国内 2024.04.24

ラグビーを街の文化に。三菱重工相模原ダイナボアーズの挑戦

[ 村上晃一 ]
ラグビーを街の文化に。三菱重工相模原ダイナボアーズの挑戦
リーグワンでもっとも積極的に地域との連携を進めているクラブのひとつである三菱重工相模原ダイナボアーズ。相模原の街にとって欠かせない存在となっている(撮影:松本かおり)


 ぴかぴかの小学1年生に笑顔が広がる。背中の黄色いランドセルカバーには、「こうつうあんぜん」の文字とともに横断歩道を渡るダイボ君のイラストがある。そして、本物のダイボ君が目の前に現れる。期待と不安が入り混じる入学式の思い出。きっとみんなの記憶に一生刻まれることだろう。

 三菱重工相模原ダイナボアーズはこの春、ホームタウンである相模原市中央区の小学校の新1年生約1900名(22校)に、相模原交通安全協会と協力してランドセルカバーを贈呈した。ダイナボアーズの公式マスコット『ダイボ君』をあしらった親しみやすいデザインにすることで着用率を向上させ、事故の減少、交通安全を考えるきっかけにつながってほしいという願いがある。4月7日、相模原市立田名北小学校で贈呈式が行われた。

ダイボ君のイラストが入ったランドセルカバー。忘れられない入学式となった(写真:チーム提供)

 2021年に発足したジャパンラグビーリーグワンが目指すのは、「ファン、チーム、企業、地域」がひとつに結束して社会に貢献し、世界に羽ばたく人材を育てることだ。参加各クラブは安定的な運営、地域貢献についてさまざまな工夫を凝らしている。

 ダイナボアーズは地域貢献ではリーグワンの中で先端を走る。相模原工場は1970年に操業を開始し、ラグビー部は1971年に創部された。チームカラーの緑は相模原市の色であり、地域に根差したチームというコンセプトが脈々と受け継がれてきた。ただし、マネジメント統括の浦田昇平さんは言う。

「地域活動も社会貢献も地道にやってきましたが、事業、集客に結びつけられていませんでした」

 変化が見え始めたのは、昨夏、Jリーグの東京ヴェルディや日野レッドドルフィンズでスポーツマネージメントを実践してきた助川幸彦さん(ラグビーマネジメントチーム パートナーシップマネージャー)が加入してからだ。「試合のイベントなど、点と点だったものが線につながって目に見える成果が出てきました」(浦田統括)。

 ランドセルカバーも助川さんのアイディア。「相模原市の交通安全協会がやっていたことですが、絵柄をダイナボアーズに変えてもらいました。簡単なことではないのですが、交通安全協会も配布物には苦労していますので」。ダイナボアーズがサポートすることで協会の負担も減り、チームにとっては子どもたちに名前を知ってもらう機会になる。広報的にも意味は大きい。「いずれはダイナボアーズと他の企業が一緒に相模原の交通安全をサポートしているという形にしたいと思っています」

 以前から神奈川県警察と連携協定を結んでおり、試合会場にパトカーが来て交通安全の啓発をするなどの活動を行ってきた。そんな地域とのつながりも生きたランドセルカバーの贈呈だった。

 この他にも、今季はさまざまな企画を実施してきた。2024年1月13日の埼玉パナソニックワイルドナイツとの試合では、来場者ノベルティーとしてキッズバケットハット(1000個)を配布した。オフィシャルパートナーの株式会社テクノ菱和のマッチデーでの企画だ。帽子の側面に英語表記で小さく会社名を入れた。「スポンサーを大きく露出したほうが瞬間的なインパクトはありますが、デザイン性を高め、ライフスタイル商品として長く使ってもらうことで広告価値を上げるという提案をしました」(助川さん)。その後の観戦でも着用している子どもたちが多く、狙いは成功した。

来場者ノベルティーで配布されたバケットハット。デザイン性の高さから子どもたちにも好評だった(写真:チーム提供)

 丸の内15丁目プロジェクトとコラボした小旗はあえて小さくした。持ち運びにも便利で家でも飾りやすい。結果、会場で捨てられることがなかった。助川さんはラグビー経験者ではないが、新たなラグビー文化を作ろうとするリーグワンでの仕事を楽しんでいる。「ラグビーらしさ、ラグビーならではの良さがあります。それをないがしろにしてまで、スポーツビジネスはこうあるべきとは思いません」。

 白崎孝紀さんはマネジメントチームのPRマネージャー。社会的にも意義のある企画があがってくると、メディアに情報を出しやすいという。「お客さんを集める、イベントを盛り上げるということだけではなく、我々は相模原という地を盛り上げるためにスポーツをしています。相模原全体を振興するなかにラグビーがある。そのラグビーをどう見てほしいのかということを、営業、広報、マーケテイングの立場で連携しています」

 スタッフの皆さんの思いは熱い。マーケティングマネージャーの竹花耕太郎さんは未来を見据える。「助川とは、ダイナボアーズは街の文化のひとつになることができると話しています。かつてランドセルカバーを背負った子どもたちなどダイナボアーズのDNAを持った人々がスタジアムを満員にする。優勝した時に幸せになってくれる人をどれだけ増やせるか。そこに賛同していただける企業、行政の幅を広くして、事業性、集客にもつなげていきたいと思います。その第一歩を踏み出したのです」

 これまでも相模原および周辺の山を守る活動として間伐材でえんぴつを作って子どもたちにプレゼントし、タグラグビー教室や交通安全教室などで地域貢献をしてきたが、この一年で、地元軸にしたパートナーシップ、横のつながりが一気に広がった。

 D1の第15節が行われる4月27日は、ホストゲームとしてリコーブラックラムズ東京を迎える。今季のレギュラーシーズン最後のギオンスタジアムでは、これまでの活動を凝縮した地元軸の企画を準備している。地元で人気のオギノパン「丹沢あんぱん」を先着3,000名にプレゼント。さがみ湖森・モノづくり研究所が間伐材を使ってワークショップを行い、キーホルダーを作ることもできる。また、相模原市の酒蔵「久保田酒造」とコラボし300ミリリットルのダイナボアーズラベルで地酒「相模灘」を限定販売。この他さまざまな企画で会場を盛り上げる。

 ファンや地元の皆さんと共有できる夢があるからこそ、アイディアが浮かぶ。想像すると胸が躍るからこそ、力が湧いてくるのだ。ダイナボアーズがリーグワンのファイナルに進出したとき、スタジアムが緑で埋め尽くされる。相模原市から人がいなくなり、試合中は誰も道を歩いていない。そんな未来を思い描きながら、三菱重工相模原ダイナボアーズの選手、スタッフは、「全緑」でハードワークを続けるのだ。

街の文化になることがチームの目標。その取り組みは、着実に身を結びつつある(撮影:松本かおり)

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