明大は「ルビコン」「ペガサス」が一丸。山本嶺二郎副将らの奮闘に廣瀬雄也主将は何思う?
新しい「景色」に慣れてきた。仲間と円陣を組んだ際の「景色」のことだ。明大ラグビー部の山本嶺二郎は言う。
「選手ひとりひとりが、僕のこと見ている。それで責任感は大きくなっています。僕が雄也を見る側だったのですが、『あ、こういう景色なんだ』と。結構、緊張します」
FW2列目のLOとして空中戦、タックル、接点での奮闘で光る。創部100周年となる今季は、副将となった。
仲間と円陣を組んだ時に「景色」の違いを感じるのは、ゲーム主将を任されているからだ。
11月19日、加盟する秋の関東大学対抗戦Aの帝京大戦で今秋2度目の大役を担った。
大学選手権2連覇中の強豪にぶつかる4日前、練習で「雄也」こと廣瀬雄也主将がけがをしてしまっていた。
山本もひとつ前の慶大戦で負傷したが、「(どちらにせよ)帝京大戦には出るつもりだった」と東京・秩父宮ラグビー場のフィールドに立った。ここから山本は、円陣で「見る側」から「見られる側」へと本格的に変わった。
帝京大戦は11-43で敗れた。要所でスコアを奪えず、中盤以降に徐々に突き放された。
捲土重来を目指す。12月3日の対抗戦最終節で早大に58-38で制してからは、大学選手権をにらんでいる。
14度目の日本一が期待されるこの舞台へは、23日の準々決勝から参戦する。
約3週間の準備期間は、直近で挙がった連携面などの課題を克服したり、積み上げてきた攻防のスタイルを見つめ直したりした。
そのさなかの15日には、クボタスピアーズ船橋・東京ベイへ出稽古に行った。進行中の国内リーグワン1部のゲームに絡まないメンバーとぶつかり合い、刺激を受けた。
そのセッションに挑めたのは、選抜された約30名だ。それ以外にも60名ほど部員はいる。
いわゆる「Bチーム」が対象の関東大学ジュニア選手権は、11月までに終了。選手権に出ないチームはオフに入るため、下位グループ対象の練習試合も組みづらい。シーズン終盤はレギュラー組の固定化が進むとあり、控え組を含めた組織の士気を保てるかが大きなテーマとなる。
山本も案じた。
「下のチームの試合が少なくなる。モチベーション(維持)が難しくなるなか、チームがひとつになって前に進まないといけない。それが優勝への第一歩で、雄也も大事にしているところです」
100年目の明大戦士は、この問題を前向きに解決しようとしている。
3、4軍からなる「ルビコン」の4年生は、同じグループの後輩を集めてミーティングを開催。下級生に練習や試合について意見を聞く。個々の競技への理解度を高める。廣瀬は、自分たちが頼まなくても率先して動いてくれる石塚勝己らに感謝している。
4年生CTBの石塚は、自身が2年生だった頃の4年生SHの竹ノ内駿太を尊敬する。現・九州電力キューデンヴォルテクスの竹ノ内は、「ルビコン」で盛り上げ役を買って出ていた。
いまの4年生は団結力がある。そう言い切るのは右PRの古田空だ。3年時からレギュラー争いに絡むようになった古田は現在、1、2軍で構成される「ペガサス」で主力チームの対抗馬役を担うことが多い。
選手権の初戦にあたる準々決勝を間近に控えた19日。本拠地である八幡山の人工芝グラウンドで、実戦形式のメニューが組まれた。それに先立ち、古田は自らと似た立場の仲間に発破をかけたようだ。非公開のもとでなされたその訓示について、1年生でSOの伊藤龍之介が明かす。
「『(練習で)Bチームを相手にうまくいって、(試合当日は)向こうのほうが強かった』となってしまってはいけない。Aチームが選手権でいい試合をするには、相手になるBチームが高いクオリティで練習しないと」
伊藤龍の兄で4年生の伊藤耕太郎は、普段から古田と仲が良い。主戦SOとして活躍する伊藤耕は、難しい立場にあるはずの古田がずっとポジティブであることに感銘を受けている。
古田は卒業後、トップレベルでのラグビーからは退く。悔いは残したくない。
「泣いても笑っても(決勝まで)残り3試合です。純粋にこのチームが大好きなので、最後は笑って終わりたいです」
グラウンド内外で、勝つための手順を踏む。秩父宮での筑波大との準々決勝に廣瀬は出ない。万全の状態で戦列に戻るためだ。状態は上向きも、慎重な構えである。
復帰すればインサイドCTBとしてキック、パスでインパクトを示しそうな廣瀬は、復活前夜の思いを述べた。
純度の高い言い回しだった。
「チームは帝京大戦での負けを経験しながら、毎日の練習で1個、1個、課題を修正してきて、すごくいい状態できている。主将として嬉しい反面、置いていかれているという悔しい思いもあります。自分が戻ってちゃんと恥じないプレーができるか…。(成長したチームに)合わせられるか…。その不安はありますが、不安なままだと絶対、『そのように』なってしまう。自分は自分で、けがなく頑張っている選手よりもいい準備をしたという思いを持ってグラウンドに立つ。そこは、意識しています」