海外 2023.05.03

チーフス、今季2度目のクルセイダーズ撃破。SOマッケンジー、抜群のパフォーマンス

[ 松尾智規 ]
チーフス、今季2度目のクルセイダーズ撃破。SOマッケンジー、抜群のパフォーマンス
チーフスの勝利に貢献したLOブロディー・レタリック(左)とSOダミアン・マッケンジー。(Getty Images)



 今年のチーフスは本物だ。
 10節目を迎えたスーパーラグビー・パシフィック。開幕から負けなしで首位のチーフス、同3位のクルセイダーズが4月29日、ハミルトンにあるFMGスタジアム・ワイカトで対決、激戦の末、チーフスが34-24のスコアで勝利して全勝をキープした。

 両者は、2月24日にクライストチャーチでおこなわれた開幕戦で対戦している。後半クルセイダーズを無得点に抑えたチーフスが31-10の大差で勝利した。

 クルセイダーズがリベンジするか。それとも、今季絶好調のチーフスがクルセイダーズを返り討ちにするのか。ニュージーランド(以下、NZ)国内で同試合の注目度は非常に高く、レギュラーシーズンでは珍しくチケットが完売となった。

◆前半はクルセイダーズ優勢も、判定に泣く。

 機先を制したのはクルセイダーズだった。試合開始からエンジン。いきなり火を噴いた。
 ケガで数試合を欠場していた11番レスター・ファインガアヌクが持ち味の突破力を活かしていっきにゴール前まで突き進んだ。
 速いボールリサイクルを繰り返し、最後は140キロ超の巨漢PRタマティ・ウイリアムズがインゴールになだれ込んだ(5分/0-7)。

 クルセイダーズの序盤のパフォーマンスからは、この試合にかける意気込みが伝わってきた。今季これまで、なかなか波に乗れなかったのが嘘のようだった。

 その後もクルセイダーズの勢いは衰えず、トライを追加したかと思えるシーンは2度あった。しかしTMOに持ち込まれ、いずれもノックオンと判断される(特に2回目の判定はアンラッキーだった)。追加点のチャンスを微妙な判定により逃した。
 一方のチーフスはノートライながらも、10番のダミアン・マッケンジーが4つのPGで12点を獲得。内容ではクルセイダーズに押されながらも、12-7とリードしてハーフタイムを迎えた。

◆チーフス、シーソーゲームを制す。

 チーフスは後半、先に点を取って引き離した。
 HOサミソニ・タウケイアホがディフェンスを引きずりながら前に出る。速いボールリサイクルからBKに展開。マッケンジーがディフェンス3人を引き付ける。見事なオフロードパスが、FBショーン・スティーヴンソンの手に渡る。

 最後は、サポートについた背番号4がインゴールになだれ込んだ(45分)。この速い展開にも遅れないのがプロディー・レタリックの凄さである。
 19-7とリードを広げたチーフスが、そのまま勢いに乗るかと思われた。

 しかし、相手は昨年の覇者だ。黙ったまま終わるはずがなかった。
 クルセイダーズはゴール前ラインアウトのチャンスを掴むと、モールにこだわってトライを狙う。BKも加わった大人数のかたまりがインゴール直前で崩れた。レフリーは、ペナルティトライとジャッジした(53分)。
 7点が加算され、クルセイダーズが5点差に迫る。チーフスにはイエローカードが出た。

 数的にも有利となったクルセイダーズは、再びスイッチを入れて攻め立てる。1トライを追加した。
SOリッチー・モウンガの難しいコンバージョンも決まり、21-19と逆転に成功した(63分)。

 その後試合は、シーソーゲームとなる。両軍ひとつづつPGを決めて24-22。残り10分を切って、クルセイダーズが僅か2点上回っていた。ワクワクする展開。ファンは息をのんでピッチを見つめた。

 ここで、再び魅せたのがマッケンジーだった。

 中央付近のラックから、セカンドレシーバーとして深い位置でボールをもらう。ディフェンスのギャップがあるのを見逃さず、いっきに加速してラインの裏に出た。
 左外のスペースに顔を出したスティーヴンソンにきれいなパスを送った。

 ブレンドン・エノーの見事なカバーディフェンスに阻まれたかに見えた。しかし、スティーヴンソンは、タックルを引きずりながらもインゴールに持ち込んだ(73分)。
 現地実況も思わず吠えた。まさに、“アウトスタンディング”(抜群の)トライ。オールブラックス入りを存分にアピールする決定力を見せつけた。
 27-24とチーフスが再逆転。地元ファンで埋め尽くされたスタジアムがもっとも盛り上がった瞬間だった。

 ただ、決着はついていなかった。
 点差は3。残り時間は6分。逆転は十分可能。クルセイダーズはBKで攻め、前に出ようと試みた。
 しかし、チーフスのプレッシャーにミスが出る。ボールを奪われた。

 チーフスはゴール前に攻め込んだ。クルセイダーズはたまらず反則。PGを狙い、6点差にするかと思われて瞬間、黒いジャージーは試合を決めようとトライを狙った。
 FW戦に徹し、インゴールを目指す。速いリサイクルから、最後はタウケイアホに代わって入っていた若手のホープ、HOタイロン・トンプソンが低い姿勢で突進してインゴールに入った(79分)。
 トンプソンは、この一連のFW戦で2度も良い突破をして試合を決めた。

 チーフスは、クルセイダーズ相手に1シーズンで2度目の勝利。その勢いは、簡単には止まりそうにない。
 見応えのあるFW戦は、まるでテストマッチ並みの激しさだった。また後半は、華麗なBKの展開もありエンターテイメント満載だった。

◆注目の司令塔対決。

 この試合、多くの注目マッチアップがあった。一番の注目は、マッケンジー ×モウンガの司令塔対決だ。
 オールブラックスの10番でもあるモウンガは、それほど難しくないPGを前半2本外した。キッキングゲームも中途半端な印象だった。ラインブレイクは一度もなく、チーフスの圧力の前に、本来の『マジック』は影を潜めた。

 マッケンジーは、この試合でも強い印象を残すパフォーマンスを見せた。
 前半はクルセイダーズの圧もあり、キッキングゲームも含めておとなしい印象だった。しかし安定感があった。ゴールキックをしっかり決め、前半をリードする展開に持ち込んだ。

 後半のマッケンジーは、ギアを上げ、 ハリケーンズ戦に続き、試合全体を通じてうまくゲームを作った。
 クルセイダーズの最初のトライに絡むミスタックルはあったものの、後半の2つのトライに繋がるランプレーは、そのミスを忘れさせるくらい鮮烈だった。

 ブルーズのボーデン・バレット、この試合のモウンガとの直接対決は、いずれもマッケンジーが上回った。代表首脳陣に、タイトな試合で結果を出す司令塔として印象づけた。
 試合後、マッケンジーを称賛する声が、TV、ラジオのニュースにあふれ、ラグビーファンからも、高い評価のものが多く聞かれた。オールブラックスの10番を任せても良いのでは、という声も出てきている。

 スーパーラグビーとテストマッチは、違う土俵だ。しかし、黒衣の背番号10を着るマッケンジーも見たくなった。
 9戦全勝のチーフスはその勢いを受け、このまま突っ走るだろうか。


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