国内 2023.10.26

「反発があると思ったけど…」と新指揮官。大東大ラグビー部はずっと変わりたかった。

[ 向 風見也 ]
「反発があると思ったけど…」と新指揮官。大東大ラグビー部はずっと変わりたかった。
大東大の稲葉聖馬主将(左)と酒井宏之監督(撮影:向 風見也)


 変わりたかった。変わるきっかけが欲しかった。

 大東大ラグビー部の稲葉聖馬主将の言葉には、その思いがにじんだ。

 10月21日、アースケア敷島サッカー・ラグビー場。チームは加盟する関東大学リーグ戦1部の4戦目に臨み、前年度8チーム中3位と好調な東洋大に2点差で競り勝った。

 後半5分以降の連続失点で21-24と勝ち越されるも、その後は一進一退の攻防を繰り広げた。33-31とわずかにリードして、終盤を迎えた。

 ロスタイム突入を前後し、スクラムと防御局面で反則を重ねはした。しかし最後は、自陣ゴール前左でLOの佐々木柚樹がカウンターラック。こぼれ球を拾った相手選手へは、PRのリサラ・フィナウがタックルした。東洋大の反則を誘い、ノーサイドを迎えた。

 東洋大が今季初黒星を喫した一方、前年度7位の大東大は、2戦連続での白星で2勝2敗。上位陣と対戦し続けたシーズン序盤を通し、進歩の跡を示した格好だ。

 まずは、酒井宏之新監督が総括する。

「最初の4試合を勝ち越したかった。もちろん4勝0敗を狙っていました。開幕2連敗してしまいましたが、ここ2試合を勝ち切れたのは嬉しい。選手たちはよく頑張ったと思います」

 酒井は現役時代、大東大の一員として大学日本一を経験している。2013年以降は中大のヘッドコーチとして、着任前にやや低迷していたチームを浮上させた。

 前年度までは、苦しんでいた母校を第三者の目線で見ていた。感想は、「すごくもったいないな」に集約されたという。

「相手にすごいランナーがいて抜かれるというより、こちらのミス、反則で得点されていたので。きっと、グラウンド外を治せば、この子たちは変われると思って…」

 いざ指揮官となるや、それまでの風習を一新させた。

 自ら学生寮に住み込み、それまで曖昧だった起床時間や掃除のルールを徹底。東洋大戦で繰り出した精巧なサインプレーを落とし込む以前の、心構えにメスを入れた。

「練習は朝5時半からにして、皆で起きよう、学校にも行こう、と。あとは整理整頓、挨拶…。今年のスローガンには『BATSU』があります。いままでよしとしてきた悪い文化にはどんどん『×』をつけてきた感じです」

 幸運だったのは、その流れを最上級生が受け入れたことだ。奈良の御所実高時代に高校日本代表に選ばれていたSHの稲葉は、こう語った。

「自分たちが入学してきた1年生の頃から寮生活が乱れていて、それに流されていた部分がありました。ここで一度、『×』をつけて、僕たちの代から変えていこう…と」

 酒井は補足する。

「もうちょい、反発があると思っていました。『いままでOKだったものがなんで!』と。ただ、リーダーを中心に4年生が一緒になってやってくれています。それでうまくいっているのかなと思います」

ゴールキッカーも務めるハニテリ・ヴァイレア(撮影:向 風見也)

 東洋大戦が終わると、リサラがグラウンドにひざまずいて祈る。一緒に同じポーズを取ったのは、インサイドCTBのハニテリ・ヴァイレアだ。

 トンガ出身留学生の2人は、青森山田高から一緒に入学してきて現在3年生である。

 好ターンオーバーと再々の突破で魅したヴァイレアは、流ちょうな日本語で述べた。

「ラグビーって、規律を守らないと。私生活もちゃんとやったら(整えたら)、グラウンドでいいパフォーマンスができる」

 29日には埼玉・セナリオハウスフィールド三郷で、現在1勝3敗の法大とぶつかる。大学選手権に進めるのは上位3傑のみ。目下4位の大東大にとって、向こう3戦はいずれも天王山か。

 2年生FBの伊藤和樹は、「まだ4年生といっぱい(試合が)したい。ひとつひとつ、丁寧に戦いたいです」と話した。

PICK UP