試合翌日4強入り。コーバス・ファンダイクがイーグルスのモールを動かす。
欲しいものを手に入れた。
国内リーグワン1部の横浜キヤノンイーグルスは、4月20日、順位で5つ下回っていた三菱重工相模原ダイナボアーズとの第14節を43-19で制した。
3トライ差以上をつけての白星につき、勝ち点5を獲得。2試合を残し、合計48に上積みした。12チーム中4位を保ち、5位以下との差を広げた。4傑によるプレーオフへ2年連続で進むべく、得るべき果実を得たと言える。
会場の東京・秩父宮ラグビー場で、FLでフル出場のコーバス・ファンダイクは言った。
「過去にはうまくいかなかった試合もありましたが、修正し、いまがある」
19-19と同点だった前半から、スペースへ球を運んでチャンスを作る回数ではイーグルスが上回っていた。
ハーフタイムの直前にはダイナボアーズの連続攻撃にさらされるが、HOの中村駿太、CTBのローハン・ヤンセ・ファンレンズバーグが好タックルを放った。粘り強くトライラインの近くまで押し込まれたものの、結局、ピンチを脱した。
最後は、右隅の狭い区画に回り込んでいたファンダイクが走者をつかみ、ミスを誘ったのだ。南アフリカ出身の6番は笑う。
「嗅覚が機能して、そのディフェンスができました」
後半はダイナボアーズの反則が増えたのに乗じ、イーグルスは陣地を制圧した。着実に加点した。
ここで機能させたのはモールだ。自立した捕球役が中心となった塊である。空中戦のラインアウトから首尾よく作り上げ、まとまって動いた。
攻め始めの起点にしたうえ、31、45、56、73分のトライのきっかけにもした。
モールからのスコアは、最後尾に入る選手が記録しがちだ。
この日はHOの中村が、その位置で計3トライ。運営側選定のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いている。ただしグラウンディングの感想を聞かれれば、中村本人はこの調子だ。
「えーと、僕はボールを置いただけで…」
ここに補足するのは、ちょうど隣にいた沢木敬介監督。今年30歳となった中村を学生時代から知っているとあり、冗談を交えて語る。
「あれは、たぶん、駿太の娘でも(トライ)できます」
とにかくモールからのトライは、そこに関わった全ての人のものであるのをにじませた。中村は続ける。
「イーグルスとしてモールにこだわってきていて、それが成果として現れたのは自信になっています」
昨年12月中旬の開幕時期は、昨季までの得点源だったモールが不調気味に映った。就任4季目の沢木監督が「(次戦で)モールのトライがなかったら、もう2度とモールを組ませない」とFWに発破をかけることもあった。
もっとも、こちらも秩父宮でおこなわれた第11節では、強固なパックが奏功して上位を争う東京サントリーサンゴリアスに37-35で勝利。モールがイーグルスの強みのひとつだと再認識させた。かくして迎えたこの午後も、勝負どころでよくプッシュした。
ここで機能したひとりはファンダイク。身長196センチ、体重108キロのサイズ、頑丈さを活かす。
決勝点となる45分の1本は、敵陣ゴール前右で組んだ。
ジャンパーとなったLOのマシュー・フィリップを前方で支え、着地するやフィリップとつながる。タッチライン際からかかる複数の圧力を、背中に引き受ける。仲間との密度を保ったまま、向こうの防御をいなす。
やがて自分と逆側の味方が前に出て、次の瞬間にはファンダイクの側に空洞ができる。赤いジャージィはその方角へ向かい、24点目をマークした。
56分も似た位置でリードした。ここでは自ら球を獲り、地面に沈むや後進をタッチライン方向の隙間へいざなう。フィニッシュ。29-19。
73分にも捕球役となり、目の前に誰もいなかったのが幸いしてスコアラーにもなった。
中村によると、モールにおけるファンダイク効果は抜群だ。
「めちゃくちゃ効いています。日本人っぽい、低いプレーもできるので。(チームが目指すモールを組む流れで)コーバスが強く前に出てくれて、(その周りの)ディフェンス(が手薄になる)」
かたやファンダイク自身は、普段の練習で控え組の「ライザーズ」といいバトルができるおかげだという。
「ライザーズが実戦さながらのシチュエーションでプレッシャーをかけてくれる。これを毎回、繰り返すことで、試合でもパニックにならずに戦えるんです」
前年度は初の4強入りを陰で支えたと見られる「ライザーズ」は、一時、様相が変化。選手たちの話を総合すると、チーム有数のモチベーターだった山本雄貴が、先シーズン限りで引退したことが影響を与えたようだ。組織作りはかくも難しい。
とはいえ時期を重ねるなかで、ライザーズは生来の強度を取り戻してきたようだ。その流れに乗ってか、主力組はサンゴリアスとの第11節から4連勝中。翌日の他会場の結果にならい、プレーオフ行きを確定させた。ファンダイクは続ける。
「毎週、毎週、ライザーズのレベルが上がってきた。それによってメンバーにもプレッシャーがかかり、相乗効果で(チームが)よくなる」
来日5シーズン目の29歳。以前はこの国の継続居住年数を満たしての日本代表入りにも意欲を覗かせていたが、いまは「家族との時間を過ごしたい思いもある」。少なくとも、いまいるイーグルスを前進させるひとりであるのを約束する。