ワールドカップ 2023.11.17

フランス代表ガルチエHC、沈黙を破る。デュポン主将はセブンズへ

[ 福本美由紀 ]
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フランス代表ガルチエHC、沈黙を破る。デュポン主将はセブンズへ
準々決勝での敗戦直後、選手たちを労うフランス代表のファビアン・ガルチエHC。(撮影/松本かおり)



 11月8日、フランス代表を率いるファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)の記者会見が行われた。ワールドカップ準々決勝敗退後、沈黙を守っていた同HCに対して現地メディアから再三の要望があった。

 11月1日にはスポーツ紙『レキップ』の一面に「苛立たしい沈黙」というタイトルを添えてガルチエHCの写真がアップで掲載された。

 それに応えるかのように、その日の午後にフランス協会から、「11月末にガルチエHCが記者会見を開く」と発表された。
 そして、その5日後に「ガルチエHCの会見を11月8日に開く」とあらためて発表された。

 その日、ガルチエHCはパリのあるクラブチームのU12の指導に当たった後、クラブハウス内に設置された会見会場に現れた。

 まず「敗退してからなぜ24日も必要だったのか」という問いに、「当初は11月末にと考えていたが、執拗な要望があり時期を早めた。我々は準々決勝で敗退したのだから、勝ち進んでいるチームに敬意を払って然るべき。トップ14も再開した。敗退したチームが表に出る時ではない。物事にはタイミングがある」と答えた。

「失望は途轍もなく大きかった。我々の唯一の目標は世界チャンピオンになることだった。準決勝で1点差で負けても、決勝で1点差で負けても、失望は同じだっただろう。私たちには『喪に服す』期間が必要だった。この期間に選手・スタッフとやり取りをしていて、繰り返された言葉は『目標を到達できなかったことを受け入れ、そして乗り越える』だった。この作業を選手もスタッフもしっかり行わなければならない。そのために24日という時間は少な過ぎる」

「この4年間、フランス代表を再び世界の強豪国にするために努力を重ねてきた。勝率は80㌫。シックスネーションズで2022年は優勝、2020、2021、2023年は2位。世界ランキングで9位から上位3位に上がった(現在4位)。しかし、世界チャンピオンになるという究極の目標を達成することができなかった。私が選手に言ったのは、『世界チャンピオンになれるかどうかは、一人ひとりのパフォーマンスにかかっている。我々の運命の責任は我々にある』ということ」

「これは傷であり痛みである。このレベルでプレーするなら、勝つ準備と同様、このような痛手を負う覚悟もできていなければならない。痛みを感じないのはチャンピオンだけだ。この傷跡は一生残るだろう。これも我々の歩みの一部だ。何度も失望してきた経験から、これは決してハンディキャップにはならない。時間が経つにつれて、ゆっくりと、でも確実に知識や経験になっていく。正しく問いかけをしていけば、我々はさらにいいチームになることができる」

 続いての質問は「戦術を間違ったと思っているか?」だった。
「全く思わない。たくさんの映像やデータで試合を見直した。1点(南アフリカとの最終スコアの点差)なんて何でもない。でも、それが全て。実際には28得点しかできなかったが、この試合の分析データによると我々の得点期待値は37点だった。データで、しかも南アフリカ相手に37点取ることが可能だったと出ているということは攻撃面での戦術は間違っていなかったということだ。防御面では29点取られた。南アフリカが最初にこちらの22メートル内でラックを作ったのは55分になってからだが、その前に3トライ取られた。2つはハイボールを取られ、着地後のプレーもコントロールできなかったから。もう一つはターンオーバーから。南アフリカは自分たちの武器を有効に使い、極めて効率良く得点した」

「我々は相手22メートル内に11回入った。目標は6度だったから約2倍の回数入ったことになる。そして3トライと1PGをとったが、最後のプレー、最後の選択、『ゲームの様々な要因』でそれ以上得点することができなかった。だが、再び試合をするとしてもまったく同じ戦術を使うだろう」

 これについては会見後の『レキップ』紙への単独インタビューで詳しく説明している。
「目標は南アフリカのラッシュディフェンスに対して、キックを使ってディフェンスの背後にボールを落とすことだった。しかし後半のキッキングゲームが良くなかった。最初のキックに迷いがあり、チャージされた。また、ラックを2〜3繰り返した後、プレーの向きを変えてフィールドの中央を避けることになっていた。うまく機能していたのに後半は中央を突破しようとした。南アフリカのディフェンスに対しては危険だ」

