コラム 2024.12.29

【ラグリパWest】より後輩たちに向き合える。房本泰治 [関西学院/職員/大学ラグビー部コーチ]

[ 鎮 勝也 ]
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【ラグリパWest】より後輩たちに向き合える。房本泰治 [関西学院/職員/大学ラグビー部コーチ]
母校・関西学院の職員となり、大学ラグビー部の指導が一層やりやすくなった房本泰治コーチ(左)。8学年上の小樋山樹監督(右)は高大の先輩であり、その信任も厚い。来年2月からのチーム始動では2大会連続の大学選手権出場を逃した雪辱に挑む

 生粋の「KGボーイ」はラグビー指導を後輩たちにさらに施せるようになった。

 房本泰治(ふさもと・たいち)は関西学院にキャリアと呼ばれる中途採用の職員として戻る。働き始めは10月1日。この学校では中高大10年を過ごし、ラグビーをやった。

 年明けの16日に27歳になる。漆黒の髪と同じ色の丸い双眸を持つ。笑うとその眼が横に伸び、黒くなる。
「ラグビーを教えるのは楽しいです」
 大学卒業と同時にBKコーチとして部に残る。現役時代はSOだった。

 これまでの指導は週末に限定されていた。働いていたのは大手の損害保険会社である。
「10年間、同じ学校にいたので外の空気を吸いたくなりました」
 新卒で職員を志望しなかった理由を語る。外に出れば、内の良さがよりわかる。

 その指導は平日も可能になった。
「仕事が早く終われば、練習に出られます」
 勤務先は経済学部の事務室。学生の対応が中心だ。日々活動する緑多き第2フィールドは同じ大学敷地内にあり、移動時間は歩いて「分」でカタがつく。

 職員への転身は監督の小樋山樹(こひやま・しげる)の忙しさを減らすことにもつながる。関西学院は平日、小樋山以外にラグビーを教える人間はいない。

 監督就任は2020年。同時に高大で8学年下になる房本をBKコーチに指名した。NTTドコモ(現RH大阪)の現役時代から房本を知っていた。同じSOだったこともある。

 5年をともに過ごし、房本への評価は高い。
「学生たちに伝わるようにわかりやすく指導をしてくれています」
 パフォーマンスを言葉に変換できる。コーチとして必要不可欠な能力である。

 その職員になれるよう、10歳上の兄・浩希が模擬面接などをしてくれた。
「ありがたかったです」
 兄は大学職員として、「関関戦」のライバルである関西大につとめている。女子バスケ部の監督でもある。

 父・英利の影響も濃い。父は工大高(現・常翔学園)、体大、府警と大阪におけるラグビーの王道を歩んだ。房本は小2からラグビースクール入り。最初は大阪工業大学、引っ越しした小4からは堺にスクールを変えた。

 父のポジションも同じSOだった。
「毎試合、映像を見て指導を受けました」
 忘れられない言葉がある。
「試合を勝たせるのがSOだ」
 父はSOが「司令塔」と呼ばれるゆえんをそう説明した。

 大阪府警はSOのハイパントを含むキックとFW戦が軸だった。そのシンプルな戦い方で、父が現役だった40年以上前は関西リーグで神戸製鋼(現・神戸S)やトヨタ自動車(現トヨタV)と互角に渡り合っている。

 中学は中高一貫を軸に考えた。
「高校で花園に出て、自分もプレーしたい」
 東海大仰星の名が挙がる。父は言った。
「仰星ならチームは花園に出られるが、おまえが出られるかどうかはわからない」

 父の助言もあって関西学院の中学部を受験する。堺から西宮までは遠い。
「片道2時間くらいかかったと思います」
 この生活を9年続けた。大学4年時は副将になり、下宿をする。関西学院は学生主体のためミーティングなど多忙だった。

 高等部では監督の安藤昌宏にも同じことを言われた。現役時代は天理大のSOだった。
「SOは試合を勝たせないといかん」
 3年時、希望通りチームも自分も花園に出る。95回大会(2015年度)はノーシードから8強進出。石見智翠館に8-33で敗れた。

 大学では4年時に大学選手権に出場する。4年間で初めてだった。56回大会(2019年度)は8強進出。明治に14-22で敗れた。
「房本がゲームを作っていた、と言っても過言ではありませんでした」
 小樋山にはその時の印象が残っている。

 主将の原口浩明はPRだったため、基本的な判断は副将にゆだねられた。房本は176センチ、85キロの体を使い、長いキックや長短のパスで試合を組み立てた。試合会場はアウエーの秩父宮でもあった。

 勝てはしなかったが、この56回大会は関西学院が頂点にもっとも近づいた時期だった。これまでの出場は12回。最高位は5回の8強だが、この8点差が一番詰まっている。明治は準優勝。早稲田に35-45で敗れた。

 房本は監督の牟田至や原口らと作り上げたチームの足跡や心の持ち方を兄貴分として教えられる。その上で、職員就任はラグビー部の将来を明るくすることにもつながる。

 ライバル、関西大のラグビー部の副顧問は桑原久佳だ。OB職員として、部の実質的なトップに立つ桑原は話したことがある。
「職員がいないと強くなりません」
 監督やコーチは去るかもしれないが、職員は残る。そして、内側に入れば、大学を知り、強化できやすくなる。OBとの比ではない。

 関西学院におけるラグビー出身の職員は房本や監督経験者の大賀宏輝を含め4人。大学を代表するスポーツ、アメフト出身の職員数は20人以上と聞いている。

 房本はラグビーの目標を掲げる。
「強くなることです」
 この秋の関西リーグは最終7戦目で近大に22-29と直接対決で敗れて4位。2大会連続の大学選手権出場を逃した。その雪辱へ、来年からはチームにべったりとつける。

 新チームの始動は学年末のテストが明けた2月1日を予定している。後輩たちの声に耳を傾け、自分の考えを示し、朱紺ジャージーをより高みへ導いてゆきたい。

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