ラグビー教室開催3年で23道府県へ。岸岡智樹(S東京ベイ)、子どもたちと触れ合い、エナジーを与え、得る
リーグワン開幕まで、あと数日。各チームに所属するすべての選手たちが、その日に向けて気持ちを高めている。
約半年、戦いの中に身を置く。そのための準備を積んできた。
昨季リーグを制したクボタスピアーズ船橋・東京ベイの岸岡智樹も、そのひとりだ。
2020年春にチームに加わった司令塔は、昨季の試合出場がなかった。新シーズンにかける思いは大きい。
プレシーズンマッチではゲームキャプテンを務めることもあった。
同じポジションには、オーストラリア代表として経験豊富なバーナード・フォーリーもいる。乗り越えるべき壁は大きいが、それだけにやり甲斐もある。
現在26歳の岸岡はスピアーズの活動がない時期に、自身のエナジーを生む活動をおこなっていることでも知られる。
『岸岡智樹のラグビー教室』が、それだ。
2021年に始めた同ラグビー教室は、2023年で3期目だった。
シーズン終了後の6月下旬から9月上旬まで全国のあちこちで、小4から中3までの子どもたちを対象に触れ合ってきた。
最初の2年で訪れたのは14道府県。2023年は12の県で教室を開き、北海道と長野(菅平)でサマーキャンプを実施した。3期で23道府県を訪れた。
前年は2回のサマーキャンプを含む10会場で409人の子どもたちと向き合った。その数は2023年には大きく増え、14会場(2キャンプ含む)で622人だった。
活動の原点は大学時代に遡る。早大時代、ラグビーの指導やコーチングには地域格差があることに気づいた。
同大学のラグビー部には、いろんなバックグラウンドを持った部員たちがいる。仲間と接していて気づいた。
岸岡は自身の歩んで来た道を、「たまたまラグビー界の中にあるレールにのってきた」と表現する。
大阪・枚方ラグビースクールで楕円球を追い始め、蹉跎中、 東海大仰星高校、早大とプレーを続け、スピアーズに入った。
それぞれのチームで指導者に導かれた。お陰でトッププレーヤーになれた。
しかし仲間には、そういう環境に恵まれなかった者たちがいた。
やっと花園出場をつかんだのに聖地にて大差で敗れた。あるいは、大学に入って初めて理論的にラグビーを学べた。
そんな声を聞いて頭に浮かんだのは、ラグビー指導の地域格差だ。
自分がいたコーチングを受けられる環境は、当たり前ではなく、望んでも叶わない人たちがいる。
その事実を、自分で各地に足を運び、子どもたちやコーチと話し、知ろう。自分の持っているものを伝えよう。
そんな思いが活動の根っこにあり、3年で47都道府県のほぼ半分に足を運んだ。
「残り2年ですべての都道府県に行き、現状を知ろうと思っています」と話す。
各地での場所の確保や移動の費用など、自分一人だけでできる規模の活動ではない。
同志やスポンサーのサポートを受け、チームとして動いている。
実際に足を運んだからこそ見える現実がある。
隣県同士試合を組む連絡は取り合っても、情報共有はしていない地域があった。
その一方で、県内に子どもから大人までラグビーを続けられる環境を作っているところもある。これから力を合わせて上昇しようとしている県も。
子どもたちへの指導だけでなく、コーチも巻き込んで活動するケースもある。
「人を教える、人に伝えるという作業は、言語化しないといけません。そうすることで理解が深まり、思考回路が整理され、プレーの正確性、再現性、安定性につながる。そこは自分がプレーヤーとして成長することにもつながると感じています」
ラグビー教室で伝えていることの芯にあるのは、アタック時のハンドリングについて。ハンズアップとフォロースルーの大切さを、いろんな手法で学んでもらう。
パワーやスピードではトップ選手と差があっても、意識レベルを同じレベルにすることはできると知ってほしい。
「参加者の満足度は年々あがっていると思います」と話す。
たくさんの子どもたち一人ひとりと向き合って、自分のコミュニケーション能力が高まり、引き出しが増えたからだ。
その成長も、司令塔としてプラスにできる点だ。
昨年は自身の試合でのパフォーマンスで、伝えていることの重要性を証明することができなかった。
2023-24シーズンのリーグワンでは、ラグビー教室に参加してくれた子どもたち、これから会うかもしれない地域の人たちを、より笑顔にする結果を残したい。