コラム 2024.05.29

【コラム】世界をリードする大会へ。リーグワン2023-24回顧。

[ 直江光信 ]
【キーワード】
【コラム】世界をリードする大会へ。リーグワン2023-24回顧。
東芝ブレイブルーパス東京加入1年目で大仕事をやってのけたSOリッチー・モウンガ。ディビジョン1のMVPも獲得した(撮影:松本かおり)

 トップ4によるプレーオフの激突はどの試合も文句なしにおもしろかった。レギュラーシーズンの印象に残ったゲームを挙げれば十指に余るどころではすまない。ヒリヒリするような緊張感が画面越しに伝わってくる入替戦もみな見応えがあった。3シーズン目の全日程を終えたリーグワンの、率直な感想だ。

 各クラブのたゆまぬ努力に海外からの大物選手の来日も重なって、ゲームのクオリティと強度は各ディビジョンとも一段とレベルアップした。こんなラグビーが日本で日常的に見られるようになったなんてすごい時代だ、と何度も感心した。リッチー・モウンガとチェスリン・コルビがハイボールを競り合い、ブロディ・レタリックとピーターステフ・デュトイが芝をめくり上げるようなコリジョンを繰り広げ、抜け出したダミアン・デアレンデにジェシー・クリエルが猛カバーで追いつくシーンを目の当たりにしても、おー、というくらいの驚きにとどまることに驚く。慣れって怖いですね。

 個人的なベストゲームは5月18日のプレーオフ準決勝、埼玉パナソニックワイルドナイツ対横浜キヤノンイーグルス戦だ。どこにも隙がないように見えた盤石のワイルドナイツを、イーグルスが焦点を絞りきった攻守で土俵際まで追い詰めた。負ければ終わりの極限の重圧に、あのワイルドナイツがいつも通りのプレーをできなくなった。これぞノックアウトステージ。この試合におけるイーグルスのパフォーマンスは、歴史に残る死闘となった1週後のファイナルにも少なからず影響を与えたと思う。

 相手の急所を的確に突く精緻なラインアタックに、イーグルスの渾身の準備はにじんだ。「去年だったら、トップ4に入って、ワイルドナイツに負けても、しょうがないなという感じだった。今年はロッカーでみんな涙を流して悔しがっていた。そこは、チームが成長した部分だと思う」。そう語る沢木敬介監督の表情は、味があった。

 4月14日の第13節、秩父宮での東芝ブレイブルーパス東京対コベルコ神戸スティーラーズ戦。扇の要であるSOリッチー・モウンガを欠く中、おもしろいようにパスをつないで一気にゴールラインまで持っていくブレイブルーパスのダイナミックなアタックに何度も感嘆のため息が出た。すべてのトライがシーズンのベストトライ候補になるような美しき猛攻。19点ビハインドから最終的に40-40の同点まで追い上げたスティーラーズの迫力に満ちたアタックもまた圧巻だった。試合終盤、ビジターゲームにも関わらず自然発生的に沸き起こった「コウベコール」は、選手たちのスピリットが観客のハートを動かした確かな証だ。

 その前日の長崎。三菱重工相模原ダイナボアーズがトヨタヴェルブリッツを迎えたかきどまり陸上競技場の光景も忘れられない。三菱グループ創業の地での特別なホストゲーム、そして全国でも有数のラグビー熱狂地帯である長崎で初めて開催されるリーグワンの公式戦に、スタジアム記録を大幅に更新する6,517人のファンが詰めかけた。ビッグプレーのたびに沸き起こる大歓声は、長崎の人々がいかに最高峰のラグビーを地元で観戦する機会を待ちわびていたかを表していた。試合後、20-34の敗戦にも関わらず充実感と達成感に満ちた様子で後片づけに奔走するダイナボアーズのチームスタッフたちの姿は、今もはっきりと脳裏に刻まれている。

 私的プレーヤー・オブ・ザ・シーズンはブレイブルーパスのワーナー・ディアンズ。リーグ戦の全16節とプレーオフ準決勝、決勝の18試合すべてに先発し、1390分(1試合平均77.2分)プレー、201センチの長身を生かしたラインアウトはもちろん、強靭なボールキャリーやタックルでも絶大な存在感を示した。この人がニュージーランドでもイングランドでもなく日本代表を選んでくれて本当によかった、と何度も思った。まだ22歳。タフで、類稀なポテンシャルを有し、日本語と英語を流暢に話す。エディーさん、日本代表の新キャプテンにどうですか。

 ベストモーメント。プレーオフファイナルの後半ロスタイム、崖っぷちに追い込まれたワイルドナイツがブレイブルーパスボールのスクラムを押し込んでペナルティをもぎ取った。絶体絶命の状況にも勝利を信じ全力を尽くす姿勢に、人間の根源的な力が立ち上った。意地。誇り。尊厳。堀江翔太、かっこよかった。

 リーグワンは世界のラグビーをリードするコンペティションになれる。創設当初に掲げた壮大な目標が夢物語ではないことを、あらためて肌で感じたシーズンだった。国際的なビッグネームの加入がこれだけ続くのは、決して金銭的な理由だけではない。競争力の向上とプレーヤーウェルフェア(選手の福祉)を両立しつつ競技を発展させていくためのヒントが、日本ラグビーにはある。

 そして、だからこそ思う。よりよいリーグになるための改善と努力を、いち早く、妥協なく進めてほしい。順位争いを難解にするディビジョン1のカンファレンス制は、本当にふさわしいフォーマットなのか。観戦のベストシーズンである10月、11月に公式戦がない現状のスケジュール、ファンベースの確立に欠かせないホストスタジアムの確保など、解決すべき課題は山積している。

 リーグワンは来季より、段階的計画のフェーズ2を迎える。フェーズ1の試行錯誤を正しく総括し、選手、クラブ、ファンが一丸となって未来へ進んでいくビジョンが示されることを願う。

【筆者プロフィール】直江光信( なおえ・みつのぶ )
1975年生まれ、熊本県出身。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。早大時代はGWラグビークラブ所属。現役時代のポジションはCTB。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。ラグビーを中心にフリーランスの記者として長く活動し、2024年2月からラグビーマガジンの編集長

PICK UP