国内 2024.07.21

代表戦全校で応援の札幌山の手 ラグビー部の今昔物語

[ 向 風見也 ]
代表戦全校で応援の札幌山の手 ラグビー部の今昔物語
札幌山の手ラグビー部。7月21日の日本対イタリア戦は全校で応援する(撮影:向 風見也)

 黒板の左隅にメモがあった。

<13時45分着席>

 場所は北海道。札幌山の手高校の教室だ。

 7月21日に全校生徒が札幌ドームへ集まり、ラグビーの日本代表対イタリア代表戦を応援することになっていた。試合のキックオフは14時だ。

 事前にイタリア国歌も練習する。本番2日前にあったラグビー部の練習では、佐藤幹夫総監督が古谷飛翔に言う。

「ちゃんと練習したか? テレビがラグビー部を見るっていうから。歌ってなかったらばれちゃうぞ」

 現役の日本代表で今季主将のリーチ マイケルが、日本で初めて通った場所である。佐藤はリーチが在籍していた頃の監督だ。

 ラグビー部以外の生徒までもが観戦に駆り出されることに、学内で色々な意見があることは知っている。しかし、日本ラグビー界の顔になったリーチへエールを送る気持ちは強い。

 現役プレーヤーの代表、古谷はこうだ。

「全員が(ラグビーの)ルールを覚えてくれたら、楽しいのになぁ」

3年間リーチの担任教師だった黒田弘則監督(撮影:向 風見也)

 黒田弘則監督は3年間、リーチの担任教師だった。黒田から見てのリーチはクラスでそれほど目立たず、叱ることはほぼなかった。トレーニング室にそばの麺が落ちていて、「ここで食べたやつは誰だ!」と呼びかけたらリーチが「ごめんなさい」と申し出てきたのが思い出になっているくらいだ。

 時間が経ったいまも「いきなり連絡が来る」ことの多いリーチに関し、こうも述べる。

「生徒にとっては、存在が遠い気がします。特別なラグビー部員でさえも先輩というより『憧れのリーチさん』という感じ。(年齢も)大分、離れていますからね」

 札幌山の手高校にラグビー部ができたのは1988年。女子高から男女共学になって間もない頃だ。

 作ったのは佐藤だ。最初はサッカー部と野球部とソフトボール部に押されて学校の校庭が使えず、近所の公園でボールを回したり、視線の先にある三角山で走り込んだりした。メンバーは、喫煙が強く疑われる生徒へ「ラグビー部に入るか? 停学になるか?」と声をかけるなどして集めた。

 リーチがチーム初の高校日本代表選手になった時も、中学まで競技未経験だった選手がいた。冬の全国大会への出場回数を21度まで伸ばしたいまに至るまで、幾多の物語を紡いできた。

 現在のクラブでは、ひとつでも多くの勝ちを目指す部員がほとんどだろう。

 大阪の長吉西中でラグビーを始めた古谷が入部したのは、同じ中学出身で1学年上の南端康希に憧れていたからだ。野球から転向するや突進に快感を覚えて楕円球に夢中になったが、札幌山の手から声がかからなければそのままスパイクを脱ぐつもりだった。

 全国大会の上位を占める大阪の選手らしい観点で、こう述べる。

「強豪校は『(全国)ベスト8が通過点』みたいになり、達成感がないかなと。全国でそこまで成績を残せていないチームで上に行けたらいいな…と」

 ポジションはHO。スクラムの最前列中央を担いながら、持ち前のランと高校で鍛えたタックルを長所とする。リーダーとしても踏ん張る。黒田監督によればこうだ。

「指示も的確に出して、プレーも頑張っている。それにつられて、去年まで少し目立たなかった子たちも声を出すようになった」

 学校を訪問してくれたことのあるリーチと自身との距離感について、「体感では身近ですが、ラグビーのなかだったらめっちゃ遠い。まだまだ触れられないというか」。選手として高みを目指しているからこそ、いかにリーチが常人離れしているかがわかる。

古谷飛翔[札幌山の手/HO](撮影:向 風見也)

 印象的なのは今年5月26日。東京・国立競技場での国内リーグワン決勝だ。

 東芝ブレイブルーパス東京の主将兼NO8だったリーチは、唯一のレギュラーシーズン全勝を果たしていた埼玉パナソニックワイルドナイツに対してトライセーブを披露。ピンチで身体を張る姿こそ、真のリーダーシップなのだと古谷は痛感した。

「主将が声で引っ張るのは簡単ですが、リーチさんは絶対に身体で示す。タックルして、アタックでも前に出て、ハンドリングスキルで仲間も活かす」

 卒業後は大学へ進まない。もともと高校まで全力を注ごうとだけ考えていたから、来年からもう4年、真剣に戦えるかが予測できないからだ。

 これからは働きながらプレーできるリーグワンのクラブに挑むか、そのまま引退するかで悩んでいる。

 札幌ドームで熱戦を見守った後は、全国7人制大会、夏合宿を経て、9月の全道大会で2年連続の全国行きを狙う。高校ラグビー生活最後の季節へ突入する。

「もしかしたら、ラグビー人生が最後になるかしれないので、悔いを残したくない。妥協しないで、やり切る」

 大物が青春を謳歌した地で、自分だけのストーリーを紡ぐ。

リーチ マイケルが母校に寄贈した自身の銅像(撮影:向 風見也)

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