日本代表ジェイミー・ジョセフHC、フランス大会初戦の23人をどう選んだ？

　主将の姫野和樹は、ほとんどのタイミングで静かに言葉を選んでいた。

「チーム状態はいいです。自信を感じます。エキサイトした気持ちが強いです。主将としては同じ絵を見てプレーする、過ごすことにフォーカスしています。リーダーが同じ絵を見せ、やるべきことにフォーカスを当て、リーダーシップを取れたら。この一戦ではそこが重要になる。時には力強い決断も必要になる。そこで臆さずに決断し、チームとして同じ絵を見てプレーしていきたいです」

　ラグビー日本代表は現地時間9月8日、２日後に迫ったワールドカップフランス大会初戦のメンバーを発表した。

　姫野はこの日、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ（以下、HC）とともに会見。NO８で先発予定も、この日トゥールーズでおこなわれた練習は欠席していた。右腕にはテーピングを巻く。

　状態はどうか。本人は強調する。

「きょうはコンディション調整をしました。（試合は）大丈夫だと思います」

　こう話すのを受け、ジョセフHCは笑みを浮かべた。

「ちょっと１日、休ませました」

　対するチリ代表は今回が初出場。次戦以降は前回準優勝のイングランド代表をはじめ、難敵が続く。ジョセフHCはこうも言う。

「2019年とはドローの形が似ている」

　初めて８強入りした４年前の日本大会では、２大会ぶり２度目の出場だったロシア代表と初陣で激突。再三のミスで後手を踏みながら、30-10で制している。その翌週、開幕前には一時世界ランク１位だったアイルランド代表に19-12で勝利。以後、予選プールで４連勝した。

　つまり、快進撃を遂げた４年前のチームにとっても、初戦は鬼門だった。

　今度のスターターのうち、初めてワールドカップを体験するのは６名。姫野は、日本大会のロシア代表戦を思い出し、少し頬を緩める。

「（若手には）あとは自信を持ってやるだけ。何も不安になることはない。自分たちがいままで積み上げたことを信じ、仲間を信じ、自分を信じてやるだけだ。…そう伝えます。僕のロシア代表戦のファーストプレーは、ノックオンです！　…若い選手、初出場の選手には、思い切って、自信を持ってやってくれと言いたいです」

　初出場組のひとりは、LOのアマト・ファカタヴァだ。

　今季初代表ながら台頭も、８月５日のフィジー代表戦（東京・秩父宮ラグビー場／●12-35）で足首を負傷していた。

　8月15日に発表の大会メンバーからは漏れたが、バックアップメンバーとして事前のイタリア遠征などに帯同。その後、ハイペースで回復し、大会側の設けた登録期限である28日までに他選手との入れ替わりで登録された。

　ジョセフHCは続ける。

「ロックとしてフィジカリティ、モビリティ、フィットネスの高い選手。無口ですが、存在感は大きい」

　ファカタヴァと同時にバックアップから昇格の下川甲嗣は、FLで先発する。ジョセフHCは期待をかける。

「今回の厳しいFWの戦いで、彼の仕事量を求めています」

　BK陣では、ジョセフHC曰く「経験」が重視された。

　流大、松田力也の司令塔団、その２人を後方支援するインサイドCTBの中村亮土は日本大会組。指揮官は続ける。

「力也は一時、（怪我で）ラグビーから離れましたが、これまで時間をかけてコンディションを上げてきていると思います。（出身の帝京大時代から親しい）流、亮土とのコネクションもいい。

　松田本人はこうだ。

「自分のプランを全うしてチームの勝利に貢献できるように。いまできることを 100パーセントやり続けたいなと思っています」

　松田の務めるSOでは、これまで22歳の李承信が重用されてきた。しかし重圧と無縁の今度の試合に向け、ジョセフHCは「プレッシャーを軽減させてあげました」と話す。

　ジョセフがこう話す隣で、トヨタヴェルブリッツ所属の姫野は白い歯を見せた。

「李はまだ若い。いまは、それまでずっとトヨタの車に乗っていたのに、レンジローバーに乗っているようなもの。これからの選手です。もちろん質が高い選手でもあるので、大きなところで、大事な選手になるのは間違いない。ただ、いまはプレッシャーを軽減させ、彼のやるべきことを理解していく段階にあると思います」

　バックスリーでは、今季ほぼ不動のメンバーが位置を入れ替えた。

　今大会でジョセフHCがFBのファーストチョイスとしてきた松島幸太朗は、昨年までの定位置だったWTBへ移った。FBにはWTBのセミシ・マシレワが入った。

　マシレワは、2021年６月のアイルランド代表戦でもFBを担っている。そのためジョセフHCは、この組み合わせに不安はないとする。

「松島は日本代表でプレーするにはFBよりもWTBの方がいいと思います。（FBには）たくさん喋って欲しいが、彼は言葉少な。ただしアタックに関しては申し分ないです。WTBで起用することで、松島の責任は少なくなるのではと思っています。今回のゲームでは、WTBのほうがふさわしい」

　今後もそうするのかと聞かれ、「そうとは言っていないです」と応じた。

　チリ代表戦は10日の現地時間13時（日本時間同日20時）、スタジアム・ド・トゥールーズでおこなわれる。