W杯連覇遂げた南ア代表主将のコリシ、新天地フランスでトップ14デビュー。
ワールドカップ(以下、W杯)2大会連続でウェブ・エリス杯を掲げた南アフリカ代表“スプリングボックス”のキャプテン、シヤ・コリシが、フランス時間11月26日、ラシン92のジャージーでトップ14デビューを果たした。
この日、ラシン92はホームのパリ・ラ・デファンス・アリーナで昨年、一昨年のヨーロッパチャンピオンであるラ・ロシェルを迎え撃った。
「試合前は少しナーバスになった」と本人が言うように、緊張した面持ちで会場入りするコリシをカメラが捉えている。ロッカールームから出てトンネルで待機中はいつものように歌っている。ピッチに入るとチームメイト1人ずつとハグをして自分の立ち位置についた。
32ー10でラシン92が快勝、コリシは54分プレーし、目立った活躍こそなかったが、丁寧にプレーしミスなく初戦を終えた。
「しっかりプレーしてチームメイトのリスペクトを獲得したかった。人工芝だからとてもスピードが出る。適応しなくては」と試合後、初アリーナの感想を述べた。
10月28日にW杯で優勝した後、自国へ帰りトロフィーツアーを終え、1週間でフランスに戻りクラブに合流し初トレーニングに参加した。
数日後のお披露目の記者会見では今季から会長の座を退き、ラシン92のオーナーとなったジャッキー・ロレンゼッティ氏が、「シヤ(コリシ)は彼の発する光で周囲を照らしてくれる。シャベルカーのようにチームを引っ張ってくれるだろう。スタイルは異なるが、彼を見ているとダン・カーターを思い出す。シヤの方が人間臭いかな」と印象を述べた。
「少し会話するだけで彼のオーラや貫禄が感じられる。ダン・カーターやジョニー・セクストンのようにグラウンドの内外で大きな存在になってくれるだろう」と続けた。
ラシン92だけではなく、トップ14にとってもダン・カーター以来の大物加入である。デビュー戦の前週のスタッド・フランセ対ラシン92の試合では、スタンドからチームを誰よりも熱く全身で応援しているコリシを中継のカメラがしばしば捉えていた。
ラシン92は今季、ヘッドコーチ(以下、HC)にスチュアート・ランカスターを迎えている。2015年W杯イングランド大会で自国を率いたが決勝トーナメントに進出できなかった。その後、アイルランドの強豪レンスターでコーチに着任する前にも、コンサルタントとしてラシン92に招聘されたことがある。その縁もあり、また1年も前から「代替え案はない、あなたに来てもらいたい」とラシン92からの熱いオファーを受け、トップ14でのチャレンジを決めたと言う。
ランカスターHCはコリシの入団について、「このミッションが決まって最初にコンタクトした選手のひとり。彼のような選手、そして人物をクラブに迎えることができてとても幸せです。選手としての彼にはさらにチャレンジしてもらいたい。まだ成長できる選手です。また彼が人として備えている道徳、価値観はみんなのモデルとなるでしょう」とコリシの人としての影響力にも期待している。
コリシがラシン92への入団を決めた理由のひとつがランカスターHCとの会話だった。
「レンスターで成功を収めているスチュアート・ランカスターから本気で『来てほしい』と言われた。僕についてのビジョン、僕のプレーをどう使うかを話してくれた。これは本当に大切なこと。どんなふうに成長させてくれるのか楽しみだ」と契約が発表された後の『レキップ』への取材で答えている。
「国外に出ることを決心するのは簡単ではなかった。ここ(南アフリカ)でプレーする、代表チームでプレーするのは特別なこと。でも若い頃から海外でプレーするなら、フランスか日本だと思っていた。選ぶにあたって自分のことだけではなく、家族のことも考えた。今32歳で身体的にも状態が良い。他のクラブでプレーするなら、身体がついていかなくなって引退直前の状態ではなく、選手として良い状態のうちにと思っていた。『(他の国を)体験するために』と言う選手もいるが、僕はチームに本当にさらなる価値を与えたい。戦力としていいパフォーマンスをしたい」と決心に至った理由を明かしている。
さらに、南アフリカ、アイルランド、ウェールズ、スコットランド、イタリアのチームが参加しているユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップほど移動がなく、家族との時間がこれまでより増えるということもトップ14でのプレーを選んだ理由だと言う。
また、コリシがおこなっている南アフリカでの慈善活動を、オーナーのロレンゼッティ氏が支援してくれるというのも大きな魅力だったようだ。
「この活動は僕にとって大切なもの。僕と国をつないでくれるものであり、そのためにラグビーをしている。グラウンドの外にもレガシーを遺したい」
人懐こく、新しいチームメイトの輪の中に積極的に入っていくコリシ。お披露目会見でも、「(チームメイトの)カミーユ・シャ(HO)の首が見つからない!」と早くも定番ネタで笑いを誘った。いじられたシャも、「もう何年もここにいるみたい」と楽しそうだ。
ラシン92はダン・カーターが在籍していた2016年にトップ14で優勝しているが、欧州チャンピオンズカップでは未だ達成されておらず悲願となっている。
「チャンピオンズカップは僕も昨季参加した。最強の選手が揃っている大会でこのクラブが目標にしていることは知っている。でもトップ14もとんでもない大会で、勝者はとても幸せそう。優勝盾でサーフィンをしている選手を見た(ンタマック、デュポン)。僕たちが優勝したらセーヌ河でサーフィンかな。フランスチャンピオンになることができれば、それも僕にとってはひとつの目標を達成したことになる」と所属クラブではまだ優勝経験のないコリシは言う。
ラシン92は今季、コリシ以外にもフィジーの強力CTBチョスア・トゥイソヴァやイングランドの俊足WTBヘンリー・アランデルを獲得し大型補強している。残念ながらトゥイソヴァはW杯で負傷したためしばらくグラウンドから遠ざかることになったが、アランデルはトップ14デビューとなったトゥーロン戦でハットトリックを披露した。しかも2022年の欧州チャレンジカップ準々決勝でロンドン・アイリッシュのメンバーとして自陣ゴール前から独走トライを決めてフランスラグビーファンの度肝を抜いたスタッド・マヨールで。
コーチ陣もランカスターをHCに迎えただけでなく、元フランス代表SO/SHフレデリック・ミシャラクと元ニュージーランド代表WTBジョー・ロコゾコがBKコーチとして加わった。FWは元フランス代表HOディミトリー・スザルゼウスキーに託された。
「イングランドやアイルランドのコーチを連れてくることもできたが、若くてもフランスラグビーを理解している彼らに頼りたかった」
このランカスターの判断は賢明だったのだろう。8節を終えてラシン92は6勝2敗で現在首位と好調だ。コリシがチームにさらに馴染み、プレーの上でも、またリーダーシップでも力を発揮するようになればさらに強力になることが予想される。
優勝盾を使ってセーヌ川でサーフィンするところを見たいものだ。