2大会連続ドリームチーム入りのデュポン(セブンズ男子フランス代表)。「これは、すごい競技だ」
フランス代表が病んでいる。
4か月前のワールドカップ(以下、W杯)のプール戦で60-7で勝利したイタリアにしっかり勝利して自信を取り戻したかった。2月25日におこなわれたシックスネーションズだ。
ファイナルスコアは13-13。引き分けに終わった。
序盤のフランスのFWからは気合いとエネルギーがみなぎっていた。しかし得点に繋げることができない。
しかもSOマチュー・ジャリベールが負傷退場し、さらにジョナタン・ダンティーのレッドカードで後半14人になり、少しずつ崩れていった。
一方、イタリアは少しずつ自信をつけていく。終盤に自陣から全員でボールをつなぎ、トライをとったのはイタリアだった。
試合終了間際、イタリアのSOパオロ・ガルビシの蹴ったボール(PG)はゴールポストに弾かれホーム(リール)での惨劇は免れたが、フランスにとっては敗戦の味である。
W杯敗退のトラウマか。身体的にも精神的にも疲弊している。主力(デュポン、ンタマック、フラマン、ジュロンら)が不在の中、新たな方向性が見えない。
「トップ14で活躍している若い選手を起用すべきだ」など、現地のメディアや識者の間で議論が交わされている。
そんな暗い気分のフランスラグビーを救ってくれたのがセブンズだった。
7人制男子フランス代表はカナダで行われたワールドセブンズシリーズ(HSBC SVNS 2024)バンクーバー大会(2月23-25日)で銅メダルを獲得し、翌週のアメリカのロサンゼルス大会では悲願の優勝を果たした。
2005年のパリ大会以来19年ぶり、2度目の優勝である。
その中でも最も注目を集めていたのが、今大会セブンズデビューをしたアントワンヌ・デュポンだ。
「一選手として謙虚にこの冒険に参加したい」と自分だけが脚光を浴びることを避けるため、昨年11月のパリオリンピック開催まで250日イベントの一環で行われた記者会見に出席することを辞退したデュポン。しかし本人の思惑とはうらはらに、観客もメディアもデュポンを追いかける。
1月3日にデュポンが初めて参加した7人制代表の練習には、かつてないほどの多くの現地メディアが取材に詰めかけ、デュポンの一挙手一投足を報じた。
一日だけの練習だったが、新しい環境で新鮮な緊張感を持ちながら、新たなチャレンジに向けてワクワクしている初々しい転校生のようなデュポンが見られた。
その後は所属クラブのトゥールーズに戻り、トップ14の試合に出場し続け、2月5日に7人制代表に合流しての大会参戦だった。
バンクーバーでの初戦のアメリカ戦で、黒スパッツ姿、自身の15人制代表キャップ数「52」をひっくり返した背番号「25」をつけて後半途中から出場すると、スタンドから拍手が湧いた。
バンクーバーの3日間で、デュポンは初めてのセブンズワールドシリーズ出場、初めてのトライ(計3トライ)、初めての敗戦(準決勝でNZに26-28)、初めてのイエローカード(3位決定戦、対アメリカでインテンショナルノックオン)、そして初めての表彰台を経験した。同大会のドリームチームにも選ばれた。
「スペースがあちこちにあるから、いろいろなことができて楽しい」とセブンズの魅力を語る。
「朝起きて筋肉痛なのに、『さあ今日も試合だ』というところがいつもと違う。筋肉痛が増えるにつれて、重要な試合になっていく。このスポーツはちょっと矛盾しているね」と15人制との違いを楽しむ。
「このチームには素晴らしいアスリートや、攻め時を鋭く察知できるすごいラグビー選手がいる。彼らからはラグビーの匂いがぷんぷんしている。とてもいいマインドセットがあって、フィールド外でもみんなで仲良く過ごし、共に努力する。フィールド上でもそれが現れている」とチームでの居心地も良さそうだ。
翌週のロサンゼルス大会では、すっかりフィットしていた。デュポンは自身の強みを存分に発揮した。
明晰な頭脳で素早く状況を読み取り、判断する。その能力と正確なスキルで味方を活かしトライを生み出す。
例えば、プールステージのイギリス戦で完璧なクロスキックで、同じトゥールーズに所属しているネルソン・エペをインゴールに送り込んだ。15人制のようなトライを演出した。
スピードとフィジカルの強さを兼ね備えているデュポンは、ステップで敵を交わし、腕っぷしの強さで敵を払いのけ、ディフェンスを突破する。
ディフェンスでも人並外れた身体能力で何度も全力疾走し、パワフルなタックルで敵を止め、ラックに突っ込みジャッカルを仕掛ける。
どのチームもデュポンを警戒するからギャップが生まれる。
そしてロサンゼルスでは金メダルを獲得した。最初の目標が達成できた。
「とても嬉しいし、このチームを誇りに思う。僕にとっては2つ目の大会だけど、チームのみんなは長い間努力してきた。オリンピックを前に、これまでの努力の成果を確認し、自信をつけるためにも優勝したかった」
久しぶりのいい笑顔だ。
実は今回の優勝は外的要因も影響している。
アルゼンチン、フィジー、NZ、オーストラリアのような表彰台常連国が準々決勝で敗退し、ヨーロッパの国のみでの準決勝となった。
そして決勝の相手のイングランドは負傷者続出。リザーブの選手が3人しかいなかった。
「後半初めに疲労度の差が感じられ、落ち着いてプレーできた。ボールを持てなくてもミスをせず、自陣に入られてもトライを取られなかった。落ち着いてディフェンスでき、ボールをもてばトライを取ることができた」と振り返る。
デュポンの加入だけが今回の勝因ではない。7人制男子フランス代表はこの1〜2年でレベルを上げてきており、昨年度のワールドシリーズは4位で終了した。今年度のパース大会ではNZに33-17で勝利している。
「ずっと彼らの試合を見てきてポテンシャルがあると思っていた。彼らのベストなレベルでプレーできれば、どんな相手にも勝つことができる」
さすがのデュポンも、試合後は肩で息をしているところが見られた。
「準々決勝と準決勝はきつかった。準々決勝はレッドカードを出され、ボールをキープしなければならなかった。そのためにフィジカルの限界まで出し切った。準決勝は最初の2つのプレーで全力疾走したから、その後が苦しくなっちゃった(笑)。でもこれが7人制! すごい競技だ。身体能力だけじゃなく、絶対諦めないって気持ちがとても大切なんだ」
バンクーバーに続いてロサンゼルスでもドリームチームに選ばれた。
「2大会続けて参加してよくわかった。例えば、昨日(大会2日目、3月2日)は朝6時に起きて、ホテルに帰ったのは夜の9時半。とてもタフな日が続く。あらゆる条件で自分を試すことができた」と早起きが苦手なデュポンは言う。
今回の優勝でこのチームへの期待値がさらに上がった。
「僕たちの志は高い。この夏、このメダル(金)を獲得するために全力を尽くす。まだ数か月あるし、大会も残っているけど、僕たちはみんな大きなことをしようとしている」
好スタートを切ったデュポンのオリンピックへの道。2週間の休暇を経てトゥールーズに復帰する。トゥールーズでのシーズンが佳境に入るため、4月の香港大会と5月のシンガポール大会には参加せず、5月31日から行われるマドリッド大会に参加予定だ。
チャンピオンズカップ決勝の翌週である。