ワールドカップ 2023.05.18

大野均さんの熱い記憶。J SPORTSで放送・配信中の『ラグビーワールドカップ100選!』、終盤戦へ。

J SPORTSで「ラグビーワールドカップ100選!」 一挙放送・配信中!

[ 編集部 ]
大野均さんの熱い記憶。J SPORTSで放送・配信中の『ラグビーワールドカップ100選!』、終盤戦へ。
日本代表キャップ98は史上最多。ワールドカップには2007年、2011年、2015年大会に3大会連続で出場した。(撮影/大泉謙也)

 この秋、ふたたび大きな興奮を味わえる。そう思うと、いまから胸が高鳴る。

 J SPORTSで放送中の『ラグビーワールドカップ100選!』が楽しい。過去の興奮の記憶をよみがえらせてくれる。秋の熱戦への期待が膨らむ。この試合、スタジアムで見た。テレビの前で泣いたぞ。いろんな感情がわきあがる。

 5月18日からは2019年大会の全45試合が放送・配信される。多くの人に、多くの試合の記憶が深く刻まれているだろう。特に、サクラのエンブレムが日本列島を熱狂させた試合は語り継がれる熱い戦いばかりだった。

 日本代表最多キャップ98を誇る大野均さん(東芝ブレイブルーパス東京クラブ公式アンバサダー)も、「ジャパンの選手たちのパフォーマンスがたくましかった」と覚えている。2007年大会から2015年大会までプレーヤーとしてワールドカップ(以下、W杯)の舞台に立ち、4年前にはファンの一人として大会を楽しんだ大野さん。2019年大会の日本代表の試合を、「強くなったジャパンが誇らしかった」と振り返る。

 ロシア、アイルランド、サモア、スコットランドがいたプールAで全勝し、史上初めてノックアウトステージに進出した同大会。大野さんがあらためて強くなったジャパンを感じたのは、2戦目のアイルランド戦だ。

 当時の世界ランキング2位だった相手を、日本は19-12で破った。静岡のエコパスタジアムからビッグニュースが世界へ発信された。

「試合の最後、アイルランドの選手が自ら外へボールを蹴り出して試合を終わらせたシーンが印象的でした。攻めても点が取れない。ヘタをしたら、7点差以内の敗戦で得られるボーナス点も失ってしまうかもしれない。相手をそんなふうに追い詰める勝ち方でした」

アイルランド戦は序盤の20分を制されるも崩れることなく、後半福岡堅樹のトライで逆転勝ちした(撮影:Yuuri Tanimoto)

 試合前、ナショナルアンセムを歌う日本代表の選手たちの表情を見て、大野さんは「みんな、勝つためにそこに来ている」と感じた。
「大会への4年間を見ても、以前とはまったく違う準備をしてきていました。毎年のようにオールブラックスやワラビーズのような強豪と戦う。フランスと引き分けた試合もあれば、イングランドを前半リードした試合もあった。この大会で結果を出すためのことを準備してきた自信が感じられました」

 実際に試合が始まると、すぐにチームの成長を感じた。そう見えたのは、攻防の際の接点で十分に戦えていたからだ。

「アイルランドのアタックに食い込まれることなく、しっかり止めていた。みんなブレイクダウンからすぐに立ち上がり、それぞれの選手が散る。しっかりポジショニングして守っていました」

 大会初戦のロシア戦は緊張感もあったか、30-10と快勝とはいかなかった。しかしその勝利でチームは落ち着きを取り戻したように見えた。大野さんは、自身が出場した2015年大会のことを思い出す。初戦の南アフリカ戦のメンバーは試合の1週間前に発表された。

「先発で出ることが決まりました。4年間積み上げてきたものがあるので、それを出し切れたら何十点も差が開くような試合にはならないと思っていましたが、(一方で)大差で負けたら、もう誰も日本のラグビーを見てくれなくなる。そんなことが頭をよぎることもありました」

 試合当日。スタジアムに到着すると、気持ちがどんどん研ぎすまされていった。ウォームアップが始まった。ロッカールームからピッチに出ていく。
「そのときには力を出し切ることに集中しよう。それで出た結果がすべてだ。そんな気持ちになれていました」

 34-32。80分後、ブライトンの奇跡は起こった。

 2019年のアイルランド戦前、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチは「世界の誰もがアイルランドが勝つと思っている。ジャパンが勝つと信じているのは自分たちたちだけだ」と話し、選手たちを戦いに送り出した。

「2015年の南アフリカ戦も、戦う前は誰も日本が勝つとは思っていなかった。でも試合が進み、スコアが競ったまま終盤に近づいていくとスタジアムがざわつき始め、最後はそこにいる全員が日本を応援していました。そして、その熱気が選手たちの力になった。2015年の南アフリカ戦と、2019年のアイルランド戦の空気は似ていると思います」

 違うのは、2015年は相手の南アフリカが日本を下に見ている中で勝ったのに対し、2019年は警戒されている中で勝ち切ったということだ。大野さんは南アフリカと戦っている時、相手が慌てていく様子を肌で感じた。

「最初にモールを組まれたとき、これを徹底されたらやばいな、と感じるほど強かった。しかし時間が経ち、思っていたものと違う展開になったとき、相手はいつもはやらないことをやり始めた。そして反則の際に(トライを狙わず)PGを蹴り、安全策をとった」試合の流れが自分たちに来たと感じた。勝利に向かう時、モメンタムをつかむことは大切だ。

 2019年の日本はアイルランドにタックルの雨を降らせ、自分たちの強みを前面に出したゲームプランを遂行し続けた。
「いつもはおとなしい具(智元/PR)くんがスクラムを押してガッツポーズをしたり、気持ちが伝わるシーンがたくさんありました」
 

 チームとファンが一体となってつかんだ勝利は感動的だった。日本代表は、情熱的な試合を繰り返した。

 第3戦のサモア戦には38-19と勝利する。同大会でのチームの充実ぶりから考えれば順当な勝利も、特筆すべきは試合終盤にボーナス点獲得を狙った戦いを挑み、それを現実のものとしたことだ。
「2015年も、サモアに勝っています。しかし、ボーナス点は獲得できなかった。結局あの大会では3勝1敗でしたが、勝ち点差で次のステージに進めなかった。しかし、2019年のジャパンは狙ってポイントを取る勝ち方をやれた」
 その勝利は、W杯史上初めて日本が勝ち点5を得た試合となった。

【次ページ 大野さんとスコットランドの縁とは】

PICK UP