日本代表の稲垣啓太は言う。「負けているので、何を言っても意味はないです」
やられたらやり返す。
先制されて迎えた自軍キックオフ。敵陣22メートルライン上左の接点で、ラグビー日本代表の稲垣啓太がジャッカルを決める。対するオールブラックスXVの反則を誘った。味方が直後のペナルティゴールを決めたことで、3-5と点差を詰めた。
7月15日、熊本・えがお健康スタジアム。失点した直後のファインプレーで得点機を手繰り寄せた稲垣は、先発して後半22分に退くまで献身した。自陣ゴール前での強烈なタックル、失点を防ぐモールディフェンスで渋く光った。
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何より最前列の左PRとしてスクラムを組めば、「押す方向を整えた」。中央に入るHOの堀江翔太や坂手淳史とともに、右PRの具智元へ身体を寄せる。後方から押し込む5名とともに8人一体の塊を作り、先発FWの総重量で約30キロも大きな相手を苦しめた。
「僕たちが進むべき方向に進めば、相手が誰であっても、同じ方向に進める。自分たちがどうするかにフォーカスしました」
ただし前半36分頃の自軍ボールでは、日本代表が稲垣の側から崩れる形で反則を取られた。「いけるという感覚があっただけに、レフリーに介入させてしまった」とのことだ。
「3番(右PR=具)の方向性を整えてあげるために、1番(左PR=稲垣)がヘルプに行く。となると、相手の3番(対面の右PR)はどうなるか。(向かって塊の外側からかかる圧力によって)内側へと落ちやすくなるんです」
ラグビーでは、わざと塊を崩した方がペナルティと判定される。ただし、互いに押し合うスクラムが壊れた時、どちらの側に笛を吹くかは熟練のレフリーにとってもジャッジが難しい。
問題の1本では、「…(日本代表の)印象が、よくなかったですね」と稲垣は漏らす。
試合後のミックスゾーンでは、自らの活躍を誇るそぶりはなかった。手応えのあったスクラムで残念な場面があったうえ、試合を落としたからだ。27-41。
「もちろんいい時間帯もありましたし、自分たちがいいプレーをした瞬間もある。ただ、結局、負けているので、何を言っても意味はないですよね。よかった部分もあったんじゃないですか。ただ、僕は結果で負けていること以外は(感想に)入っていないので」
特に、攻撃中のミスでトライを獲りきれなかったのが悔やまれるという。
「テストマッチ(代表戦)では何回もチャンスがあるわけではない。そこで何回もボールをロストして、(相手の)ビッグゲインからスコアにつなげられるというのは、よくないですね。最初のセットプレー(攻防の起点)からのボールプレーは何フェーズか、(動きが)決まっているんです。ただ、(この日は)そこから逸脱してしまう瞬間も、たまにありました」
前週から続く同カードは、2連敗となった(初戦はJAPAN XV名義で臨み6-38)。
ワールドカップのフランス大会を今秋に控え、チームは対外試合を重ねて試行錯誤を繰り返している。数年来の積み上げや今年6月中旬からの猛練習でインストールした戦術、フィジカリティを、実戦で磨く。
33歳の稲垣は、この一戦を今年初の代表関連試合とした。
身長186センチ、体重116キロ。自身にとって3度目となるワールドカップ出場を視野に、反省を肥やしにする。
「いい方向には向かっていると思います。結果が出ていないので何とも言えないですし、ファンの皆さんにも申し訳ないですし、僕自身もすごく悔しいですけど」
7月22日からは、環太平洋諸国とのパシフィックネーションズシリーズに挑む。