27-31。イーグルスの田村優、主力欠いての惜敗に「もったいない」。
危機を迎えている。周りにそう見られているのはわかっていたのだろう。国内トップリーグ1部で前年度3位、横浜キヤノンイーグルスの沢木敬介監督は言う。
「けが人がどうだの、ああだの外野は言うけど、そんなの何も考えてないし、気にしてない」
このほどSHのファフ・デクラーク、CTBのジェシー・クリエルがけがで戦線離脱。南アフリカ代表としてワールドカップ2連覇を果たした枢軸は、一時帰国した。
複数の関係者によれば、リハビリを日本でおこなわない判断には母国の要請も絡む。
仲間との別れは突然、やってきたようだが、デクラークと同じ位置の荒井康植は「(部内やポジション間の)LINEグループで常にアドバイスをもらえています。相手の分析のもと『ここがチャンス』『ここが注意』というものを。すごく参考になります」。何より、組織としての積み上げに自信があった。
元日本代表コーチングコーディネーターでもある沢木が率いるようになり、4季目に突入している。
元主将でSOの田村優は言う。
「彼らの能力はもちろんあります(高い)けど、(現状で)自分たちのできることを100パーセントやろう、ということで。チームとしての能力というか、力はついている。勝つことで、自信を深めたかった」
1月27日、本拠地の神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場で迎えたのはコベルコ神戸スティーラーズだ。
5連勝のかかっていた第6節の相手は、LOでブロディ・レタリック主将、FLでアーディ・サベアを先発させ、リザーブにはCTBのナニ・ラウマペを並べる。ニュージーランド代表経験者だ。スティーラーズは昨シーズン12チーム中9位で、今季も戦前までは2勝3敗。ただし指導体制の刷新、大物の補強で復権を期していた。
ここで際立ったのが、手負いの状態にも映るイーグルスだった。
試合開始早々の危機を堅陣によって切り抜けると、リスタートからのルーズボールを自陣で拾って、まもなく、中盤での防御局面に持ち込む。HOの中村駿太の鋭いタックルをきっかけに、ペナルティキックを獲得。以後、波状攻撃を重ねる。田村が、インサイドCTBの梶村祐介が、横に、縦にとボールを散らす。走者へのサポートも分厚い。
向こうの反則、自軍のラインアウトの防御にも助けられる形で、ポゼッションを保てた。
イエローカードにより15人対14人だった17分には、敵陣ゴール前左で自軍スクラムをプッシュ。NO8のアマナキ・レレイ・マフィがフィニッシュした。
数的優位を活かしてゲインライン(攻防の境界線)を切ることが多く、自陣に押し込まれることはまれだった。ハーフタイム直前に田村がドロップゴールを沈めたのもあり、10-0とリードして後半を迎えた。
中盤からは時折、失点も、主導権を奪われた感覚は少なかったようだ。
10-7と迫られて迎えた54分。中盤の攻撃で数的優位を作りつつ、LOのマックス・ダグラスを突進させる。スティーラーズのハイタックルを引き出し、田村のペナルティゴールで13-7とした。
複数のタックルミスから13-14と勝ち越されていた59分以降も、束になって走った。WTBの竹澤正祥が、相手のキックの軌道をカバーしてからすぐに蹴り返した。複数名で捕球役へ圧をかけた。攻撃権をつかめば、速攻を交えて壁を破った。62分、ダグラスが再逆転した。田村のコンバージョンも決まり、スコアは20-14。
勢いに乗る側は、その2分後にも防御をかく乱した。
敵陣中盤の真ん中あたりでラックを作ると、パスをもらわない面子が一斉に右側へ回り込んだ。最初にパスをもらったNO8のシオネ・ハラシリが、目の前にできた空洞を突っ切った。直後のゴールキック成功もあり、27-14とした。
この内容を受け、田村は「自分たちの負ける要素は全くない」。日本代表としてワールドカップ日本大会で8強入りの司令塔は、パフォーマンスに手応えをつかんでいた。
それだけに、70、76分に自陣ゴール前でモールを組まれたのが痛かった。いずれの場面でも失点し、27-28とされた。
このシーンが起こるきっかけは、イーグルス側の反則だった。密集での球へのアクション、タックルの高さを厳しく判定された。
ノーサイド。27-31。田村は、視線の位置を高くして言った。
「リーダーがペナルティをしてしまって、自分たちで崩れた。相手どうこうというより、自分たち次第でどうにでもなる試合だった。『ちょっと、これは、ないぞ』という話です。自分たちの犯しているペナルティは、自分たちで『それをしないでおこう』と 2秒前に話していたことをリーダーがしてしまったもの」
ここまで話したうえで、「誰でも起き得た」と、誰が笛を吹かれたかが問題なのではないと強調。「チームのルールを守ることをできさえすれば、試合の結果はついてきている」と続けた。
「負けるはずのないゲームを落としたのは、ショックではあります。力、ありますよね、うちのチーム。なので、こんなことをしていたらもったいない。(周りの選手も)そう言っていました。自分たちの不用意な行為で負けてしまったと。個人の非難はしませんけど、チームとして見つめ直さなきゃいけないところではあります。成長するきっかけと捉えるとすごくいいレッスンになった」
故障者が続出したなかで豪華戦力に迫ったとあり、いつも厳格な沢木も「改善する点はいっぱいあるけど、やっているラグビーの内容は低くなかった」。さらなる収穫は、全てを終えてからの控室にあった。指揮官は振り返る。
「俺が『内容、よかった』くらいのことを言ったら、『もっと厳しく』と優に怒られて。それくらい、選手が今日の試合に勝ちたかったというの(思い)が出ている」
リーグワンはこれから中断期間へ突入も、昨季4強入りの面々はニュージーランドのクラブとのクロスボーダーラグビーへ参戦。イーグルスは2月10日、三ツ沢でブルーズとぶつかる。
沢木は「うちはメンバー選んでいる状況じゃない。けがが一番、怖い。そのリスクをどうとるか」とするが、故障者が増える前にはこうも述べていた。
「(シーズン閉幕後などの)いい時期にやれればよかったけど、折角のいい機会。自分たちのやり方をチャレンジしていく。例えば、ベストメンバーで臨まないというのなら、別にやらない方がいい」
キャリアを積むべき選手をフル稼働し、現時点で示せる矜持を示す。同月24日のレギュラーシーズン第7節(対 東芝ブレイブルーパス東京/東京・秩父宮ラグビー場)へも、弾みをつけたい。