コラム 2023.06.15

【ラグリパWest】建築とラグビー。高橋凛 [東海大学/PR]

[ 鎮 勝也 ]
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【ラグリパWest】建築とラグビー。高橋凛 [東海大学/PR]
奈良県ラグビー協会の招待試合、天理大戦に先発した東海大のPR高橋凛。工学部の建築学科に所属している。体育会ラグビー部では珍しい理系男子だ。敗戦のため、その表情はさえない



 東海大で建築を学ぶ。設計製図を引き、構造物の模型を作る。その上でラグビーをやる。両立のため、高橋凛は忙しい。

「以前、土曜日は全体練習に出られないこともありました。その時は空いている時間に個人練習をしました。1時間ほどです」

 わずかに顎をそらせる。丸く黒い眼(まなこ)は意志の強さが垣間見える。

 この春、大学4年生になった。新入生を含めたラグビー部の選手数は176人。中心は体育学部である。工学部の建築学科は珍しい。
「僕と2年生の原口の2人だけです」
 原口慎太郎はPR。高橋と同じ位置だ。

 高橋は176センチ、100キロほどの体で、スクラムの左前を任されている。昨年度から公式戦に出だした。今秋、チームは関東リーグ戦でリーグ最長となる6連覇に挑む。

 高橋はこの春、最上のAチームで戦っている。戦績は2勝3敗。高橋は5戦すべてに出場し、先発3、交替2を記録する。直近の試合、6月4日の天理大戦も先発した。

 天理大戦は奈良県ラグビー協会の招待を受け、天理親里ラグビー場であった。スコアは20−48(前半10−29)。大阪の東海大仰星出身の高橋にとって、関西という広義におけるご当地試合を白星で飾れなかった。

「スクラムは押せていた部分もあったけれど、全体としてチームに勢いを与えることができませんでした。責任を感じています」

 前半3分、ファースト・スクラムで高橋はぐっと前に出る。天理大からコラプシングを奪った。その優位さをキープできなかったことに落胆がある。

 そもそも、東海大には不利があった。主将のFB谷口宜顕(よしあき)、SO武藤ゆらぎをはじめレギュラークラスの4年生6人が教育実習で抜けていた。指揮官も不在だった。監督の木村季由(ひでゆき)は家庭の事情でこの遠征に帯同できなかった。

 さらに、神奈川から奈良への移動は前日3日だったが、2日の大雨の影響を受ける。
「新幹線は2時間ずっと立っていました」
 ダイヤの乱れは続いていた。ただ、高橋の口からは事実説明があっただけで、言い訳めいたものは出なかった。

 この日、前座として高校の試合があった。母校は天理と対戦した。
「後輩たちには不甲斐ない姿を見せてしまいました」
 高橋は視線を伏せた。後輩たちも7−22で敗れた。東海は天理の高大に連敗した。

 高橋は付属校の推薦で大学に進んだ。高校時代の監督、湯浅大智は振り返る。
「元々、大学は建築一本で行くつもりでした。ところが高3で高校日本代表の候補に入った。それなら両立してみよう、となりました」
 代表入りこそならなかったものの、その能力は高校時代から高く評価されていた。

 湯浅は続ける。
「とにかく、よく走るPRでした。スクラムの強さは大学に入ってつけました。それだけの練習を積んだのだと思います」
 高2から公式戦に出場。高3時、最後の全国大会は99回(2019年度)。8強戦で御所実に0−14で敗れた。

 ラグビーと並ぶ建築に高橋が興味を持ったのは、小学校の時だった。
「友達の家に行ったら、その間取りや作りを見ることが好きでした」
 同年代の子が持つ鉄道や車や船への興味が、家屋敷に向いていた。

「衣食住の中で、住が占める割合は大きいと思います。そして、日々の人の暮らしに寄り添い、その機能性を高めてゆくところに、建築の素晴らしさを見いだしています」

 進む方向は歴史に残る建造物ではなく、普通の人々が生きる一般住宅である。すでにその施工・販売の会社から内定をもらっている。一級建築士の国家試験にパスすれば、設計できる建物の規模の制限はなくなる。

 仰星を選んだのは湯浅の働きかけだ。
「湯浅先生は中学に来てくれて、声をかけてくれました。内部進学で、建築の道に進むこともできる、とも教えてくれました」
 湯浅はやみくもに声をかけるだけでなく、中学生の将来にまで踏み込んでいた。

 高橋が競技を始めたのは7歳。大阪の阿倍野ラグビースクールだった。兄・拓夢の影響がある。3学年上の兄は大阪桐蔭から大阪工大に進んだ。高橋は中学こそ兄と同じ文の里(ふみのさと)だったが、そこから仰星を選んだ。そして、予定通りの人生になる。

 高橋が内定を得ている会社には、ラグビー部はない。
「卒業したら建築一本でいくつもりです。今のところ、クラブチームでラグビーをやる予定もありません」
 それゆえ、今年にかける意気込みは強い。

「ラグビーを続けてきた集大成を見せたい。目標は日本一です。そして日本一のFWになる。そのためにはセットプレーを安定させ、さらに自分の持ち味であるフィールドプレーでみんなを鼓舞できるようにしたいです」

 6月18日には帝京大と対戦する。関東春季大会の最終戦になる。帝京大は今年、大学選手権3連覇、通算12回目の頂点を狙う。東海大は準優勝が3回あるのみ。相手は春の仕上がり具合を知るのにふさわしい。

 高橋は両立の4年間を振り返る。
「厳しい環境の中で過ごさせてもらって、磨かれてきたのではないかと思います」
 帝京大戦は、高橋にとって、ラグビーで完全燃焼をして、悔いなく建築の道に進む大切な前段になってくる。


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