トヨタヴェルブリッツ退団の福田健太。全ては2027年のために。
トヨタヴェルブリッツの福田健太は、2023年のワールドカップ(以下、W杯)で全てが変わり、2027年のW杯に全てを賭けようと決めた。
今は長いリハビリの最中だ。3月9日、リーグワン第9節のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦の後半24分、ジャッカルに入った際に相手に乗られ、太ももに重度の肉離れを負った。
「グラウンドで足に力が入らなかったので、“もうシーズンは無理だなあ”と」
そのまま担架で退場した。
「トヨタの最後の試合が、ああいう形で終わったのがとても残念。自分の足で歩いて出たかった」
すぐに手術すれば早期復帰の可能性もあったが、「僕の生命線はスピード。身体にメスを入れて、それが損なわれるのは避けたい」と、じっくり治すことを決めた。
受傷から3か月、ようやくジョギングを始めた。
そしてシーズン終盤、5シーズン在籍したヴェルブリッツを退団することを決めた。
手術を選ばなかったのも、退団も、全ては2027年のW杯に出場するためだ。
福田が日本代表に初めて選ばれたのは、昨年のリーグワン終了後の6月。その後も代表として帯同していたが、なかなか出場チャンスはなく、初キャップはフランスでおこなわれたワールドカップの予選リーグ最終戦・アルゼンチン戦。後半35分からの交代出場だったが、その経験が人生を変えた。
「それまで代表欲ってあまりなかったんです。メディアに“将来どうなりたいですか?”と聞かれても、声を大にして“代表目指します”とは言えなくて。でも代表に呼ばれて、W杯に行かせてもらった。1キャップとって満足かなと思っていたら、いざそうなってみたら欲が出るもので。見えた景色が違った。あそこにいたら成長できる」
必ず2027年W杯に出場する。それが最優先目標となった。
「あの経験がなかったら、こういう決断にはなっていなかった」
今季、ヴェルブリッツにはNZ代表のアーロン・スミスが加入、先発はもっぱらアーロンが務めた。
福田はW杯から帰国後、開幕直前のプレシーズンマッチ・豊田自動織機シャトルズ愛知戦で足を痛め、開幕は間に合わなかった。
復帰は1月14日の第5節・花園近鉄ライナーズ戦だったが、3月に負傷するまで先発は第6節・東芝ブレイブルーパス東京戦の1試合。それも前半40分の出場で、4試合は後半の交代出場。今季のプレー時間は5試合で124分だった。
昨季の出場時間は16試合788分、2季前は12試合498分。その活躍が認められて、代表に呼ばれたのだ。
「これで次のW杯に出られるのか」と気持ちが揺らいでいた時期に、日本代表エディー・ジョーンズHCが豊田スタジアムの視察に訪れ、会う機会があった。
「エディーは“超速ラグビーは9番がとても大事”と、僕のいいところを色々と言ってくれました」
迷いを告げると「アーロンから学べることもある」と諭された。スティーブ・ハンセン ディレクター・オブ・ラグビーからも同じことを言われた。
「でも僕の中ではそこは違って。もちろんアーロンから学べることもありますけど、試合を経験してなんぼ。僕も入って1~2年目の選手ではないし、アーロンは来年もいると聞いて、それで本当にW杯に行けるのか、と思ったので」
苦渋の決断だった。ヴェルブリッツに入ったからこそ、代表に呼ばれたという感謝は当然ある。
「トヨタでプレーしてなかったら、W杯にも行けてなかった。入って2年間、全く試合に出られなくて、周りのメンバーのおかげで成長させてもらいました。このクラブには感謝しかない。いいチームメート、いいスタッフに囲まれて、決めることは簡単ではなかったし、このメンバーとずっとやりたかった。今はこの判断が正しかったかは分からないですが、これから正しかったと言えるようにやるだけ」
新たなモチベーションも生まれた。
「トヨタのメンバーと二度と試合できないわけじゃない。お互い、いいパフォーマンスをし続けたら、日本代表でまた一緒にプレーできる。それぞれが切磋琢磨して、赤と白の段柄を着て一緒にプレーするのが僕の今のモチベーションです」
本格復帰は8月を予定している。日本代表のパシフィック・ネーションズカップが始まる時期だ。だが是が非でも間に合わせたい、という焦燥感はない。2027年に向け、ケガをしない身体を作ることが先決だ。
「ラグビーを始めてからずっと大きなケガがなくて、ここでケガをしたのには理由がある。W杯が終ってから、すごく調子がよくて順風満帆のときにケガをした。リーチさんとかリーグワンをフルに戦って、代表もずっと出続けている。そういうベテランに比べたら、代表の過酷なトレーニングと重圧に耐えきれる身体ができてなかったんだなあと思います」
活動を始めた代表のニュースを見聞きして、気持ちが揺らぐ時がないでもない。それでもすぐに切り替える。
「起きたことはしゃあない、と思う性格なんです。ジャパンに呼ばれなくても、次のリーグワンでいいプレーをして、また呼ばれるように頑張るだけ。目指すところは変わらない。これはもう1回、自分をしっかり見つめ直して頑張れ、と言われてる気がして。今はリニューアルの期間だと思っています。身体もチームもリセットして、27年に間に合うよう、もう一度スタートする」
これまで幾度もトヨタヴェルブリッツを救ってきたスピードと判断力は、代表が目指す超速ラグビーでも、欠かせないピースとなるはずだ。