日本代表 2024.07.08

対マオリ・オールブラックス2戦目、大きく変わった「得点圏打率」の裏側。第2次ジョーンズ体制初勝利はどう生まれたか。

[ 向 風見也 ]
対マオリ・オールブラックス2戦目、大きく変わった「得点圏打率」の裏側。第2次ジョーンズ体制初勝利はどう生まれたか。
攻守の”エフォート”で勝利に貢献したNO8サウマキ アマナキ(撮影:早浪章弘)

 野球で言う「得点圏打率」が様変わりした。

 日本代表に準ずるJAPAN XVは、7月6日の夜、対マオリ・オールブラックス2連戦のリベンジマッチに臨んだ。

  10-36で敗れた7日前の初戦と比べ、敵陣22メートルエリアに攻め入った回数を少なくとも2度は減らしていたのに、スコアした回数は3度も多くした。

 10分の先制時にはペナルティーキックからの速攻でフィニッシュしつつ、その後は前回狙わなかったペナルティーゴールを3度選び、仕留めた。

 かたやマオリ・オールブラックスは、最初のゲームで活かしていた得点機を何度も逃していた。

 JAPAN XVは26-14で白星を掴んだ。SHの齋藤直人ゲーム主将はこうだ。

「22メートルエリアに入ってスコアを獲り切り、先にゲームを支配できた。そしてディフェンスを我慢強くできた。攻められる場面でも簡単に(点を)取られることもなく、粘り切れた。…あとは、80分を通して『オン』の状態でいられたと感じています」

 舞台は愛知・豊田スタジアムだ。昼間の気温は35度超。猛暑日だった。ファーストゲームのあった東京・秩父宮ラグビー場で吹いていた微風も、この夜は皆無だった。

 フィールドからは、前半のうちにこの日本語が響いた。

「相手、疲れてるよー!」

 日本代表およびJAPAN XVは、6月6日から気温の高い九州地区で猛練習をしてきた。かたや2連勝を目指していた黒の軍団は季節が冬の南半球から訪れ、まだ11日目だ。蒸し暑さがどちらに味方するかは歴然だった。

 マオリ・オールブラックスは序盤からJAPAN XV側に「近くで見ていたら、こちらが疲れている時に向こうはもっと疲れている」と見抜かれ、後半になればゴールラインに近づいてからのラインアウトなどで防げる類のエラーを連発した。

 その事実が、彼我の「得点圏打率」の差に関与した。

 勝ったエディー・ジョーンズHCは言う。

「(直近のキャンプ地である)宮崎でも36度というなかでトレーニングをしてきました。身体がつって動けなくなる選手もいました。そうして暑さに慣れてきたことは、ホストのアドバンテージです」

 もっとも敗れたCTBのラメカ・ポイヒピは「確かに暑かったけど、両方とも同じコンディションのもとで戦った。そのなかで日本の方がよりよい試合をしたということ」。敵軍が讃える通り、桜の群れがしぶとかったのも確かだ。

 デイビット・キッドウェルアシスタントコーチの唱える防御、タックルの詳細は、6月6日に日本代表が始動してから次第に身体化していた。一枚岩のラインとダブルタックルの鋭さは中盤、さらには自陣ゴール前でも保たれた。

 ハードに刺さりまくったFLの山本凱は、淡々と述べる。

「前半からエネルギーを残さないつもりでどんどん行こうと思いました。タックルに行ってすぐ起き上がって、タックルに行って…と」

 イエローカードで数的不利を強いられていたハーフタイムの直前には、トライラインを背にして8点リードをキープした。37分にノックオンを引き出したのは、一時は出血で退いていたPRの為房慶次朗とNO8のアマナキ・サウマキだ。

 サウマキは述懐する。

「簡単にマオリ・オールブラックスをドライブさせないよう、ひとりひとりのエフォートを上げて守った」

 勤勉さは陣地の獲り合いでも示した。SHの齋藤直人、SOの山沢拓也が空いた区画へキックを通し、その弾道を複数名で追う。捕球役のカウンターアタックを抑制し、蹴り返されるエリアにも十分な人数を揃えた。

 20歳のFB、矢崎由高はそのチェイスの動きを全うしながら、球を得れば好ランを連発した。

「少しでも自由を奪う意味でも、キックチェイスは頑張ってやろうと思いました」

 常に先行し、山本曰く「(自分たちがあまり)疲れないペースで相手を追い込めた」。逃げ切り体勢に入ったのは、7点リードの後半32分以降のことだ。

 マオリ・オールブラックスがイエローカードで1名を欠き、JAPAN XVは続く35分にグラウンド中盤右に数的優位を作った。

 ここからほぼノーマークだったCTBの長田智希が中央方向へ駆け込み、連続攻撃を加速させた。敵陣22メートルエリア右で先方の反則を誘った。大人数によるモールでだめを押したのは36分のことだった。

 始動から約1カ月間の積み上げと、特にこの約1週間での準備を通し、「得点圏打率」に変化をつけられた。

 まして今回は、先発15名中13名を国内出身者とし、メンバー23名のうち2名を大学生選手にしながら成功体験を積んだ。

 日本の代表関連チームがマオリ・オールブラックスを制するのも、スコッドを若返らせて「超速ラグビー」を謳うジョーンズ体制のグループが勝つのも、この日が初めてだ。

 指揮官は語る。

「勝てば自信が生まれ、それがさらなるハードワークに繋がる。若手が多いチームには、勝つことで培われる自信が大事です」

 13日には宮城・ユアテックスタジアム仙台で、日本代表としてジョージア代表を迎える。

 フィールド上のインタビューでジョーンズHCが「明日の朝からジョージア代表戦の準備が始まる」と宣言した約1時間後、JAPAN XVのロッカーでは両軍がビールを片手に大盛り上がり。それぞれ自国の歌を熱唱していた。

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