【コラム】奇跡の一戦を、あらためて振り返る。早大学院vs國學院久我山
久我山は全国で勝ち抜くことを考え、FW勝負に徹することなく、思い切ったBKライン攻撃を仕掛けてきた。
まさにこれが早大学院の術中にはまり、膠着状態を生んだ。
予想外の接戦となり焦る久我山に対して、早大学院は少ないチャンスを確実にものにして、前半を9-3と、6点リードして終わった(中村寛がPGとトライ)。
後半も、スクラムを中心とするFWプレーでは久我山が圧倒するも、BKがことごとく後ろで止められペースを掴めない。温存したCTBの佐々木薫を出していたら、ラインの裏へのキックなど試合の流れを変えるプレーができたはずだ。
焦る久我山のイライラは頂点に達し、ラックで早大学院の選手を踏みつけるなどの反則を犯してしまう。
早大学院は「お前ら、ラグビーさえ強ければ、何をしてもいいと思っているのか!」と叫ぶ。すかさず主将のNO8寺林が、「言うな! プレーで返せ」となだめる。
この時の早大学院は全員が勝利を信じてすべてを出し切る、ひとつの魂の塊のように見えた。
ゴール前での久我山の反則で得たPKを、早大学院SH佐々木卓が持ち出して、数十メートル走った。それをサポートしたのは、スクラムでかち上げられ、疲労困憊のはずのPR宇田川とHO永井だった。
15人全員がチームの勝利を信じて走り抜き、タックルをし、どこか冷静に各自が判断し、俯瞰している、格上のようなチームにさえ見えた。
結局、後半の久我山の攻撃をことごとくタックルで止め、失点はPG1本に抑え、早大学院は9-6で勝利した。
ラグビーマガジンには2ページに渡り掲載された。
その中に、早大学院の4人が王者・久我山に必死に食らいつくタックルで、ゴールラインを死守する写真があった。この一枚の写真を見て、半世紀も前の試合なのに、目頭が熱くなるのは何故だろうか。
それは、そこにラグビーというスポーツの原点があるように思えてならない。
勝利後、皆が呆然とし、泣いている集合写真は、完全燃焼した青春の証であり、このような青春を送れた高校生は幸せだと思う。