鍋で増量、快足飛ばす。石見智翠館・久富洋希が示した強み。
悔やまれたのは、この人が後半3分に退いたことだろう。負傷のためだ。
たいした問題ではない、と当の本人は言う。試合後の表彰式や写真撮影の際は仲間の背負に担がれていたが、立ち歩くことはできた。
3月30日、埼玉・熊谷ラグビー場。石見智翠館の新3年である久富洋希が、全国高校選抜大会の決勝に先発。大阪桐蔭の圧力に屈して3-55と敗れるなか、身長171センチ、体重72キロの11番は気を吐いていた。再三、ラインブレイクを決めた。
トライを決めて國學院栃木を24-17と下した準決勝に続き、快足を飛ばしたのだ。
「常にチャレンジャーの気持ちで泥臭く、感動を与えるラグビーをしようと思ってグラウンドに入りました。僕たちは外に(ボールを)振るのが得意なので、それが通用したのはよかったです。(自らは)得意のランで敵陣に入りたかった。チームメイトにもどんどんパスを回してこいと伝え、強みを出しました」
改善点も見出している。
激しい部内競争を強いられていて、スターターになれたのは準決勝から。「けがをしてしまったチームメイトの分もやろうと思い、気持ちが入っていました」と爪痕を残しながら、こう話す。
「自分はまだまだ身体が小さい。もっと大きくして、スペースがない状態でもゲイン(突破)できるようになりたいです」
中学時代までは神奈川でラグビーをしてきた。島根にある全寮制のこの学校では、日々の洗濯を部員と協力しておこない、晩御飯の後に鍋などの夜食を摂取。ここ2年ほどで約12キロの増量を成し遂げたうえ、日々を充実させる。
「毎日、夜まで友だちと話す。ラグビーについても、それ以外についてもコミュニケーションが取れる。楽しいです」
この春から就任2シーズン目となる出村知也監督は、「もともと能力が高い、レギュラークラスの子。それまでは自信を持てないこともあってディフェンスで後退することもありましたが、きょうはすごいパフォーマンスでした。これから楽しみにしています」。今回のことは、加速力のある教え子がさらに浮上するきっかけになるのではと期待する。