コラム 2025.02.07

【コラム】熱くなれる場所。

[ 明石尚之 ]
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【コラム】熱くなれる場所。
試合前に士気を高めるU18関東(撮影:長尾亜紀)

「多忙でした」

 と、いうのは言い訳か。

 2024年度の大学ラグビー、高校ラグビーが年始に終わった。
 それらを伝えるために数万字書いたラグビーマガジン3月号が1月24日に無事に発売され、ようやく手帳のカレンダーに空白が見え始めている。

 1年前から編集部員が大きく入れ替わり、本誌の作業で手一杯だったのは編集長が先日のコラムで触れた通り。だから、ラグビーリパブリックに書きたいと思っていても、書けなかったエピソードがいくつもあった。

 そのひとつが夏のコベルコカップだ。半年以上も前の話で恐縮だが、本稿のコラムの題材とさせてほしい。

 同大会は昨年の開催で20周年を迎えた。第1回大会の会場は北海道・夕張。U17には北海道のリーチ マイケル、東北の三上正貴、近畿の山中亮平、木津武士と未来のジャパンを支える黄金世代の面々が参戦していた。

 U17近畿を司令塔として初代王者に導いた山中は、「楽しい思い出ばかり」と相好を崩す。
「優勝した後にハカをやりました。ラグマガにも載りましたし、いま思えばめちゃくちゃ恥ずかしい(笑)。でも、そのくらいみんなで和気あいあいと楽しんでやってました」

第1回のコベルコカップを詳報したラグビーマガジンの誌面。右上の写真にはU17近畿のハカが写る(撮影:BBM)

 コベルコカップは北海道から九州まで、9つのブロックから選抜された選手が集まる全国大会だ。
 現在は3つのカテゴリーに分けられ、それぞれリーグ戦がおこなわれる。

 先述のU17男子に加え、2015年からは女子の15人制試合も始まった。
 いずれも次代を担う精鋭たちが集結する。赤白ジャージーの登竜門と言っていい。

 そしてもっともユニークなカテゴリーが、部員不足の高校から選抜するU18男子だ。
「高校単独としては15人制大会への出場が難しい学校に所属する選手に対して『夢と希望』を与え、ラグビーへの情熱を呼び起こし、高校ラグビー全体の盛り上げや活性化」を大きな目的としている。

 昨年、このリーグを制したのはU18九州だった。花園期間中に開催される「U18合同チーム東西対抗戦」でも活躍したFL岩倉吏臣(日向)、WTB衞藤太晟(玖珠美山)らがいた。

 連覇を目指したU18関東は決勝リーグで1勝1敗。惜しくも準優勝に終わった。
 半年以上経った今でも鮮明に思い出されるのは、彼らのこの大会にかける思いの熱さだ。

 味方が好プレーを起こせば、ベンチにいるコーチ、控えメンバーも含めた全員が全力で喜び、負ければ膝をついて涙した。帯同した女子マネージャーも泣いていた。

 大会に向けた交流はほんの数日程度。出会ったばかりの集団で、どうしてそこまで熱くなれるのか、涙を流せるのか、本気になれるのか、理由を聞くまで分からなかった。

 U18関東は例年、3月の関東合同大会でファイナルに進んだ2県から選抜する。昨年は優勝が群馬、準優勝は茨城だった。

 チームを率いたのは板谷裕次郎監督。高崎商業、白鴎大出身。高校の同期には元日野レッドドルフィンズの小野雄貴がいる。
 静岡ブルーレヴズの茂原隆由の母校、高崎工業に赴任して4年目を迎えた。

「他の優秀な指導者さんのようなマジックを、僕は持っていません。とにかく自分の思いをまっすぐにぶつけました」

 疲れて足が動かなくなってもチームのために頑張ろう…。
 倒れてもいいから最後まで走り抜け…。

 試合前のペップトークで、選手たちの心に火を灯した。
「緊張したり、あがったまま試合が終わってしまうのはすごくもったいない。試合前にどういう言葉をかければ100パーセントの力でプレーできるかを考えていました」

 板谷監督が選手以上に情熱を注ぐのは、大会の価値を身を持って体感しているからだ。
「競技者としても、人としても大きく成長できる大会です。彼らは、例えば群馬では明和県央、栃木では國學院栃木という花園常連校に正直、県内では勝てません。そういう選手たちでも、全国大会で優勝をかけて戦うことができる。これは本当に貴重な経験。感謝しかありません」

 昨年は一人の人生を変えた。
 U18関東で背番号7を背負った茂原圭司は、コベルコカップを機に進路を「就職」から「大学進学」に変えた。埼玉工業大に通い、いまもラグビーを続けている。
 菅平から群馬までの帰路で、板谷監督に「まだ(進路変更は)間に合いますか」と尋ねたそうだ。

「去年優勝したメンバーが実は今日、何人も見に来てくれています。去年は群馬と神奈川でチームを組みましたが、この大会のおかげでメンバー同士が仲良くなっていまでも会っているんです。同じ学校の仲間と違った絆といいますか、高いレベルでしのぎを削ったからこそ感じる何かがあるのだと思います」

 前回大会で優勝を経験したNO8の笠原優希も、この大会で人生を変えた一人。群馬は渋川工業に通う3年生は、幾度もボールキャリーで前進し、強烈なタックルでも魅了した。

 高校からラグビーを始めたから経験こそ浅いけど、この競技の本質を理解する。
「自分がエースとは思っていません。僕だけがゲインしてもチームは勝てない。一人ひとりがエースです。僕をどこで使うかを、板谷先生が熱心に考えてくれました」

 1年の夏まで、アルバイトと両立できる美術部だった。地理を教える顧問の先生に熱心に勧められ、ラグビー部の門を叩くまでは、「やんちゃ」だったと認める。

「ラグビーをしてから人としてだいぶ変わったと思います。はじめの頃は怒られてばかりでした。試合会場までカップラーメンを食べながら歩いて向かってましたから(笑)。でも県の代表に選ばれてこうした大会に出るようになって、このままではダメだなと。放課後の筋トレをとにかくやった。楽しかったので努力できました」

 卒業後は山梨学院大で楕円球を追う。
 コベルコカップでの活躍が実り、「たくさんの大学から誘われました」と坊主頭をさすった。

年始のU18合同チーム東西対抗戦にも出場したNO8笠原優希(撮影:長尾亜紀)
味方のプレーにベンチはガッツポーズ。左端が板谷監督(撮影:長尾亜紀)
惜しくも準優勝に終わったU18関東(撮影:長尾亜紀)
【筆者プロフィール】明石尚之( あかし ひさゆき )
1997年生まれ、神奈川県出身。筑波大学新聞で筑波大学ラグビー部の取材を担当。2020年4月にベースボール・マガジン社に入社し、ラグビーマガジン編集部に配属。リーグワン、関西大学リーグ、高校、世代別代表(高校、U20)、女子日本代表を中心に精力的に取材している。

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