ワールドカップ 2023.08.25

ジョセフラグビーの申し子。日本代表クレイグ・ミラーは猛練習も「楽しんでいます」

[ 向 風見也 ]
ジョセフラグビーの申し子。日本代表クレイグ・ミラーは猛練習も「楽しんでいます」
7月のサモア戦でプレーするクレイグ・ミラー。日本代表12キャップ(撮影:松本かおり)


 これが選んだ道だった。

「日本の夏は苦しかった。午後、ずーっと(グラウンドに)いなければいけない。他の国の夏を味わいたいです」

 32歳のクレイグ・ミラーは今年、ラグビー日本代表としてワールドカップ・フランス大会に挑む。多国籍からなる候補選手は6月中旬からの浦安合宿でしのぎを削り、7月以降は拠点を宮崎に移した。

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 猛暑日も、概ね予定通りに練習は進んだ。この時期に来日したある他国代表が、予定していたトレーニングをキャンセルするのとは対照的だった。

 渦中、母国の家族から写真が届いた。出身のニュージーランドは南半球。北半球の日本と季節が真逆なだけに…。

「雪のなかの写真です」

 自分が過酷な立場に置かれているのを、改めて思い知らされるような。晴れてスコッドに選ばれたのち、通称「ミルジー」は穏やかに笑った。

「(家族とは)まったく違う環境でした。でもその状況を、受け入れるしかない」

 2018年に来日した。当時、スーパーラグビーに日本から参戦していたサンウルブズに入ったためだ。

 サンウルブズのヘッドコーチはジェイミー・ジョセフ。その頃からいまも現日本代表を率いている。ミラーがかつて在籍した、ハイランダーズの指揮官でもあった。

 縁のあるジョセフのもとで首尾よくプレーするには、どんな心掛けが必要か。

「言われたことを、やるだけです」

 サンウルブズではジョセフの陣頭指揮のもと、自衛隊キャンプを実施。団結力が重んじられた。互いに助け合うチーム文化へ好印象を持ったミラーは、次第に、日本代表にも「選ばれたらいいな」と考えるようになった。継続3年という居住期間をクリアし、2021年、願いを叶えた。

「ジェイミーは新しいリーダーシップをどんどん採り入れ、それを表に出していくことでチームの環境を作っている」

 最前列の左PRとして組むスクラムについて話すなかでも、ジョセフ率いるチームのよさに触れる。

「(組み方や押し方について)こちらから助言したり、年齢に関係なく助言をもらったりします。お互いのやりたい方法をすり合わせていくのが大事で、そうできるのがこのチームの強みです」

 身長186センチ、体重116キロのサイズで突進力、運動量に長ける。よくボールを動かすいまの日本代表にもフィットする。

 今年は、件の合宿でさらにタフになった。

 浦安合宿には、オーストラリアからジョン・ドネヒュー スポットコーチが訪れた。毎朝、グラウンド併設の白いテントへ選手を集め、秘密の特訓を敢行した。格闘技の要素があるタックルセッションを、約1時間半ぶっ通しでおこなったのだ。

 誰かが膝に手をつけば、それまでしていたセッションを全員でやり直し。コンタクトの技術に加え、戦う姿勢を問うた。
 
 ミラーは、努めて前向きに振舞っていた。

「もちろんハードですが、自分は楽しんでいる立場です。あのテントにいるのは痛めつけられるためではない。よりよい選手にしてもらうためです。トレーニングのメリットも感じています。(国際舞台では)フィジカルの準備ができていなければ勝てないのがわかっている。その意味ではいい準備ができている」

 この季節、日本で実施した試合は1勝4敗と負け越したが、悲観はしていまい。自身を導いてきたジョセフが今大会限りで日本代表を退くなか、「素晴らしい仕事をしてくれた。常にいつも忙しくしていますし、彼にとってこの仕事がどれだけ重要なのかがわかります」と謝辞を述べる。

 現所属先の埼玉パナソニックワイルドナイツでも、資格取得を経て加わった日本代表でも、同じ位置の稲垣啓太とともに出場時間を分け合うことが多い。8月26日に敵地であるイタリア代表戦では、スターターを担う。

「プロとして競争し合うのは自然なこと。1番(先発)か17番(リザーブ)か。どちらで出ても、チームのために戦うことは変わらないです」

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