海外 2024.09.07

トップ14が開幕。フランスラグビー界は信頼を回復できるか。

[ 福本美由紀 ]
トップ14が開幕。フランスラグビー界は信頼を回復できるか。
フランス協会のフロリアン・グリル会長(左)とLNRのルネ・ブスカテル会長



 今週末のトップ14の開幕に先立ち、9月2日に開幕前記者会見が開かれた。
 選手も各チームから一人ずつ参加し、昨季を振り返り、新しいシーズンに向けての抱負を語り、例年は期待と希望に満ちた会見になるのだが、今年は少し違った。

 7月の15人制代表の遠征先のアルゼンチンで、FBメルヴィン・ジャミネが人種差別発言をしている自身の動画をインスタグラムに投稿し、直ちに代表チームから追放された。翌日には、初キャップを勝利で飾ったばかりのFLオスカー・ジェグとLOユーゴ・オラドゥが性的暴行で訴えられ逮捕された。さらに8月には南アフリカに遠征していたU18代表のメディ・ナルジシが海岸でリカバリーセッション中に離陸流にさらわれ行方不明になった。どの事件も、テレビ、新聞、ネットニュースで何度も報道され、フランス社会にも衝撃を与えた。

 ラグビー界の誰もが頭を抱え、胸を痛めた。

 プロリーグ運営団体のLNRのルネ・ブスカテル会長は、「男子7人制代表の金メダルは喜ばしいが、残念ながらこの夏の3つの事件のことを思わずにはいられない。そのうちの一つは悲劇だ。私たちには、やらなければならない大きな仕事がある。ラグビー自体は危険なスポーツではない。社会全体の問題があり、ラグビー選手もその社会の影響を受けないわけにはいかない。リスクを最小限に抑えるのが私たちの責任。選手の教育について、選手にどのように寄り添うべきか、また不適切な行為があった場合の処分について考え直さなければならない」とフランスラグビー界が直面している問題に触れた。

 ブスカテル会長は、8月29日にフランス協会によって開かれた対策会議にも参加している。
 この会議には、協会とLNRだけではなく、選手組合、コーチ組合、アマチュアクラブ、各代表チームのスタッフとラグビーのあらゆる分野の代表者が30人ほど参加し、現状を共有し、次の3点をメインの優先事項としてあげた。

・ハイレベルのチームの新たな行動規範を制定する。
・現在の運営方法の長所と改善点を特定する。
・プロ・アマを問わず、ピッチの内外での不適切な行為を防止するための、具体的、かつこれまでになかった新たな対策措置を打ち出す。

 第一回の会議では大まかな方針が発表されただけだが、11月の15人制代表の活動に間に合うよう、10月中に新たな防止プランの始動を目指している。

 一方、選手はどう思っているのだろう。
 フランス代表CTBガエル・フィクーは夏の遠征には参加していなかった。

「アルゼンチンで起こったことも、南アフリカで起こったことについても、僕は何も言えないが、感じることはたくさんある。襟を正して、ラグビーのイメージ回復に努めなければならない。選手がもっと責任を持つべき。ハメを外すなら、その責任も取らなければならない」と選手の自覚を訴えている。

 遠征に参加していたFB/WTBレオ・バレも同意見だ。

「僕たちはみんな成人だ。やらかしてしまいがちな失敗についても認識している。こんなことがあったのだから、飲み会もSNSの使い方もさらに注意しなければならない。見られているということはわかっているのだから。これはスタッフではなく、選手の責任。試合の後も度を越してはいけないこともわかっている。さらにルールを設けることが必要だろうか? すでにルールはある。それを守るのは選手だ」

 SHバティスト・クイユー(リヨン)も、「遠征はラグビー以外のことで多くのメディアに取り上げられた。トップ14が開幕すれば、またラグビーに注目してもらえるようになるだろう。だからと言って、これらの件が終わった訳じゃない。集まりがあるたびにこの話題になるし、僕たちも認識している。僕たち選手は模範的なイメージを発信するために最大限の努力をしなければならない。中には成長過程の選手もいるけど、みんな、自身の行動に責任を持つ大人だ。市民として、するべきこと、してはいけないことはわかっている」と選手である前に、大人としての責任を強調する。

 協会は対策を迫られ、選手を教育しながら、さらに厳しいルールを定めようとしているが、いくらルールができても選手が守らなければ効果はない。
「押し付けても機能しない」と言うピエール・ミニョニ ヘッドコーチ(以下、HC)が率いるトゥーロンでは、選手がまずルールの案を出し、全員で相談して決めたと言う。

 トゥールーズのユーゴ・モラHCも、「押さえつけるのではなく、危険だという情報を与え、話し合いながら選手の意識を高めることが必要」と考えている。

 差別発言をしたジャミネは34週間の出場停止処分を受けた。

 ジェグとオラドゥは、調査の結果、訴えを起こした女性の供述と、証拠となるホテルの監視カメラの映像や、女性が友人と交わしたボイスメールの内容との間に食い違いが見られるなど、訴えの内容の信憑性が問われ出した。まだ調査は続いており、無罪が言い渡されたわけではないが、要請があれば在仏アルゼンチン大使館、もしくはアルゼンチンに出頭することを条件に、2人はアルゼンチンからの出国を許可され、9月4日にフランスに帰国した。このまま彼らが無罪になれば、お咎めなしで選手としてすぐに復帰が許されるのだろうか。

 南アフリカの海に消えてしまったメディ・ナルジシの両親は、「なぜこのような非常識なことが起こったのか、真相を知りたい」と訴えを起こした。弁護士同席のもとで開かれた記者会見で、メディの父が、「危険とされる海岸をリカバリーセッションの場に選んだのはチームのS&Cコーチの独断で、HCも聞かされていなかった」と南アフリカの警察の調査から知ったことを明かした。

 フランス協会のフロリアン・グリル会長は、『シュッド・ウエスト』紙の取材に対して、「予定されていた場所でもない、推奨もされないこの場所に行ったことを正当化するものは何もない。だからスタッフ全員を停職処分にしたのです」と答えている。

 今週末、全てのトップ14とプロD2の会場で、試合に先立ってメディにオマージュが捧げられる。メディはトゥールーズの育成コースに入団するまでは、かつて父がプレーしていたプロD2のアジャンで育った。金曜日の夜、アジャンの選手は、胸に「メディへの思い」、背には「ナルジシ一家を支援する」と書かれたTシャツを着て、試合前にオマージュを捧げた。

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