日本代表の長田智希は、「与えられたポジションでやるべきことを」。
その時々のプレーをよく覚えている。常に考えて動いているからだろう。
ラグビー日本代表の長田智希が自身のファインプレーについて聞かれたのは9月4日。現地時間8月25日に敵地のバンクーバーのPCプレイススタジアムでおこなった、パシフィックネーションズカップ(PNC)のカナダ代表戦でのパスである。
後半23分に途中出場した長田はその5分後、自陣中盤の右中間へ蹴り込まれたボールを落下地点の前方から駆け戻って確保。せり上がった防御へ仕掛け、右に膨らみ、大外の空間へ球を投げた。ゴールラインと平行に近い軌道した。
ディフェンスの死角を鋭利にえぐった。そのバトンをやや前かがみになって受け取ったナイカブラは、持ち前の韋駄天ぶりを活かした。快走。フィールドに曲線を描きながら、約60メートルを駆け抜けた。
ここで50点目を得た日本代表は、55-28で快勝した。渋く光った長田の妙技について、当の本人は…。
「ボールを拾って、1回、真ん中を攻めようとした時に右側にスペースが見えたので右側にステップを。あのパスは、正直、(精度の観点からは)ミスっぽかったのですが、スペースが見えたので放ったという感じです」
その瞬間に見えた風景と、自分の手の感触を詳細に振り返った。
チームはPNCで白星を積み、9月15日には東京・秩父宮ラグビー場でサモア代表を49-29で撃破。長田はWTBで先発。後半4分には、鮮やかなスコアに絡んでいる。
まずはFBの李承信が防御の裏側へ右足で飛ばしたゴロを、全速力で追う。楕円球が高く弾み、落ちてくるところをキャッチ。トップスピードを保つ。まもなくタックラーにクラッシュしながら、サポートに来た李へ繋ぐ。最後はFLの下川甲嗣がフィニッシュする。
李のコンバージョン成功で35点目を奪ったこの瞬間について、長田はこう振り返った。
「承信とうまくコミュニケーションが取れていて、承信のキックの精度がよかったと思います」
約4分後には好守で光った。自陣22メートル線付近で防御網を敷くなか、右大外に数的優位を作られたと見るやその周辺にいた長田が一気に駆け上がる。パスの受け手に刺さる。相手との間合いを一気に詰め、ミスを誘った。
「一応、チームのシステムとしては『流して止める(列を保ち、攻撃側を中央からタッチライン際へ押し出す)』だったんですけど、WTBの位置でずっと流していると(遠い間合いから加速する)相手がモメンタム(勢い)をつけてしまうので、ああいう『詰め』を磨く必要があるかなと感じています」
身長179センチ、体重90キロの24歳。2023年5月まであった一昨季の国内リーグワンで新人賞に輝いている。
その直後に初めて日本代表に入り、同年にはフランスでワールドカップに初出場。圧力下で好判断を下して入スキルを発揮できる戦士として評価され、翌’24に発足した現体制のジャパンでも主力争いに絡んでいる。
誓うのは職責を全うする思いだ。かねてより希望の働き場は本職のCTBだと語っていたが、いま、WTBを任されていることはこう捉えている。
「自分がどこ(のポジション)で出たいかどうかはチームには関係ない。与えられたポジションでやるべきことをやりたいというの(思い)が、一番です」
PNCを準決勝で終え、いまは10月下旬からのシリーズへ英気を養う。