チャンピオンズカップ制したトゥールーズ。3年ぶり6度目の優勝に、街は大興奮
アントワンヌ・デュポンの目に涙が光った。
5月25日にロンドンのトッテナム・ホットスパー・スタジアムで行われた欧州チャンピオンズカップの決勝戦は、80分で決着がつかず(15-15)、延長戦にもつれこみ、トゥールーズが100分間の壮絶な戦いを制してレンスターを破り、3年ぶり6度目の優勝を果たした(22-31)。
「3年前にこの優勝カップを掲げることができた。でもその後2年続けて準決勝で敗退して、どれだけ難しいことか身を持って知っている。だから純粋に嬉しい」と、試合後の記者会見で笑顔を見せた。
2年続けて撃破されたレンスターは、トゥールーズにとって鬼門の相手とも言われていた。
「僕たちもどこかでそう思っていた。だから勝たなければならなかった。グループ内で今年は状況が違うと何度も言っていた」とSOロマン・ンタマックが明かす。
決して楽な戦いではなかった。スクラムは劣勢だった。ハイボール処理もミスをした。それでも崩れなかった。
デュポンも当然狙われた。プレッシャーをかけられ、ラックからボールを思うように出せず、レフリーに対して苛立ちを見せる場面もあった。
昨年のワールドカップで敗退した南アフリカ戦では、気持ちを切り替えることができなかった。フラストレーションを抱えたままだったが、今回は違った。
「カウンターラックに来た選手が9番の手を叩くのはルールでは認められていない。レフリーに伝えたら『問題ない』と言うだけだったから、対応策を見つけなければならなかった」
パスができないのならと、別のスキルを披露。大事な局面で2度の50/22キックを成功させチームをピンチから救った。
さらに、ラックでボール争奪戦に参加し、4つのターンオーバーに成功した。
「7人制ではラックでボールコンテストすることがとても重要だから、そのために練習したことが生きた」と7人制で進化したことを示した。
デュポンの他にも、ンタマック、FLジャック・ウィリスの2人がそれぞれ2つのターンオーバーに成功し、トゥールーズが12のボールをレンスターから奪った。それに対し、レンスターは8だった。
レンスターの武器であるモールもゴール前で止めた。
「決勝は、相手が得意としている分野で対等に戦えた者が勝つ。その通りになった」とトゥールーズのユーゴ・モラ ヘッドコーチ(以下、HC)は振り返る。
何より顕著だったのはタックル数の違いだ。レンスターの130(成功率85パーセント)に対して、トゥールーズは237(成功率90パーセント)。最も多かったのはウィリスの29。100分間、常に戦闘の前線に立って青い波を食い止めていた。
FLフランソワ・クロス、HOペアト・モヴァカ、そしてンタマックの3人が16タックルで続いた。
「こんなにディフェンスした試合は初めて」と言いながら、「でも間違いなくディフェンスのおかげで勝てた。このチームの気概と団結力の勝利だ」とンタマックは誇らしげに言う。
これまでもディフェンスに定評のあったンタマックだが、この試合では荒々しく襲いかかってくる敵と互角に戦い、これまでとは違う猛々しいプレーを見せた。
延長戦の初めにレンスターのWTBジェームズ・ロウがインテンショナル・ノックオンで10分間の退場となり、数的有利になるや否や、トゥールーズがこの試合で初めてのトライを決めた。
その後、PGを成功させて10点差とする(25-15)。トゥールーズの流れかと思われた。
しかし、LOリッチー・アーノルドが危険なタックルでレッドカードを受ける。レンスターが息を吹き返し、延長戦の前半終了間際に1トライ返し、コンバージョンも成功させて3点差に詰め寄った(25-22)。
そこからの10分間、トゥールーズは勇猛果敢に守った。コンタクトでボールを奪いにいき、相手のペナルティを誘い、2本のPGを決めて勝ち切った(31-22)。
「延長戦の後半が素晴らしかった。落ち着いてゲームマネージメントし、また自分たちがこれだけすごいことができる選手だと見せることができた。こんなとんでもない選手たちをコーチできるなんて、私は恵まれているし、誇りに思う。毎試合、感動を与えてくれるし、彼らをさらに成長させるには何をすべきかも教えてくれる」とモラHCは選手を称えた。
この試合は、トゥールーズの市庁舎前のキャピトル広場に設置された大型スクリーンでライブ中継された。1万5000人の人数制限が設けられていた広場はサポーターで埋め尽くされていた。
チームがトゥールーズに帰ってきたのは、すでに日付が変わって午前2時ごろだったが、約300人のサポーターが空港で待ち構えていて選手たちと喜びを分かち合った。
この優勝カップのお披露目は今週末(6月2日)、スタジアム・ド・トゥールーズで行われるラ・ロシェル戦の時におこなわれる予定だったが、サポーターの声援に応えるため、急遽試合翌日(5月26日)にキャピトル広場で実施され、トゥールーズの街は祝祭ムードに包まれた。
しかし、まだシーズンは終わりではない。トップ14でも優勝を狙っている。
この試合でHOジュリアン・マルシャン、LOエマニュエル・メアフー、CTBピタ・アキ、CTBサンチャゴ・チョコバレスが負傷し、レッドカードを受けたアーノルドは数週間出場停止になるだろう。見通しは決して明るくない。
負傷していない選手も、あの試合でのスピードと強度で100分間プレーした疲労は相当なものだ。選手たちには水曜日まで休暇が与えられている。
デュポンは5月31日から3日間開催されるマドリードでのセブンズ(HSBC SVNS 2024グランドファイナル)に出場するため、月曜日(5月27日)には7人制代表チームに合流し現地入りしている。
疲労による負傷を危惧して、トゥールーズ側は思いとどまらせようとしたとか。ケガのないことを祈る。