その他 2024.08.19

「キッズトライ」、初めて海を渡る。次なるステージへ、「トライ」に思いを込めて。

[ 櫻井公博 ]
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「キッズトライ」、初めて海を渡る。次なるステージへ、「トライ」に思いを込めて。
台湾で「トライ」する日本のキッズたち

「海を渡る」。この言葉、みなさんにはどのように響くだろうか。「決断する」「覚悟を決める」「トライしてやる」、腹に決めた何かを感じはしないだろうか。
 2018年に岩手県釜石市で産声を上げた、ラグビーを通じた国際交流イベント「キッズトライ」が、5回目の開催を迎えた2024年5月、初めて海を渡り、台湾で開催された。

 釜石・熊本・福岡・広島のキッズ(小学4~6年生)が、海を渡って「トライ」を続けた4日間。主催した一般社団法人子どもスポーツ国際交流協会(略称「KSE」)で代表理事を務める向山昌利氏が「初めてのトライづくしだった」と語ったイベントの模様を、向山氏の言葉とともに振り返る。

 5月3日金曜日、台湾へ。海を渡る「トライ」をすると心に決め、参加したキッズは25名。多くのキッズにとって「初めて親と離れての生活」「初めての飛行機」、さらに「初めての海外旅行」だ。
 日本の4地域から集まったキッズ。ほとんとが初めて会う人たち。どうやって話しかけようか。台湾へ出発。初めてのパスポート、どうやったらいいんだろう。台湾での食事、どう食べていいかわからない。普段なら、なんてことのない買い物だって、どう買っていいかわからない。次から次へと「初めて」がキッズに襲いかかる。胸がどきどき、足がすくむ。「みんな、顔がこわばっていましたね。キッズをどうサポートしようか。僕たちもトライだなと強く思いましたよ」と、向山氏は当時の状況を語る。

 5月4日土曜日、台湾を知る。台湾が誇る「お宝」を収めた故宮博物院で、台湾の歴史や文化を知り、台湾料理の食事、台湾のコンビニやスーパーで買い物をして、日常生活を学んだ。「日本人みんなで同じ経験をしたことで、日本チームの形ができてきました。個の集まりからチームへ。これで明日、異国の地で、異国の同年代の人たちと『チーム』で交わることができるなと、少し安心しました」と向山氏は感じたという。

 5月5日日曜日、いよいよ台湾のキッズと交わる日がやってきた。台湾のキッズは30名。たしかに言葉はわからない。でも、ほんの少しだけど台湾のことを勉強した。そして私たちには最強の共通言語、ラグビーがある。言葉はわからなくても、ボールを通じてわかりあえることを知る。もう、この日の夜には、ついさっき初めてボールを交えたばかりの台湾の新しい友だち、その家族とも一緒に、夜市へお出かけ。笑顔があふれる1日。向山氏は言う。「壁にぶつかっていく『トライ』の大切さ、壁を乗り越えさせてくれるラグビーの凄さを、キッズは知ったはずです」。

 5月6日月曜日、台湾から帰国。この4日間、キッズにはイベントが、「トライ」がたくさんあった。そして、これらのイベント、「トライ」のすべてを、25名全員でぶつかることができた。
「初日、緊張だけだった表情が、最終日には、みんなが自信に満ちたものになっていました。日本では初めてであっても、どうにかなります。でも、台湾では本当にどうにもならない。しかし、その不安から逃げずに立ち向かわなくては、これまたどうにもならないことにキッズは気づいてくれたと思います。まず自分が『トライ』して乗り越えようとした。そして全員で束になって、すべてに『トライ』して乗り越えた。みんなでスクラムが組めるようになった。4日間という短時間で見事な『ONE  TEAM』になりましたね。私たちが思っている以上に、キッズの力は素晴らしいです」と、向山氏は目を細める。

 台湾での4日間、キッズにとっても「トライ」の連続だったが、「キッズトライ」のイベントにとっても、海を渡った初めての異国での開催は大きな「トライ」だった。この「トライ」に立ち向かうにあたり、向山氏にとって力をくれた存在があった。2018年から4回に渡って日本で開催したこのイベントに参加してくれたキッズのなかから、中高生になって、今度はスタッフとして参加してくれた、イベントに帰ってきてくれた2名の存在だ。

 向山氏は語る。「これまでは、『トライ』の大切さ。なんとかキッズに伝えたい。その思いを込めて、このイベントを開催してきました。キッズに向けて、一方向にベクトルを向けてきました。すると、続けていたら、この思いを返してきてくれたキッズが現れた。双方向になったんだな。イベントが線から輪を描き出したんだな。そう思いました。これで、イベントを運営する我々も、もっとバインドの強いスクラムを組むことができるかもしれない。このイベントをもっと大きな輪を描く存在に育てることができることかもしれない。そんな手ごたえを得ることができました」。

 ラグビーを通じたジュニア世代の台湾との交流という点においては、2012年より3度の台湾訪問をKSEは開催している。しかしKSEは、スポーツを、ラグビーを通じた国際交流イベントなどを通じて、グローバルリーダーの育成をめざしたいという強い思いから始まったチーム。人材育成を目的として、ラグビーだけでなく、異文化に触れるプログラムなどを加えることで、さらにスケールを大きなものにして、2018年に立ち上げたイベントが「キッズトライ」だ。

 その「キッズトライ」が初めて海を渡った。今回の台湾での「トライ」は、これまで時間をかけて蒔いてきた種から、芽が生えてきた感触を得られたものであった。また一方で、芽を育てていくという次なるステージに進んだこともまた、強く感じたものであった。
「『トライ』して、壁を乗り越えるためには、チームが束になってスクラムを組む必要があることを、あらためて今回、参加してくれたキッズから逆に教えてもらいました。そして今後、我々の思いを未来につなげて、叶えていくためには、一緒に強いスクラムを組んでくれる仲間がさらに必要だということも、キッズから伝えてもらったと思っています。キッズの明るい未来、そのためのグローバルリーダーの育成、それをラグビーを通じて実現したいという私たちの思いに少しでも関心を寄せていただいて、一人でも多くの方に、どんな形ででも、活動の輪に加わっていただきたいという思いでいっぱいです」 向山氏の言葉である。

 ラグビーを通じて社会貢献を果たす。これは、ラグビーという競技の未来にとって必要な視点。その一翼を担おうとトライし、奮闘するKSE活動には目が離せない。ラグビーの未来のためにも、その活動を応援したい。

ラグビーを通じた交流に笑顔のキッズたち

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