『ポケットロケット』山口楓斗(静岡ブルーレヴズ)は、藤井雄一郎監督の作る男メシで育った
ボールを持つと必ず前へ出るポケットロケット。167センチ、76キロと小柄も、鋭いステップと、捕まってもなかなか倒れぬ腰の強さが魅力だ。
山口楓斗(ふうと)は、いつもファンを楽しませる。
3月16日(土)のリコーブラックラムズ東京戦で、静岡ブルーレヴズは久しぶりに勝った。
3連敗中だった同チームは36-29と80分の戦いを制した。1月27日に花園近鉄ライナーズを50-12と下して以来、49日ぶりの勝利だった。
後半30分過ぎまで2点差の接戦。粘る相手を最後に突き放した。
山口は自らトライを挙げることこそなかったが、この日はチャンスメイクと周囲を生かすプレーで目立った。
前半15分にWTBマロ・ツイタマが奪ったトライの前には、相手キックを受けたWTB奥村翔からのパスを受けて走った。
狭いスペースに鋭く切れ込んで前に出て、その後の大きな展開に結びつけた。
チーム2つ目のトライは前半20分。左スクラムから大きくボールを動かすアタックに加わり、ラストパスを出した。
WTB奥村を完全にフリーにする絶妙のタイミングで球を離した。
後半も敵陣でオフロードパスをつなぎ、PR伊藤平一郎らFWを前に出して好機を作った。サム・グリーンのPG、3点追加を呼ぶプレーだった(後半20分)。
試合後の本人は「チームとしての結果は良かったのですが、個人的にはダメでした」と振り返るも、しっかり勝利に貢献していた。
自身が反省点として挙げたのはフィールディング。キック処理などに安定を欠いたと感じたようだ。
もらいたいタイミングでボールを手にできなかった感覚も残った。「もっとコミュニケーションを取り、もっとハードワークしないと」と反省する。
2022年春の加入。今季は開幕からの全10試合に先発(FBで7試合、WTBで3試合)し、多くの試合で80分ピッチに立ち続けている。
昨季はケガ人続出によりチャンスを掴んだ。第5節から4試合連続で出場機会を得る。
しかしその後、腕の骨折で離脱を余儀なくされた。
自分の強みを理解してプレーし、チームから求められていることを意識して動く。この日もそれを実践した。
3連敗中、FWのセットプレーに不安定なところがあった。だからブラックラムズ戦は「BKがFWを助けよう」と準備して臨んだ。
序盤の2トライは準備が奏功したものだった。
両WTBがインゴールの左右の隅に飛び込んだのは、相手防御が内に寄ると分かっていたから生まれた。
「そこをうまく突けたと思います」
ボールを持ったときには少しでもゲインする。周りを見てプレーする。それが自分に与えられた役割と理解している。
「そう意識して練習し、プレシーズンマッチでプレーしたことがシーズンにつながっていると思います」
1対1のシチュエーションは見せ場だ。絶対に負けたくない。
抜く。コンタクトが起こっても一発では倒れない。そう強く意識してプレーする。
「気持ちの強さも大事ですが、相手に思いっきり(タックルに)入られないようにしています。ポイントをずらすようにして前に出る」と、感覚を言葉にする。
「小さいから、この動きができていると思っています」と、小柄な体を武器と考える。
「背の高い人のことは、かっこいい、スタイルがいいな、と私生活では憧れますけどね」と笑う。
福岡出身。剣道少年は、小学4年生のときに玄海ジュニアラグビークラブに入り、そこで中学までプレーを続けた。
NECグリーンロケッツ東葛のSH藤井達哉は当時からの親友。だからブルーレヴズの藤井雄一郎監督は、幼い頃から知る「友だちのお父さん」だ。
「(監督には)よくご飯を作ってもらい、食べさせてもらいました」と記憶する。豪快に肉を焼く男メシがおいしかった。
静岡の地で、同じチームの一員になるなんて。「びっくりです」と相好を崩す。
藤井監督が山口を「運のいい男」と言うのは、人生の節目でことがうまく進んできたことを指す。
家の近所の東海大福岡高校に進学。卒業後、当初は関西大学に進む予定だったけれど、その話がなくなった。そこから同志社大と縁ができて紺×グレーのジャージーを着た。
大学4年時も偶然に救われた。
もともとは愛着のある宗像サニックスブルースでプレーを続けるつもりだった。チーム練習に加わったこともある。
しかしリーグワンが誕生。ブルースがD3スタートになると知り、進路を再考した。
「そんな時、日野さん(剛志/HO)が大学にスクラムのコーチに来られて、『明後日(ブルーレヴズの)トライアウトがあるよ。来る?』と」
将来が決まった。
U20日本代表の経験もある。しかしいまは日本代表より、ブルーレヴズの上昇と、チームに貢献することに集中したいと話す。
鋭いステップで、わくわくするファンを増やす。