 ハーフタイムにもボールを後ろへ下げず、攻撃の向きを変えるよう指示をしていた。
「しかし、ボールを持って後退し、プレーの向きを変えずにフィールドの中央を突破しようとした。そしてクワッガ・スミスにジャッカルされ、ハンドレ・ポラードのPGに繋がった。自分たちを見失わず、自分たちが選んだ戦術を貫くべきだった」

 ハイボールの処理にも苦戦した。
「逆サイドに蹴ってきた。うしろに配置しているFBが取りに行くに位置ではなかったので、ディフェンスラインに並んでいるWTBかCTBが取りに行く練習をしていた。開幕のNZ戦では上手く対処でき勝つことができたが、南アフリカ戦ではまごついてミスを犯した。南アフリカが上手かった。その他にも、キッカーにもっとプレッシャーをかけなければならなかったし、ボールを持っていない時も上手く立ち回ってハイボールの落下地点にもっと多くの選手がいなければならなかったが、明らかにスピードで負けていた」

 この4年、相手のハイボール処理の不安は繰り返しあった。解決できなかった唯一の問題では?
「確かにハイボールは我々のラグビーが得意としていることではない。この試合では弱点として出てしまった」

 レフリングも議論を呼んだ。得点できなかった『ゲームの様々な要因』というのはレフリーのジャッジを指すのか?
「そこにはフォーカスしたくない。我々のスポーツはレフリーなしに、またレフリーへのリスペクトなしに存在できない。私はフランス代表チームの教育者でもある。フランス代表選手だけでなく、その下のカテゴリーの選手やラグビースクールのコーチを教育する役目がある。気をつけて発言しなければならない。フィールドには2つのチームがいて、レフリー、アシスタントレフリー、TMOがいる。トライになるかならないかのジャッジもあったが、どうすることもできない。『様々な要因』の中には選手の判断もある。パスをするかしないか、この動きをするかしないか。あらゆることが重なって得点することができなかった」

 会見翌日に、親交のある元フランス代表のヴァンサン・モスカートのラジオ番組に出演した時にはリラックスした雰囲気でレフリーとの関係を上手く築けなかったことについても触れた。
「最初のジャッジでレフリーとの関係を緊迫させてしまった。2つ目が(南アフリカLOエベン・)エツベスのパスカット。これは今年のプレー・オブ・ザ・イヤーだ。+7点になるところが−7点になり切り替えられなかった。」

「レフリングに影響力を及ぼす、レフリーと協力し合う、レフリーと敵対する。これらの境い目はとても曖昧だ。ラックからの球出しのスピードが我々のプレーの鍵だったが、スピードを上げることができなかった。レフリーのジャッジに影響を与えることができる時もあれば、できない時もある。この日はできなかった。レフリーとの関係を緊張させてしまったことで、ゲーム読解力や判断力、プレーの精度が低下した」

 どのように再始動するのか?
「我々には、この4年間築いてきたノウハウ、知識、経験がある。今回はフランス国民を大いに悲しませたが、我々はこのチームを素晴らしいチームに変えた。光を放つ宝石だ。今後さらに経験を積み重ね、チームとして成熟していくだろう。まず来年2月2日、シックスネーションズの幕開けとなるアイルランド戦で最高のフランス代表チームをお見せする」

 アントワンヌ・デュポンが来年のパリオリンピックに出場する7人制代表候補に入った。そのため1月から15人制での活動をしばらく休止することになる。
 また再開したトップ14では、昨夏世界大会で優勝したU20代表の選手の活躍が目立つ。ルイ・ビエル=ビアレのような新星が現れるだろうか?

 準々決勝敗退の3日後に現地調査会社『ODOXA』が18歳以上の1005人のフランス人を対象に実施した調査によると、87㌫の人がガルチエHCの続投に満足している。また、75㌫の人が敗退後も代表チームを誇りに思うと回答し、77㌫が次のシックスネーションズでの優勝を信じている。

 優勝は叶わなかったが、フランス人の心をしっかり掴んだ。


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