された。
映像には、2月22日のスタッド・フランセ戦後のロッカールームで、現在チームマネージャーのマチュー・バスタローが、かつてのチームメイトであり、オールブラックス103キャップのCTBマーア・ノヌに背番号12のジャージーを手渡す姿が映っていた。2週間前からコーチングを見学するためにトゥーロンに滞在しているという報道があったので、ジョークか、かつてを懐かしんで戯れているのだと思った。
しかし、その直後、「ウェルカム・バック。マーア・ノヌが今季末までメディカルジョーカーとして、トゥーロンに復活」というコメント付きのポストが投稿された。誰も予想しなかったカムバックだ。
トゥーロンのピエール・ミニョニ ヘッドコーチ(以下、HC)が今回の契約に至るまでの経緯を語る。
「マーア(ノヌ)が来た時、彼を選手として迎えることになるなんて思いもしていなかった。彼は2週間で帰国する予定だった」
しかし、そのタイミングでCTBアントワンヌ・フリッシュが脚の骨折で3〜4か月離脱することがわかった。さらに同じくCTBのダンカン・パイアアウアも頚椎損傷で2か月グラウンドに立てない。ミニョニHCの頭に1人の選手の姿が浮かんだ。
マーア・ノヌ。
最終的にノヌは、膝前十字靭帯断裂で、今季は復帰が見込めないFLシャルル・オリヴォンのメディカルジョーカーとして契約した。
「マーアはコーチの仕事を見学するためにここに来ていたが、1週間後、『やってみないか?』と軽い気持ちで彼に言った。彼は『ノー』とは言わなかった。そしてメディカル、フィジカル、メンタルのテストを行い、彼が本当にプレーしたいと思っているか、またできる能力があるかを探った。我々が獲得してきた他のどの選手よりも多くのテストを受けさせた。一方、すでにこの2週間、チームと共に過ごし、トレーニングするだけで他の選手に大きな影響を与えていることがわかった。そして彼という選手が、人間が、チームにプラスアルファをもたらすことができるかを考えた。たとえ彼がまだプレーしていなくても、100%『ウイ』と私は言う」とミニョニHCは説明する。
「チームには負傷者がいる。CTB/WTBレスター・ファインガアヌクも試合数が多く、シーズン序盤には怪我もしている。CTBジェレミー・サンゼルも非常に多くの試合に出場している(17試合、1296分)。サンゼルのような選手がチャンピオンズカップやトップ14の決勝トーナメントでベストな状態であるためには、彼のコンディションを管理する必要がある。そのためにマーアは優れた代役を果たしてくれるだろう。マーアは、このチームでの彼の役割を果たすために来るのだ。私たちは象徴的な存在を買ったのではない」
ミニョニHCは、話題集めのためにスター選手をリクルートしたのではないことを強調する。
しかしながら、トゥーロンではノヌは象徴的な存在となっているだろう。2015年から2018年の間に77回も赤と黒のジャージーに袖を通し、その後、2020-2021シーズンにトゥーロンに戻った時は、1度目よりも苦戦はしたが16試合に出場した。通算成績は50勝41敗2分。一度もタイトルを獲得することはなかった。
その後、アメリカのサンディエゴで3シーズン(40試合)を過ごした後、現在42歳のノヌはトップ14で最年長の選手として再びトゥーロンに戻ってくることとなった。
ノヌはチームを大きく変えるのだろうか?
「いいえ」とミニョニHCは答え、「彼がすべての試合に出場し、スターティングメンバーになるために来るのか?それも違う。しかし、彼はチームに5%、あるいは10%のプラスアルファをもたらすことができる。そうでなければ、私たちはこの契約をしなかった。経済効果はあるかもしれないが、それが会長やコーチの目的ではない。マーア自身も人生最高の契約を得るために来たのではない。私たちは夢を買ったわけではない。それが良いアイデアだと結論付けたのです。彼はすでに選手たちに受け入れられている。彼は救世主として来るのでも、誰かのポジションをとるために来るのでもなく、フィールドに時々立つだけで、もしくは立たなくても、他の選手に影響を与えるために来るのです」と続けた。
トゥーロンには2023年W杯期間中にウェールズの闘将と呼ばれたLOアラン=ウィン・ジョーンズも在籍し、彼の経験や知識、技術を伝え、プロ選手としてのフィールド外での行動や心構えまで、特に若い選手に影響を与えた。
「その時も、最後に賭けに成功したことがわかった。今回も成功することを期待している」
ノーヌはニュージーランドに一度帰国し、10日ほどで再びトゥーロンに戻ってくると予定だ。ニュージーランドでもトゥーロンのパフォーマンスディレクターと連絡をとりながら、自主トレーニングを行い、復帰第一戦に備える。
復帰はいつになるのだろうか?
「3月22日のペルピニャン戦には間に合わないだろう。適切なタイミングが来れば、出場することになる」と言いながら、「過去のノヌを期待してはいけない。彼は何か別の物をもたらしてくれる。情熱はある。競争心もある。20分のプレーで全てを出し切るだろう」とミニョニHCも楽しみにしている様子だ。
トゥーロンではミニョニHCの改革が身を結びつつある。育ててきた若手が試合で好パフォーマンスを続けチームの戦力となってきた。また、今年はマインドセットに変化が感じられ、これまで落としていたような試合も勝ち切る自信をつけた。
現在12勝5敗でトゥールーズに次いで2位につけている。今季、優勝争いに絡みに行くだけの力はあるが、決勝トーナメントでオリヴォンのような経験のあるリーダーがいないことがネックになるのではと言われていた。そういうところをノヌがサポートしてもらえればということだろうか。
またトップ14が面白くなる。