海外 2024.04.09

ンタマック(トゥールーズ)復活。W杯中の辛い思いを払拭し、再び躍動

[ 福本美由紀 ]
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ンタマック(トゥールーズ)復活。W杯中の辛い思いを払拭し、再び躍動
チャンピオンズカップのラシン92との試合で先発した。(Getty Images)



 今年は自国開催のワールドカップ(以下、W杯)のため、8月18日と、通常より早く開幕されたトップ14のレギュラーシーズンも残すところ6節となった。
 プレーオフ進出を、あるいはトップ14残留を懸けて、シックスネーションズを終えたばかりの代表選手の多くも休暇を後回しにして参戦し、熱い戦いが繰り広げられている。

 このタイミングでもトゥールーズのロマン・ンタマックが帰ってきた。
 8月12日にW杯に先駆けて行われたスコットランド戦での左膝十字靭帯を断裂して以来、約8か月ぶりのゲーム復帰だ。

 負傷した直後に、「この手術が僕のW杯。僕はまだ若くて、自分さえ努力をすれば、別のW杯に参加できる可能性が残されている」と気丈なコメントを発表していたンタマックだが、それでもW杯期間中は辛かった。

「試合はたくさん観たし、フランス代表の試合も1度だけスタジアムで観戦した(ナミビア戦)。でも他の試合をスタジアムに観に行く気にはならなかった。W杯のことは考えたくなかった。傷つくことがわかっていたから。自分を守るためにも、自分自身に集中するためにも、距離を保ちたかった」と今年の年明けに『ミディ・オランピック』に掲載されたインタビューで打ち明けている。

 さらに、「W杯でフランスが優勝していたら、もっと辛かったと思う。それほど傷は深かった。もちろん、代表の仲間にはどんどん勝ち進んで優勝してほしかったけど、もし彼らが優勝していたら、フランスラグビーにとっては最高の日になっただろうけど、僕にとっては最悪の日になっていたかもしれない」と正直な気持ちを述べている。

 現地では「自己中心的」と批判する声もあったが、自身の感情をあまり見せることなく、常に模範的な受け答えをするンタマックがこれだけストレートに本音を語るのだ。彼の悔しさが感じられる。

 ンタマックの復帰戦となったのはトップ14第20節、ホームでのポー戦だった(3月30日/31-29)。
 スタジアムに到着したトゥールーズのチームバスから選手が降りてくる。みんなと少し離れて最後にンタマックが出てきた。列をなして拍手と歓声で迎えてくれるサポーターの間を1人でゆっくりと歩いていく。いつものようにクールな表情だったが、内心はそうではなかったようだ。

「スタジアムに向かうバスの雰囲気、バスの降り口で待ってくれているサポーター。この時をずっと待っていた。試合に集中はしていたけど、しっかり味わいたかった。このために努力してきたのだから」と試合後に明かした。

 試合前のメンバー紹介でンタマックの名が呼ばれると再び拍手と歓声が起こり、試合中にインゴールでンタマックがウォーミングアップをしている間は「ロマン! ロマン!」とコールが鳴り響く。

 56分、ついにンタマックがビブスを脱いでベンチから出てきた。前節の試合で負傷したトマ・ラモスに代わって、この日SOに入っていたアントワンヌ・デュポンと交代してピッチに入る。
 トゥールーズのホームであるスタッド・エルネスト=ワロンの芝生を踏むのは昨年の5月28日のブリーヴ戦以来だ。スタンディングオベーションで迎えられた。

 スコアは26-22でトゥールーズがリードしているが、試合はまだ決まっていない。ユーゴ・モラ ヘッドコーチ(以下、HC)から「勝ってこい」と言われ、グラウンドに送り出された。
 すぐにボールが回ってくる。右にいたCTBポール・コストにパスを出す。いつものきれいな鋭いパスだ。10分後には、敵のディフェンスを3人かわし、左足に引っ掛けてインゴールまで攻め上がりチームを前進させた。

 その後、ポーがインターセプトからトライを奪い逆転、コンバージョンも決まり26-29とトゥールーズが3点を追う形となったところで、モラHCはデュポンをSHのポジションに再投入する。久しぶりのデュポン=ンタマックのHBだったが、「何か月も離れ離れになっていた感じはなかった」と試合後にデュポンは言う。

 勝利を決めた78分の逆転トライは、デュポンからパスがンタマックの手に渡り、WTBマチス・ルベルがゴールに持ち込んだ。
 24分間、ンタマックはシンプルに、そして的確にプレーした。

「復帰したくて仕方なかったから、とても嬉しい。ゲームも接戦で、すぐに試合にも入れた。ウォーミングアップで息が切れていたけど、ピッチに入ってからは上手くコントロールするようにした。1v1もできたし、コンタクトも問題なかった。いい感触だった」と振り返る。

 翌週のチャンピオンズカップでは背番号『10』をつけた(4月7日、vsラシン92/31-7)。
「こんなに早くノックアウトステージの試合に出るとは思っていなかった。トマ・ラモスが負傷していて週明けから準備はしていたけれど、本当の試合のリズムは別物。しかもチャンピオンズカップの決勝トーナメントだ。難しい場面もあったけど、リズムを取り戻すことに努めた。特に後半は息を吹き返そうとしていた」と明かす。

「(ンタマックが)50分を過ぎた頃から僕の方をチラチラ見るようになった。フィットネスはまだ戻っていないのだなと感じた」と言うユーゴ・モラだが、70分までプレーさせた。

「今までの彼らしく、派手なプレーではないが、チームを落ち着かせてくれる。ディフェンスでは、以前より強くヒットするようになった」とモラHCはンタマックのパフォーマンスについてコメントする。

 より強いディフェンスは、「怪我をする前よりも良いプレイヤーになって復帰する」と、リハビリ期間中にンタマックが取り組んだことの一つだ。

 今回のケガで自分自身を見つめ直した。
「痛みがあっても、口に出さず自分だけで抱えてきたけれど、そのせいでW杯に出ることができなくなってしまったのかもしれない。もっと心を開いて感じることを口に出してもいいのではと思えるようになった」

 さらに続けた。
「もうすぐ、小さな子どもが僕の帰りを家で待ってくれるようになる。試合のたびにケガをして帰れないよね。家での責任も増えるから、僕のことだけではなく、僕たちのことをこれからは考えていかなければならない。決して加減すると言う意味ではなく、自分の身体にもっと注意するということ」

 トゥールーズは現在、トップ14では2位。この週末はチャンピオンズカップの準々決勝でイングランドのエクセターと対戦する。
 シックスネーションズで多くの代表選手が不在の期間も勝ち続け、選手層が厚くなったことを証明し、二冠を目指している。

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