イーグルス最終戦。田村優は「いい形で何かを残そう」。
視界から「消えた」と田村優は感じた。
ラストワンプレー。ハーフ線付近右のラインアウトからの連続攻撃で左の区画を攻めようとしたのは横浜キヤノンイーグルスだ。直前のプレーで33―33と同点とされるも、得意の展開で勝ち越しに迫る。
司令塔のSOに入った田村は、左側の区画へ球をさばく。しかし、弾道の行く末に立っているはずだったFBの普久原琉が転倒。ボールは、対する東京サントリーサンゴリアスの江見翔太に渡った。
4分前に投じられたばかりの江見が、そのまま約60メートルを走り切った。サンゴリアスは勝ち越した。直後のゴールも決まった。40―33。
5月25日、東京・秩父宮ラグビー場であったのは、リーグワン1部の3位決定戦だ。レギュラーシーズン4位のイーグルスは同3位のサンゴリアスに33―40で敗れた。
敗れた沢木敬介監督は、笑いをこらえたような表情で会見室に現れた。
「最後はドリフみたいな終わり方でしたけど。…あ、ドリフって、昭和の人しかわかんないか」
若き普久原が転んだことを1960年代後半から活躍した『ザ・ドリフターズ』のコントにたとえた。
「たらればを言ってもしょうがない。終わった後にミスがどうだというのはよくない」
現職4年目のボスは続けた。
「負けたのは俺の責任です。チームを勝たせられないのは間違いなく監督の責任で、選手は最後も同点(狙い)ではなくトライを狙いに行った。それが大事。逆転する意志を見せた結果。選手がスタイルを信じてやってくれたことに価値があると思います」
自身の辛辣な談話が注目されるのを知ってか、「普久原もこれで学んだと思います。ただ、ここから成長してくれないと…しばきます」と口角を上げ、「…あ、いまはしばくとか言ったらだめなんだよね」と補足。周りを笑わせた。事あるごとに言う。
「時代に(合わせて)アップデートしないと」
いつ限界を迎えてもおかしくなさそうだった。
19日のプレーオフ準決勝で、今季唯一の全勝を果たした埼玉パナソニックワイルドナイツに17―20と肉薄。接点で複数のハードタックラーを巻き込みながらスペースに球を繋いだり、大きく突破されながら懸命に戻って堅陣を敷いたり。
激戦の末、沢木曰く「ダメージ」が残った。翌週の練習時もその感は残った。
セミファイナルから3位決定戦までの中日は、対するサンゴリアスのほうが1日、短かった。もっとも、19日に20―28と応戦した東芝ブレイブルーパス東京との一戦では、キック主体のプランを遂行していた。さらに、肉弾戦で消耗するFWの控えが一般的な「5」よりも1枠多い「6」だった。ブレイブルーパス戦のスターターだったFWのひとりは、「疲労度は思ったほどではない」と述べていた。
いわば、相手より困難なスタートを切ったかもしれないイーグルスは、キックオフ後も困難と対峙した。
前半29分にトライをマークしたFBの小倉順平は、その直後に普久原と交代した。34分にはLOのリアキマタギ・モリが脳震盪で退き、そのままフィールドを後にした。
サンゴリアスが交代選手の活躍などで追い上げるなか、イーグルスはキック処理の誤りなどでやや停滞した。
終盤戦に突入すると、LOで献身のマシュー・フィリップがスパイクの上からテーピング。自陣ゴール前で粘りに粘った末に33―33と追いつかれる35分までに、奮闘していたFLのリアム・ミッチェルがチームの「反則の繰り返し」でイエローカードをもらってしまっていた。
その向こう側に、イーグルスの逆転をかけたアタックがあった。
今季は中盤戦で主力を怪我で欠くなか、2季連続で4強入り。3位決定戦に負けたことで順位こそひとつ落としたが、田村はこう総括した。
「勝負事で価値ある負けというものはないと思っていますが、この2試合(準決勝と3位決定戦)は、そうなんじゃないかなと。チームの成長を考えたら、去年の3位より嬉しさはある。優勝へ必要な段階を踏んでいる」
2018年度のトップリーグで16チーム中12位と低迷していたイーグルスは、沢木体制をスタートさせてタフさが増した。その一挙手一投足で緊張感を醸す指揮官について、この日18分に登場のSHの天野寿紀はこう証言する。
「本当は、めっちゃいい人ですよ。でも、あの人の目的はこのチームを強くすることと、文化を作ること。本来の沢木敬介さんと、監督としての沢木敬介さんは違う人です。最初のうちはそれが理解されていなかった部分もありますけど、4年目にして誰もがわかってきた。(仲間内で)そういう話もします。ただ皆、沢木さんには厳しくあって欲しいという思いも持っている。ガッと『仲良しクラブじゃねーんだ』みたいに言われて、燃えるところもあるので」
組織は生き物であることをにじませる。
田村は「来年、ちょっとの緩みで入替戦に行く可能性も十分にある。でも、力はつけている」と締めた。