スクラム&戦術理解で光る。日本代表の最年長・堀江翔太は「最後まで不安」を感じたい
ボールを投げる。その姿を撮影し、すぐに見返す。トゥールーズの練習拠点で、堀江翔太は淡々と己の技を確かめていた。
「確認です。毎回、同じフォームで投げられているかどうか。自分の意識と行動で違うことがないか、チェックしています」
ポジションはHO。ラインアウトでボールを投げ入れるのが仕事のひとつである。
9月25日。ワールドカップフランス大会の予選プール3戦目を、3日後に控えていた。HOのタスクには他に、スクラムがある。8人のFWを最前列中央でリードするのが役目だ。
今度の相手はサモア代表。身体の大きな選手の揃うチームだ。日本代表は、小兵力士の要領で低さとスマートさで優位に立ちたい。長谷川慎アシスタントコーチの唱えるロジックのもと、向こうのパワーを無力化させられれば最高だ。堀江は言う。
「(サモア代表には)重たさは絶対にある。それをどう消すか…。(両PRと)前3人で、相手の癖などについて話し合いながらやっていきたいです」
手応えを掴んでいる。9月17日はスタッド・ド・ニースでイングランド代表に12—34と惜敗も、スクラムを安定させられた。
試合開始早々に自陣ゴール前の相手ボールを耐えた。16分頃には敵陣中盤右で、相手の圧を跳ね返した。
相手との間合いを詰めながら、前がかりになり過ぎずに膝をためて耐える。
向こうが膝を伸ばしてプッシュしてきたところを、カウンターパンチの要領で跳ね返す…。堀江からは、そんな狙いが伺えた。
「慎さんのやり方で、(両PRとの)前3人がどう相手にプレッシャーをかけるかを話し合った。『相手がどう組むからこっちはこう』と。それが、うまいこといきました。あの試合でのスクラムって、向こうも、こっちも、駆け引きというか。僕らが行きすぎたら押されるな…という感じ。だから、向こうが仕掛けてきたら、こちらも仕掛けるというような感覚。何回か、向こうが仕掛けてきたスクラムもあって、ぐっと耐えながらプレッシャーをかけられた部分もある。お互い、行く、行かないというのを探り合いながらやっていた感じです」
昨秋の対戦時はスクラムで苦しみ、13—52で敗れていた。1年後の再戦で進歩を証明したと言える。
「僕はイングランド代表が初めてで、どうかわからないですけど」
身長180センチ、体重104キロの37歳。3度目の出場となったワールドカップ日本大会を初の8強入りで終えると、しばらく代表活動と距離を置いた。
2020年以降の帯同は昨夏の限定復帰だけに留め、それ以外の時間は信頼する佐藤義人氏に費やした。同氏のトレーニングで、身体の使い方を磨いた。
おかげで大男と衝突されてもその場で踏みとどまったり、逆に弾き飛ばしたりできるようになった。かねて相手をかわし、パス、キックを自在に操れる万能選手が、より強靭になった。
「感覚、いいと思います。ここまで大きなケガもなく試合もできていますし、ああいう(いい)スクラムもできたので」
ここから続くのは、この人が一線級であり続けるための職業倫理だ。
「自分のなかで、天井を作りたくない。もっともっと…という感覚ではいます。いい状態ではいますけど、もっとできるようになりたいし、もっとやらなあかんこともいっぱいあるだろう…と。最後まで、不安だと思いながらやっていかないと。どこかで慢心して『大丈夫』となると、下がっていってしまうというの(危惧)もある。常にいいコンディションでいいプレーができるように『まだ、いけるんじゃないかな』と頑張っていきたい」
競技そのものへの造詣も深い。ここから証言をするのは堀越康介。フランス大会でHOの定位置を争う28歳だ。選考合宿での練習において、堀江の凄みに触れた。
「ディフェンスの時のトークの量が、異次元です。上からグラウンドを見下ろしているようなコミュニケーションを取っているんです。(異なるポジション群の)SHにも指示を出して動かしている。見習う部分が大きいなと」
ポジションを超越した立場で、チームの戦術遂行に微修正を加えられるわけだ。なぜそのようにできるのかを堀越が聞いたら、堀江に即答された。
「システムをわかってれば、できるで」
苦笑した。
「そんなに簡単な話じゃないな、と思いながら聞いていました」
日本代表は、今大会でここまで1勝1敗。負けられない予選プール終盤戦へ、堀江は「次に向けて、どういう準備をしなければならないかに目を向けよう」と意識。自分を、競技そのものを、さらにはチームを俯瞰し、飄々と勝利を目指す。