ワールドカップ 2023.09.22

「1人でも欠けたらこのチームは前に進めない」。プールD突破へ負けられぬ日本代表という塊。

[ 向 風見也 ]
「1人でも欠けたらこのチームは前に進めない」。プールD突破へ負けられぬ日本代表という塊。
左から堀越康介、垣永真之介、シオネ・ハラシリ(撮影:向 風見也)


 ワールドカップはどうか。

 28歳の堀越康介は、今度のフランス大会に日本代表として参加。4年前の日本大会時は直前合宿でメンバーから漏れ、今回、念願のスコッド入りを叶えている。

 開幕13日目にあたる9月20日、憧れの大会に参加してみての印象を聞かれた。

「レベルが違う」と応じた。

「街全体、フランス全体が盛り上がっています。(入国時の歓迎)セレモニー、試合会場の雰囲気と、いままで自分が経験したこともない場にいると思っています。いま、充実していますし、楽しい大会になっています」

 堀越と同じく、垣永真之介もこの秋初めてワールドカップを経験する。2015年のイングランド大会前にも、日本代表の最終選考へ絡んでいた31歳。グラウンド内外に目を向けて言う。

「街でも声をかけられますし、試合の強度も、レベルも本当に上がっている。これがワールドカップなんだなと、実感しています」

 ここまで1勝1敗で勝点5。2傑が決勝トーナメントに進めるプールDで、5チーム中暫定3位につく。残る2試合では、同2位のサモア代表、同4位のアルゼンチン代表と順にぶつかる。

 2大会連続の8強入りへ、23歳で今回が初陣のシオネ・ハラシリは言い切る。

「あと2試合。皆でいいチームにして、勝ちに行きたいです」

 ここまで出場機会のない3人だが、それぞれが組織の当事者であると自覚する。

 トンガ出身で口数の少ないハラシリは、事前合宿地にイタリアにいた頃から裏方のひとりひとりへ笑顔で「チャオ!」「ボンジュール!」などと挨拶。使った部屋の掃除や片付けを率先して手伝う。

 チームは試合を終えるごとに、グラウンド内外で貢献度の高い選手に「グローカル賞」を与える。

 スタッフの投票制で複数名が選ばれるなか、ハラシリは2戦連続で受賞。練習中のパフォーマンスをチェックするコーチ陣からも、普段の動きをよく見るメディカル陣からも、一定の票を集める。

 10日のチリ代表戦(スタジアム・ド・トゥールーズ/〇42-12)後に至っては、左PRのハラシリに加え堀越、垣永といったFW第1列の3名が「グローカル賞」をもらった。

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる日本代表では、試合がある週の前半のうちに出場メンバーを定める。

 このタイミングで控えに回った選手は、すぐに対戦国の分析に注力。練習では相手のプレーをまねして、出場選手にプレッシャーをかける。その強度、精度が、試合当日の出来を左右しうる。

 FW第1列の控え組は、攻防の起点となるスクラムの練習に熱を込める。

 17日、スタッド・ド・ニースでの第2戦で前回準優勝のイングランド代表と対峙。12-34と惜敗も、スクラムを安定させた。

 その前段階では、ハラシリ、堀越、垣永が、イングランド代表の組みたそうな形で圧をかけていた。

 昨秋にイングランド代表と対戦した際はスクラムで苦しんでいたとあり、この夜は進歩を示したとも言える。

 いったい、何を改善したのか。

 右PRの垣永は「あまり詳しくは言えないのですけど」としつつ、「簡単に言うと、相手の土俵に立たない」よう意識したと述べる。

 長谷川慎アシスタントコーチの教えに沿って8人が一枚岩となり、組み合う瞬間に「相手の姿勢を窮屈にする」のが日本代表の立ちたい「土俵」。大きな敵でも、背中が曲がる、膝が浮くといった力の出しづらい「窮屈」な格好にしてしまえば、小兵にあたる日本代表とて押し返せる…。

 本番当日にそんな「自分たちの土俵」に立てるよう、主力組は練習時から相手の目指す形、間合いを踏まえ、微修正を重ねる。

 17日までにその試行錯誤を促してきたのが、「仮想イングランド代表」の面々だった。その一員だった垣永はこうだ。

「足がどうだ、首がどうだとすごく細部にこだわって、自分たちの土俵に引きずり込む。相手が自分たちに合わせさせるよう、対策しました」

 HOの堀越は「フロントロー3人だけではなく、バックファイブ(FW第2列以降のLO、FL、NO8)に対してどうアピールするか」も大事だと補足する。

 長谷川流のスクラムには、組み手の8人それぞれにタスクがある。後列5人の姿勢、前列と後列との距離感の妙も、相手を「自分たちの土俵」に引きずり込むには疎かにできないと言いたげだ。

「『こういうケースはこう』というものを、全員がわかるようなナレッジ(知識)を日本国内の試合(7月から5試合をおこない1勝4敗)でつけてきた。いまはいろんなシチュエーションがあるなか、『こういうスクラムの時はどうする?』とバックファイブの選手に答えを聞いても、皆、同じ答えが返ってくる」

 そういえば7月22日のサモア代表戦(札幌ドーム/●22-24)の序盤、相手と遠い間合いで組み、体格に上回る向こうの重さで潰されることがあった。

 途中から、LOで今年初代表のアマト・ファカタヴァらが足の置く位置をやや前に再設定。するとスクラムの塊全体が前がかりにでき、サモア代表を「窮屈」にして形勢を逆転した。

 トライアル・アンド・エラーを肥やしに、いまの好パックを作り上げている。

「そういうところが、イングランド代表戦でいいスクラムが出た要因かなと思います」
 
 堀越は安堵した。

「(自身がプレーできないため)もちろん悔しさはあるんですが、その悔しさをどう出すかが大事だと思っている。まずはチームファーストを考えながら、自分の役割を全うする」

 仮想イングランド代表としてスクラムを組むだけではなく、主力組だけでおこなうラインアウトの練習を見学。グラウンド上での主力組の会話にも耳を傾け、「ミーティング以外の場で変わることもある」というチーム戦術の流れを把握しておく。

 主力組にけが人が出た場合、すぐに代役を果たせるよう備える。

「悔しさ」をどん欲さに変える。内なる競争心で、集団に生気を宿す。

 垣永は、大会前にジョセフに言われた言葉を肝に銘じている。

「1人でも欠けたらこのチームは前に進めない。皆が役割を遂行して、勝っていくんだ」

 本当にその通りだと思っている。

 チームは21日までにモナコからトゥールーズへ移り、現地時間28日のサモア代表戦を見据える。

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