W杯は、あんなに盛り上がったのに。フランス協会、約63億円の赤字
12月16日に開かれたフランス協会臨時総会で、同協会の収支が2022-2023、2023-2024の2期にわたって大幅な赤字であることが報告された。
損失額は、2022-2023が1600万ユーロ(約25億1607万円)、2023-2024が2400万ユーロ(約37億7411万円)、合計4000万ユーロ(約62億9018万円)に上る。
主な原因として、今年おこなわれたワールドカップ(以下、W杯)フランス大会で見込んでいたほどの収益が得られなかったことがまず一つ。
スタジアムは満席、大会は盛り上がっていた。ホスピタリティ・プログラムも12000パッケージを販売し、過去2大会を上回り最高記録を打ち立てた。にもかかわらず赤字になったのはなぜか?
もとは6年前に遡る。
当時、今大会の誘致活動を指揮していたクロード・アチェ氏が、ホスピタリティ・プログラムの独占権を獲得するためにワールドラグビーに8280万ユーロ(約130億2067万円)という法外な金額を提示していたのだ。
同時に誘致に立候補していた南アフリカの提示金額は3500万ユーロ(約55億390万円)、アイルランドは2700万ユーロ(約42億4587万円)と現地の『レキップ』紙は伝えている。
投票前はワールドラグビーが南アフリカを推薦していたにもかかわらず、フランスが形勢逆転してこの大会の自国開催を勝ち取った経緯が伺える。
もう一つの損失の原因は、来年のパリオリンピック開催に向けて1月からスタッド・ド・フランスが工事に入り、来年のシックスネーションズで使用できなくなることだ。
しかも来年はホームで3試合行われる年で、1試合分多くの収入が得られる機会だった。
マルセイユ、リール、リヨンが会場に選ばれたが、8万人収容できるスタッド・ド・フランスほどの規模はないため400万ユーロ(約6億2900万円))の減収が見込まれている。
W杯では準々決勝で敗退したものの、フランス代表の人気は衰えていない。初戦にあたるマルセイユでの2月2日のアイルランド戦の6万5000席のチケットは、発売後数時間で完売した。それだけに、もっと大きなスタジアムでできていればと思わずにはいられないだろう。
そのためか、秋のテストマッチの開催スタジアムに変化がありそうだ。
通常、少なくとも1試合は地方のスタジアムでおこなわれる。しかし来年11月にフランスで実施される日本、NZ、アルゼンチンとの3戦は、すべてスタッド・ド・フランスが予定されている。
また、フランス協会のオフィスがあり、各代表チームが合宿をおこなっているパリ郊外のマルクッシにある国立ラグビーセンターの売却を計画していたことも伝えられている。
オフィス部門を、パリ郊外でスタッド・ド・フランスから東に4キロ離れたところにあるパンタンに、トレーニングセンターを南仏に移転させようというものだ。
当時の会長、ベルナール・ラポルト氏や、同じく当時副会長だったアンリ・モンディーノ氏の地元のヴァール県で、地中海沿いの土地に目をつけていた。ファビアン・ガルチエ ヘッドコーチも現地に連れていき、見せていたが、その土地を所有している海軍が手放してくれず実現しなかった。
しかしその間にパンタンの土地を今後75年間使用する契約を結んでしまっていたのだ。
グラウンド3面、600席のスタンド、ウエートルームなどの建設に3500万ユーロ(約55億円)を要した。
「ラグビー・イノベーション・センターとして、地元のセーヌ・サンドニ県、またイル・ド・フランス地方のクラブが使用できるようにし、ラグビーを発展させるツールとして利用していきたい。また社会貢献活動にも利用することも考えている」と現会長のフロリアン・グリルは言うが、「ここよりも、2025年7月にスタッド・ド・フランスのオーナー(または委託業者)が変わることに備えるために投資したかった」と本音も覗かせている。
グリル会長は財政の健全化のためにアマチュアラグビーの支援、学校でのラグビーの普及など、8つの方針を打ち出しており、土台から掘り起こす必要があると訴える。
フランス国内のスポーツで、ラグビーはメディア露出度が2位なのに対して競技人口は10位(2023年5月時点で32万4326人、その後W杯で12パーセント増)ということから、「多くの人が関心を持っているはずだ」とグリル会長は話す。
パートナーシップ、スポンサー、メセナもさらに開拓する必要がある。
一方、支出を引き締めることも挙げられており、代表チームにも影響が出ることが予想される。
「協会の収入の80パーセントは男子15人制代表チームに起因しており、決して大幅に彼らの予算を削減するつもりはない。しかしパフォーマンスに影響を与えることなく少し慎ましくすることはできる」とグリル会長は説明する。
例えばこの4年間、シックスネーションズの準備合宿は、寒くて灰色の空のパリ郊外のラグビーセンターではなく、温暖で青空が広がる南仏のニースやカシ、大西洋沿いのカブルトンで行われてきた。しかし、今後はマルクッシでの合宿を増やすことになる。
また国外への移動の飛行機も特別チャーター便ではなく、定期運行便を使用することになるだろう。
「あらゆる分野で協会の機能の仕方を考え、節度を持った判断をしたい。これは選手・スタッフに限らず、協会役員にも言えること」とグリル会長は付け加える。
役員特権のようなものが当たり前になっていて、アウェーの試合にも多くの人を招待するようなことが行われてきた。「ラグビーだけに限らず、多くの競技団体に共通の古い体質が残っているが時代が変わってきており、協会も企業のような感覚やビジョンを持たなければならない」とラジオのラグビー番組でコンサルタントをしているフィリップ・スパンゲロ氏も指摘する。
グリル氏が会長に就任して半年、難題が続く。