国内 2023.08.08

「やり切った」が訪れた。杉永亮太(横浜キヤノンイーグルス)

[ 編集部 ]
「やり切った」が訪れた。杉永亮太(横浜キヤノンイーグルス)
周囲が求めるプレーを追求する選手だった。写真はラストゲームとなったグリーンロケッツ戦。(撮影/松本かおり)



 引退は自分で決めた。
 ラストイヤーとなったリーグワン2022-23も6試合に出場した。
 まだやれる力はあった。

 しかし杉永亮太は、6歳から続けてきたラグビーライフに自ら終止符を打った。
 やり切った。そう感じたからだ。

 横浜キヤノンイーグルスに入団したのが2015年春。今年6月で31歳になった。
 ラストゲームとなったのは第14節、4月9日のNECグリーンロケッツ東葛との試合だった。
 後半23分からピッチに出た。

 実はその試合の前には、シーズンが終わればブーツを脱ごうと決めていた。
 ライザーズ(控えチーム)のひとりとして、豊田自動織機シャトルズ愛知(3月31日)との練習試合に出場して感じたことがあったからだ。
「ラグビーを楽しめていない自分がいました」

 結果的に、その試合のパフォーマンスによりグリーンロケッツ戦の出番をつかんだのだが、自分の気持ちの変化に気づいた。
「シーズン中も悩んでいました。その結果、まだ続けようと、一度は決めたのですが」
 最終的には、自分の気持ちに正直になった。

 その1年前、リーグワン2022が終わったあと、チームから「ご苦労様」と言われた。
 その前年は活躍が認められ、イーグルス内のMVPに選ばれた。しかし、ケガもあった2022年シーズンは途中出場の3試合だけ。「(引退宣告を)言われた時はビックリした」が、パフォーマンスに波があると指摘されたことがあった。
 受け入れるしかなかった。

 そんな状況から一転してもう1季、2022-23シーズンもプレー続行となったのは、チーム事情からだった。
 新たな気持ちで社業に専念する決心をした矢先、「もう一度やらないか」と声をかけられて心は揺れた。

 だって、一度はいらないと言われた身だ。続けたところで出番が回ってくるはずがない。
 それでも現役続行と決断したのは、「心の中に小さな火があった」からと、当時の思いを表現する。
「チャレンジしたい気持ちがあった」と話す。

 再スタートを切る際に誓ったのは、シーズンの最後の最後まで怪我なくグラウンドに立ち続けることと、チームにコミットし続けることだ。
 あらためてチャンスを与えてくれたチームに対し、全力で応えようと誓った。「前だけを見て進もうと思いました」。

「引退と言われ、初心に戻れた」と言う。
「自分ではいつも出し切ってやっていたと思っていましたが、そうではなかったので、去年のようなことになったと思います」

 絶望がスタートの2022-23シーズンは、1試合も出られないのが当たり前と思っていた。
 だから、第4節の花園近鉄ライナーズ戦に先発で起用され、80分プレーできたときには心が震えた。

 結果的に6試合に出場。チームは史上最高位の3位となった。
 自身もシーズン最後までグラウンドに立ち続け、当初立てた目標を達成する。チームから翌年の進退について打診もあったから、続けられる道はあったはずだ。
 しかし、前述のように引退を決めた。

 人の気持ちは理屈では説明できない。
『気合いを入れて試合に出てみたらラグビーを楽しめていない自分がいた』理由は、本人にも明確には分からない。

 一年前の引退宣告は発奮材料にしたはずだった。
 あのことを気持ちの変化の理由にしたくないし、する気もない。「やり切った」と思える時期が不意に訪れただけだ。エナジーを使い切った。
「幸せなラグビー人生でした」と笑って言える。

 長崎ラグビースクール出身。
 長崎南山高校では2年時に花園に出場する。3年時には高校日本代表に選ばれた。

 帝京大に進学。日本代表として活躍する流大が主将を務めた代で、3年時からレギュラーとなる。
 6連覇を達成して卒業。4年時の日本選手権ではNECグリーンロケッツにも勝った。

 すべての面に秀でている選手ではない。しかし、いつもチームに必要とされてきた。
「自分が何を求められているか理解してプレーしてきたからだと思います」と自己分析する。

「目立つ選手ではありません。そんな自分のことを見てくれている人が、いつもいてくれた」と感謝する。
「小学生の頃の僕を知っている人たちは、トップのチームでやっている姿を見て驚いていたと思います」

 ラグビーとは何らかの形でかかわっていきたい。チームの活動をバックヤードで手伝えたらいいな、とおぼろげに考えている。

 将来、誰かにラグビーを教える機会に恵まれたら、自分のように目立たない選手の声に耳を傾け、声をかけてあげたい。
 サポートプレーは身に染み付いている。

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