国内 2024.02.29

変わらぬ強み。小野晃征(東京サンゴリアス/アシスタントコーチ)

[ 編集部 ]
変わらぬ強み。小野晃征(東京サンゴリアス/アシスタントコーチ)
日本代表キャップ34を持つ。クライストチャーチ育ち。過去2シーズンは、現地のクラブで仲間たちとプレーしていた。(BBM)



 4月に37歳になる。
 チーム練習を終えてクラブハウスに戻る選手たちに声をかけ、個人練習に取り組むグループにつき合う。
 一人ひとりの持っているものを引き出してあげたい。

 東京サントリーサンゴリアスの指導陣に今季から加わった小野晃征アシスタントコーチが、チームの中にいい風を吹かせている。

 コーチングスタッフ、選手たちの両方に外国出身者が何人もいる。
 その中で小野コーチは、潤滑油的な存在となっている。

 例えば日本人コーチ同士で話し、すんなりことが進みそうになったとき、外国人コーチが「こういう考え方もあると思う」と発言する。

「そんなとき、(せっかく決まったのに)エッとなりがちじゃないですか」(田中澄憲監督)
 小野コーチの出番である。
 外国人コーチの視点、考えを、代弁してくれるのだ。

「日本人とは受けてきた教育も違うし、ものの見方も違う。(ニュージーランド育ちの)晃征は、それが分かる。結果、僕らにとっても学びになるんです」

 外国人選手たちの思いについてもそうだ。
 言葉のコミュニケーションの架け橋になってくれる通訳とは違うコーチの感覚で、選手たちのそのときの考えや胸中を理解し、他のコーチ陣と共有する。
 組織がうまく回り出す。いろんなところに、いい影響が出ている。

 小野コーチ自身、選手時代から自身の存在価値は、そこにあると自覚している。
 ジャパンのSO時代、指揮官と日本人選手、外国出身選手の関係を密にする存在となり、ピッチの内外でチームをひとつにした。

 それはいま、コーチとしても同じ。
「その場その場で、日本人、外国人選手関係なく、『いまサンゴリアスがやりたいラグビーはこれ』とストレートに伝え、ライブコーチングできるのは自分のひとつの強みと思っています」

 小野コーチは名古屋生まれ。1歳半で両親とNZへ移住した。
 クライストチャーチボーイズ高では、のちにオールブラックスとなる仲間たちとBKラインに立ち、U19カンタベリー代表にも選ばれた。

 2007年、当時日本代表ヘッドコーチを務めていたジョン・カーワンの目にとまり代表スコッドの合宿に参加。19歳の春に『来日』し、人生が大きく変わった。

 サニックスでのトップリーグ(当時)出場前にサクラのジャージーを着る。20歳と6日目の2007年4月22日、韓国戦で日本代表初キャップ。同年秋のワールドカップ(以下、W杯)にも出場した。

 2012年にサントリーへ。2015年のW杯で南アフリカを撃破した。
 サンゴリアスを頂点に導いた2016年は全17戦に出場。2019年度まで在籍し、翌シーズンを宗像サニックスブルースで過ごす。

NZで子どもたちを教えるコーチたちは、みんなが笑顔で帰っていくような指導をしていたと記憶している。小野コーチが現在指導するのはトップ選手も、「笑顔には、いろんな笑顔がある。一人ひとりが、その日成長できたと感じてくれて、最後にチームが勝ってみんなで笑えたらいいですね」と話す。(撮影/松本かおり)

 引退後はエージェント業でNZと日本の架け橋となっていた。
 府中のグラウンドに戻ったのは今季からだ。「戻るべき所に戻ってきた」とは、田中監督の言葉だ。

 171センチ、83キロの体躯で世界を相手に戦ってきた。その経験と豊富なラグビーナレッジで、選手たちを上昇に導く。
 特に髙本幹也は同じSOで171センチ、82キロとサイズも酷似している。「的確なアドバイスをしてくれる」と小野コーチの印象を話す。

 しかし、指導者としては駆け出した。本人は、自分が知っていることを伝えることが目的ではなく、選手たちが思い通りのプレーができるようになること、それがチームの勝利に結びつくことが大事と分かっているから「難しい」と言う。

 土、日の試合に向けて週の半ば、試合の中で起こりうるシチュエーションを想定し、選手たちがその瞬間、瞬間に反応できるように落とし込む。
 ピッチに立つ全員が、同じ絵を見て判断、動くチームが理想だ。

 練習ではできるようになっても、それを実際の試合で実践できなければ意味がない。

「試合中、選手たちが自分たちでチームをドライブできるようにする。いろんな状況の中で判断し、(例えばSOなら、想定していた)状況と違うことが起きても(周囲を)リードしていけるようにするのが、コーチングのチャレンジ」と言う。

 帝京大で大学日本一となった後、2023年1月途中からチームに加入した若い髙本について、「常に上手くなりたい気持ちを持っている」と評価する。

「個人練習もするし、いつもユタカ(流大/ながれ・ゆたか)とビデオを見て話しています。ラグビーが本当に好き。自分から学び、レベルアップしたい思いが伝わってきます」

 ゲームプランを考え、実行する。仲間がセイムページを見られるように牽引し、それぞれの力を引き出す。
 司令塔の役目は重いが、その素養を備えている。

 日本代表としてともに戦い、サンゴリアスと縁の深いエディー・ジョーンズ氏(現・日本代表ヘッドコーチ)とは、いまも連絡をとる。
 指導者として成長していくためのヒントをくれる人。本人にとっては、メンター的存在だ。

 ゲームプランやテクニックの落とし込み方。発想のための着眼点。いろんな点について、多方向からの質問を投げかけられる。
 具体的な選手名を挙げ、「どう伸ばす?」。そんな問いかけもある。

 小野コーチ自身、成長していきたい思いは強い。
「サンゴリアスには、経験あるコーチが何人もいるので、いろんなことを学ばせてもらっています」

「コーチは長くできる」と話し、腰を落ち着けて生きていく。
 いまはサンゴリアスに100パーセントコミット。経験を積んで将来レベルアップしていければ、と思う。

「目標は?」と問えば、「今週の試合(リコーブラックラムズ東京戦/3月2日)に勝つこと」と返ってきた。
「そうでないと、今週(試合に)出る選手のフォーカスからずれるので、先は考えません」

 目の前の選手に情熱を注ぐ。
 コーチとしていちばん大事なことは分かっている。

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