トップイースト開幕。リーグワン入りを狙う日立は大勝で好発進
ワールドカップフランス大会での日本代表の奮闘もあり、盛り上がりを見せるラグビー界。しかし、熱い戦いはなにもワールドカップだけではない。
東日本の社会人チームで競われるトップイーストリーグも開幕し、各地で激戦が繰り広げられている。
今回はその中から、9月17日におこなわれた日立SUN NEXS茨城(以下、日立)とクリーンファイターズ山梨(以下、山梨)の試合の様子をお届けしたい。
まず、トップイーストリーグの現在の位置付けについて少しおさらいしておきたい。
社会人のトップカテゴリーであるリーグワンが、ディビジョン1〜3に分かれている。
その下部リーグとして、全国にトップイースト、トップウエスト、そしてトップキュウシュウが存在する。
これら各地区リーグとリーグワンには、いわゆる「入替戦」の制度は存在しない。リーグワンとはあくまで別な理念で運営されるリーグというわけだ。
ところが今年になってリーグワン側から新規参入チームの受け入れが発表された。
リーグワン参入の条件は、主に資金や観客動員などの運営面。もうひとつは、当然ながら競技力のレベルがリーグワンチームにふさわしいレベルにあること、ということになる。
少々前置きが長くなったが、今回対戦した2チームのうち日立は、このリーグワン入り申請をしているチームの一つである。
9月17日おこなわれた試合も、観戦スタンド付きのスタジアム、地元ファンのために物販をおこなうPRテント、さらに飲食の屋台もでるなど、さながらリーグワンのための運営のシミュレーションといった趣の盛り上がりだった。
そんな地元の熱量を感じる試合会場につめかけた600人を超えるファンの目の前で、13時にキックオフの笛が吹かれた。
開始早々のPGで日立が先制するが、すぐに山梨の重量FWが押し込み、最初のトライはアウェーの山梨に献上してしまう。
◆2023年、両チームの新戦力は?
ここでちょっと両チームの新戦力についてみてみよう。
クリーンファイターズ山梨といえば、マパカイトロ・パスカ、クリスチャン・ロアマヌら、トップリーグ時代から実績のある外国出身選手を多数抱える。パワーラグビーが売りのチームだ。
今シーズンはそこにさらにルーカス・ボイラン(前・豊田自動織機)、タウマファイ竜(元・三菱重工相模原ダイナボアーズ)が現役復帰するなど、さらにパワーのある新戦力が加わっている。
一方の日立といえば、昨シーズンまではスピードを武器としてきたチームという印象だった。
しかし、今シーズンはPR崔暢賢(チェ チャンヒョン/帝京大学)やFL當眞真(とうま しん/流通経済大学)などの新人も加わり、スピード以外のプレーにも期待が持てそうな顔ぶれが加わっている。
春に実施されたトップイースト春季トーナメントでも、上位のAグループを食って2位となった。新人の加入効果以上に、チーム全体の状態がよくなっている。
日立の成長は早速スクラムでみられた。そのスクラムはとにかく重い、押してくる、崩れない。
重量級であるはずの山梨スクラムがみるみる後退してゆく。
ラグビーの試合の流れは、やはりスクラムで押しているチームに傾く。
前半16分、ゴール前で押し込んだスクラムから飛び出したFL中村龍太郎(流通経済大学)が逆転のトライを奪った。
28分にもほぼハーフウェイライン付近のスクラムを押し込んだ日立が、山梨のディフェンスラインのほころびを突く。一気にゲインし、これまた中村がトライを奪った。
一方の山梨はマイボールスクラムでも余裕がない。すぐにヒールアウトして展開せねばならず、攻撃パターンを封じられてしまった格好だ。
ちなみにこの日は、風もあったせいか日立はノットストレートの反則が目についた。しかしその後も相手スクラムを上手く対処できるため、冷静にプレーできていたように見えた。
その「落ち着きの差」なのか、じわじわと点差が広がり、SH伊藤海(大東文化大)のトライ、前半終了間際にはSO田中健登(立命館大学)がハーフウェイラインからの50メートル PGも決める。前半は33-10での折り返しとなった。
◆何かを変えたわけではない、元々のやるべきことをやっている
後半に入っても山梨はペースがつかめない。差し込まれた状態からのディフェンスでどうしても反則がでてしまう。
実にこの日16のペナルティ。3人がシンビンを喫してしまい、80分のうち30分を14人で戦ったことになる。
さすがにそれでは勢いのある日立には立ち向かえない。
それでもなんとか後半23分、モールからFL森賢哉(山梨学院大)が抜け出し、最後はPRの佐藤孔太郎(新潟工業高)がインゴールに飛び込んだ。
意地の1トライを返した。
しかし山梨の反撃もここまでだった。
後半33分過ぎから山梨は再三ゴール前に迫り、約5分間におよぶノンストップの猛攻を続けた。日立ディフェンス陣はこれを耐え切った。
80分のノーサイド寸前の時間帯は、すでに両チームがスタミナを出し切った状態。死力を尽くした攻防だった。
最後は山梨がノックオン。日立のディフェンスに軍配があがった。
観客席からはこの攻防に惜しみない拍手がおくられた。
試合結果は、日立が後半も着実に加点して大量得点を奪う。61-17と大差をつけ、リーグ戦初戦を勝利で飾った。
「今シーズンはセットプレーにこだわっている。今日は初戦ということで固さもあったのだが、スクラムでプレッシャーをかけれたことで、流れを引き寄せられた」と振り返ったのは、日立を率いる内田剛監督だ。
「あとは、選手たちがのびのび、自分たちのラグビーに集中できる環境を用意してあげたことだと思う」と続けた。
冒頭に触れたリーグワン入り、地元の盛り上がりの様子について質問すると、以下のような答えが返ってきた。
「日立という地域との結びつき、日立グループをはじめとする地元の支援者の方など、もともと備わっているものはあった。特に変えたことというものはない。それらをアップデートして、ラグビーの力にかえてゆけばリーグワンに行けるのではないかと思う」
リーグワンが掲げる地域との連携という点では、日立以外にも秋田ノーザンブレッツRFC、ルリーロ福岡、さらにリーグワン参加申請はしていないが今回の対戦相手の山梨など、トップイースト、ウエスト、キュウシュウにはローカル色豊かなチームが多い。
今後リーグワンのチームが全国各地に広がり、地域のラグビーファンを楽しませてくれる日がくることを期待せずにはいられない。
「ただ、(リーグワン入りには)上位のチームに勝たなければならないので、競技力の面でまだそこにむけた第一歩だと考えています」
内田監督は謙遜気味にそうしめくくり、引き締まった表情を見せた。
地元の期待に応えて日立フィフティーンがどこまでやってくれるのか、今シーズンが楽しみだ。